《完結》異常な女に好かれた男

ぜらちん黒糖

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⑧地獄のモテ期

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満里奈がゆっくりとドアホンのスピーカーをオンにした。

「はい」
「すみません、こんな時間に。梅沢ですけど。西山さんはここにいるんでしょう?私、待ってたんですけど、なかなか帰ってこないから呼びにきました」

部屋に響く結菜の声を聞いて、西山の胸は締めつけられるように苦しくなっていた。満里奈と一緒にいても、結菜と一緒に帰っても、どちらも地獄のような気がしたからだ。

しかし一つだけ気になることがあった。結菜の口調が嫌に大人っぽく聞こえたのだ。

満里奈が西山のほうを向いて尋ねた。

「どうする?西山さん。彼女と帰る?それともここに残る?」

返事次第で自分の立場が悪くなりそうな気がした西山は思わぬことを口走ってしまった。

「梅沢さんも中に入ってもらったら?」

「え?」満里奈の表情に戸惑いが見えた。

(葉山さんが動揺している。今がチャンスだ)これのどこがチャンスなのか分からなかったが、とにかく西山は結菜をこの部屋の中へ入れた方がいいと考えた。

「葉山さん、梅沢さんのことをよく知るチャンスじゃないか。中に入れて一緒に話をしようよ、ね?」

玄関前ではイライラし始めた結菜がバッグの中の包丁を手に取ろうと探し始めた。

その時、玄関のドアが開いた。

満里奈と結菜が顔を合わせた瞬間、結菜から詩織が消えて、満里奈は、本来の自分を隠した。

「あらあ、梅沢さん、どうしてここに西山さんがいるって分かったの?」

結菜がにっこりと笑って返事をした。

「スマホのGPSで居場所はいつでも確認できますから」

西山はそっとスマホの電源を消して自分の荷物をいつでも持ち出せるよう、手元に置いた。

鞄を脇に抱え身構えていると満里奈と結菜が入ってきた。

「西山さ~ん、私、待ってたんですよ?こんなところで何をしてたんですか?」いつものように可愛らしくしゃべる結菜。

「こんなところで悪かったわね、梅沢さん」と満里奈もしっかり者の葉山満里奈に戻っていた。



テーブルの前に二人掛け用のソファーが一つ。そのソファに今、真ん中に西山を挟んで両脇に満里奈と結菜が座っていた。

西山は今、人生で初めてのモテる男になっていた。大人の女性二人に挟まれて、しかもそれが水商売の女性ではなく、素人の女性だから、なおさら心の中では興奮していた。

西山にとって、すっぴんの結菜はタイプではなかったが、今はお化粧をしていた。とても可愛く見えた。そして学級委員長タイプの満里奈は、学校の教師のような雰囲気でこれもまた西山には色っぽく見えていた。

満里奈が先に口を開いた。

「梅沢さん、お化粧のノリがいいようだけど?」
「西山さんの部屋でお風呂に入ったからです。メイクし直しました」

びっくりした西山がすぐに聞き返す。
「え?俺の部屋に入ったのか?どうやって?」

「何言ってるんですか、三ヶ月前、私の部屋に来る前に鍵屋さんで合鍵作ったじゃないですか」
「いや、俺にはそんな記憶ないけど?」
「酔っ払っていたから覚えていないんでしょうね、きっと」
「どっちにしろ、合鍵は返してくれ。いいな?」
「は~い」

結菜はテーブルの上に置いてあった西山の缶ビールを一口飲むと、満里奈に尋ねた。

「葉山さん、どうして西山さんをこの部屋に連れ込んだんですか?」

西山が慌てて口を挟む。
「梅沢さん、変なこと言わないでよ。俺が困っていたから葉山さんは相談に乗ってくれていただけだよ」

「そうよ、西山さんがストーカーにつきまとわれているから相談に乗っていただけよ」満里奈が結菜の顔を見て返事をした。

「ストーカーって、私のことを言ってるんですかぁ?」

結菜が静かにバッグの中に手を突っ込んだ。






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