《完結》私の愛した夫には、秘密がありました。

ぜらちん黒糖

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②レオンの想い

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「あっ!」

 マリカは目を丸くした。

 予測していなかったそのキスは、濃厚で、情熱的で、いつもよりもずっと激しかった。

 レオンにとって、マリカは初恋の人だった。ずっと、ずっと、この時を夢見ていたのだ。

「愛してる、マリカ……」

 その言葉は、彼の心の奥底から湧き上がってきた。自然と、熱いものが頬を伝い落ちる。

「どうしたのよ、コーネル。今日のあなたはなんだか変よ? 大丈夫?」

 マリカは心配そうにレオンの顔を覗き込んだ。

 彼の瞳に涙が浮かんでいるのを見て、さらに不安が募る。

 レオンはマリカからそっと離れると、「後でマリカに話すことがある」とだけ告げ、足早に風呂場へ向かった。

 体を洗い終え、湯船に浸かるレオンの心は乱れていた。

 そして大きくため息をつく。

 (はーっ!いくら外見はコーネルでも、中身が別人格じゃ、彼女を混乱させ、傷つけるだけかもしれないな……)

 (今、ここで全てを話すのは、あまりにも無謀だ。今日は、この幸せな時間をもう少しだけ堪能しよう)

 そう心に決めると、彼は湯船から上がった。

 風呂から上がり食卓へ向かうと、テーブルの上には温かい食事が並び、マリカが待っていた。

 食事が始まると、マリカが神妙な顔で尋ねてくる。

「私に話ってなに?」

 レオンは一瞬躊躇したが、やはり真実を話す勇気はなかった。代わりに、当たり障りのない、しかし彼にとっては真実の言葉を口にする。

「実は……マリカは俺の初恋の人なんだ」

 マリカは小さく笑った。

「知ってるけど?」

「え?」レオンは目を丸くした。

「私が本屋さんで立ち読みをしていたら、あなたが一目惚れしたんでしょ? コーネル、あなた、何度もその話を私にしてくれたじゃない」

(あれ?……知ってたのか!?)
唖然とするレオンにマリカが話しかける。

「本当に大丈夫?今日はやっぱり変よ?」

「……」

 (コーネルの奴、俺の初恋の思い出をちゃんとマリカに伝えてくれていたんだな……あいつなりに、俺の想いを大切にしてくれていたのか……)

 マリカは箸を置いて、心配そうにレオンの額に手を当てた。

「頭、大丈夫?どこかぶつけたんじゃないの?熱はないみたいだけど……」

「うん、今日、図書館で本棚から分厚い本が落ちて俺の頭に当たったんだ」

「それだわ! 明日になっても記憶がおかしかったり、体調が悪かったら必ず病院へ行ってね?」

「……うん、わかった」

 レオンは、目の前にいるマリカの顔をじっと見つめながら食事をした。

 レオン にとってマリカの柔らかな表情、優しい眼差し、その全てが愛おしかった。

「ねえ、なんで私の顔を見ながら食事をするの? なんだか見られていると食べにくいんだけど」

 マリカは少し照れたように言った。

「我慢してくれ、マリカ。今日の俺は、頭が少しおかしいんだ。ただ、君を見ていたいだけなんだ」

「まあ……いいけど。コーネルの表情、なんか嬉しそうだもんね」

 マリカはくすりと笑い、再び食事に集中した。二人はなぜか見つめ合いながら、奇妙だが幸せな時間を過ごした。

 食事が終わると、マリカは食器を片付け始める。

 一つ一つ丁寧に食器を洗い、隣ではレオンが食器をゆすいで水が切れると布巾で拭いた。

 手際の良い連携作業で、後片付けも終わり、二人はリビングで温かいお茶を飲みながら、まったりとくつろいでいた。

「ありがとう、手伝ってくれて。今日のコーネルはなんだかマメね」

 マリカの言葉に、レオンは穏やかな笑みを返す。

「気にするな。今日の俺は頭が少しおかしいんだ」

 マリカはくすっと笑った。 

「なんだか、私、今とっても幸せな気分。いつものコーネルと、ちょっと違うけど」

「俺も幸せだ、マリカ……」

 沈黙が訪れる。それは、二人の間に流れる穏やかな愛情に満ちた時間だった。

「じゃあ、私はお風呂に入ってくるね」

「あ、ああ、いってらっしゃい」

「ぷぷっ!はーい、行ってきます」

 マリカはお風呂場へ行った。

 レオンは顔を赤らめ、

「何が行ってらっしゃいだよ!あー恥ずかしい!」

 そう言うと両手で顔を抑えた。


 夜、寝室。

 石鹸の匂いを漂わせて、隣のベッドで眠るマリカ。

 レオンは勇気を出して腕を伸ばした。

 しかし、レオンの指先がマリカの肩に触れるか触れないかのところで、彼女が寝返りを打った。

「頭に本をぶつけた人が、そんなことして興奮しちゃ駄目でしょ……」

 マリカはレオンの気配だけで気づいたのか、囁くように呟いた。

 レオンは苦笑した。

 だが、大好きなマリカが隣で、穏やかに寝息を立てている、それだけで、十分すぎるほどの幸せだった。

 レオンは静かに潜在意識の中に潜り込む。そこでは、今か今かと順番待ちしていたリアナに語りかける。

「よう、またせたな」

「あなた、もういいの? 一つになれなかったんでしょ?」

 リアナの声には、わずかな心配と、そして諦めが混じっていた。

「ああ、でもマリカの側にいられて嬉しかった。それだけで満足だ」

「そう、それじゃ次は私ね」

 レオンの意識が薄れていく。彼の気配が消え、意識はコーネルが閉じ込められている潜在意識の部屋へと移動した。

 椅子に縛り付けられているコーネルに向かって、レオンは穏やかな声で語りかけた。

「コーネル、お前、マリカに俺の初恋の場面を教えてくれていたんだな。ありがとうよ」

 コーネルは驚いたようにレオンを見つめた。

「想いを遂げられたのか?」

「いや、だけど、マリカの隣で寝ることができた。キスもできたし、それだけでいい。それに、俺がマリカと一つになるのはおかしいと思う。マリカにすれば俺は他人だからな。」

「レオン……」

 レオンの体が、半透明になり始める。

「……俺、意識が……そろそろ遠のきそうだ……」 

「レオン!」コーネルは声を上げた。

「今、オネエが行ってるから、オネエの思いを遂げさせてやってくれ。きっと、あいつなら……」

 レオンは、コーネルを縛っていた縄をゆっくりとほどいてやった。
「じゃあな……コーネル……」

 その言葉を最後に、レオンの姿は完全に消え去った。

 夜が明け、ベッドで眠るリアナはゆっくりと目を開けた。隣にはマリカが穏やかな寝息を立てて眠っている。

 外はもう明るんでいた。

 リアナはマリカを起こさないように、そっとベッドから抜け出した。そして、寝室の大きな鏡に映る自分(コーネルの体)をじっと見つめた。

 その表情は、どこか楽しげで、そして、これから始まる新しい一日への期待に満ちていた。静かに着替えを済ませると、リアナはそっとベッドから出て寝室を出て行った。

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