《完結》私の愛した夫には、秘密がありました。

ぜらちん黒糖

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⑦信実を話すリアナ

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 公園のメインストリートから少し離れた場所に、大きな木々が茂り、木漏れ日が降り注ぐ。

 そこに置かれた三つのベンチの一つに、マリカとリアナは並んで座っていた。

 鳥のさえずりが穏やかに響き渡り、遠くで子供たちが公園を走り回る声が聞こえる。

 リアナは、静かに子供たちを見つめながら、ぽつりと口を開いた。

「信じてくれとは言えないけど、私とレオンはこの体の持ち主コーネルの中に住む別人格の人間なの」

「え?」

 マリカの戸惑いの表情に構わず話し続けるリアナ。

「あたしとレオン、そしてマリカの夫のコーネルは、実は三つ子だったのよ」

 マリカは、突然の告白に息を呑み、リアナの横顔を見つめた。

 その表情は、彼女の言葉が真実を語っていることを物語っていた。

「お母さんのお腹の中にいた時、あたしとレオンは、早々に死んじゃってさ……コーネルの体に吸収されたのよ」

「だから、その死んだ赤ちゃんの魂がこの体に憑依しているのか、それとも、コーネルが私とレオンを生み出したのか、それは分からないわ」

 衝撃的な話に言葉を失うマリカに、リアナはさらに続けた。

「あたしとレオンの細胞は今、どの辺にあると思う?」

 マリカが戸惑って首を横に振ると、リアナは自分の頭を指し、その意味深な言葉を告げた。

「ここ、この頭の中にあるの」

 リアナは、どこか寂しそうに付け加える。

「あたしとレオンの細胞は、ちょっとづつ、ちょっとづつ大きくなっていて、今は大丈夫だけど、そのうちコーネルの脳を圧迫していくと思うの」

 そして、マリカの目をじっと見つめて尋ねた。

「コーネルは時々、頭が痛いって言ってない?」

 マリカは、遠い記憶を辿るように、

「そういえば……たまに頭痛がするって言っていたわ」と答えた。

「実はね、コーネルは脳の腫瘍摘出手術を受ける予定なの」

 リアナはさらに衝撃的な事実を明かした。

「半年前、コーネルが王立図書館の古文書を調べていて、脳の手術に関する奇妙な文献を見つけたの。王国一の魔術師に相談したら、その手術は魔法で可能だと言われたそうよ」

「すでに何件も実績があるみたいで、コーネルはすぐに申し込んだの。でも順番はもう回って来てるのに、コーネルは手術をうけようとしない」

 リアナはベンチに座り直すと、遠くを見るような瞳で語った。

「なぜだと思う?それはね、腫瘍を取ってしまうと私とレオンがいなくなるかもしれないと思っているからなの」

「だから、私とレオンは、コーネルに手術を受けてもらおうと」

「私達の未練はもうないわよってことをコーネルに教えるために、強硬手段で表に出てきたの」

 リアナはマリカを見つめて、少し申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、面倒かけちゃってさ」

 マリカは、リアナのその言葉に、胸の奥から込み上げる温かさを感じていた。

「迷惑だなんて……そんなことないよ」

 そして、マリカはリアナに、さっきから気になっていた、一つの疑問を投げかけた。

「ねえリアナ、レオンって誰?」

 リアナは一瞬言葉を失い、「あれ?」と呟いた。

 その反応に、マリカはさらに問い詰める。

「ねえ、レオンって誰よ」

 リアナは、ばつが悪そうに目を逸らした。

「マリカ、あなた昨日、会ってるじゃない」

 マリカは昨日の出来事を鮮明に思い出した。夫が帰宅して抱きしめてキスをしたこと、そして……

「愛してる」と言う前に「会いたかった、マリカ」と耳元で囁いた、あの優しい声。

「そう……彼が、レオンだったのね……」

 (食事中もずっと私を見つめていたあの眼差し……)

 (ベッドで私を抱こうとしたが、拒否するとすぐにやめてくれた、あの紳士的な優しさ…)

 マリカの胸に、様々な感情が去来した。

 そよ風が、先ほどよりもひんやりと肌を撫でるようになった。太陽が少し傾き始めた証拠だ。

「もう、帰ろうか、マリカ」
 リアナが立ち上がった。

「そうね」

 マリカもベンチから立ち上がり、公園の出口へ向かった。二人はゆっくりと歩き出す。商店街へと向かうのは、明日の朝食のためだ。

「マリカ、パン屋さん寄って行くでしょ?」

 リアナが弾んだ声で尋ねる。

「ええ、もちろん」

 リアナが「あたし、夕ご飯、パンにしたい」と言うと、マリカは驚いて尋ねた。

「え?どうして?朝になったら食べられるじゃない」

 マリカが横を向くと、リアナは寂しそうに微笑みながら、そっと告げた。

「あたし、朝、いないと思うから」

 その寂しそうな笑顔を見て、マリカはきっぱりと言い放った。

「私も夕ご飯はパンにする!」

「でもそれじゃ、朝もパンになるじゃない」リアナが慌てる。

「いいの! 私はリアナと食べたいの。食べるの!」

 マリカの目に涙が浮かんでいることに、リアナは気づいた。

「分かったわよ、そんなに大きな声出さないでよ」

 リアナはマリカの耳元でそっと「ありがとう」と囁き、心の中で『私のために泣いてくれて……』と続けた。

「さ、行こう。パン屋へ」

「うん」とマリカは小さく返事をした。

 二人は商店街へと入っていった。リアナが、感慨深げに感想を述べる。

「ねえ、朝、この道を通った時はなんだか新鮮だったけど、今は寂しさが漂っている感じがするわ」

「ふふ、そうね」マリカはリアナの言葉に同意するように微笑んだ。

 そうこうしているうちに、目的のパン屋さんに到着した二人は、早速注文する。店内は混んでいなかった。

「長細いパンを3つと丸いのを3つ、それと三角のパンを4つください」

「ねえ、ちょっとパン買い過ぎじゃない?」

 マリカが心配そうに尋ねると、リアナは屈託なく答えた。

「大丈夫よ。余ったら、コーネルにお昼ご飯に持たせればいいのよ」

「そっか」二人は顔を見合わせて笑った。その笑顔には、わずかな寂しさと、深い愛情が混じり合っていた。

 パン屋から自宅までそれほど時間はかからないはずだったが、今日の二人はゆっくりと歩くスピードだったせいか、かなり遅くなってしまった。

 自宅に帰ると、荷物を食卓の上に置き、二人は寝室へ行って部屋着に着替える。

「ねえ、マリカ、今あたしの目の前で着替えたけど、あたしが側にいたのに恥ずかしくなかったの?」

 リアナが不思議そうに尋ねると、マリカは少し照れたように「え? あ……」と口ごもった後、はっきりと言った。

「私は気にならなかった。だって、夫婦なんだし、それにリアナとはもう友達じゃない」

 リアナは少し驚いた表情でマリカを見つめ、やがて優しく微笑んだ。

「そっか、友達か……ふふ」

 そのまま、二人はキッチンへと戻り、お弁当箱を水につけた。

 テーブルの上には、先ほど買ったばかりの夫婦茶碗と夫婦箸が、仲良く並べられている。

「これ絶対に使ってよ?」リアナが念を押す。

「ええ、もちろん」マリカも笑顔で答えた。

 そして、目の前には全部でパンが10個置いてあった。

「やっぱり、買いすぎたわね」リアナが呟くと、マリカは「でも、買ってる時はなんだか楽しかったわ」と微笑んだ。

「さ、食べようか」リアナが言うと、マリカが尋ねる。

「飲み物、何にする?」

「コーヒーにする」

「え? 眠れなくなるわよ?」

「いいの、眠れなくて」

 マリカはコーヒーを二つ淹れた。リ
 アナが丸いパンを一口かじり、

「あ、これ、あんこが入ってる!」と嬉しそうに声を上げた。

 マリカが長細いパンにクリームが入っていることに少し驚くと、リアナは悪戯っぽく尋ねた。

「じゃあさ、この三角のパンは何が入ってると思う?」

 マリカが手に取ってみるが、「なんだろう……わからないわ」と首を傾げる。

 リアナがパンを半分に割ってみると、中にはとろりとしたチョコレートが入っていた。

 リアナがそれを一口食べてみて「美味しいわ、これ!」と言うと、マリカも同じように食べてみた。

 結局、マリカとリアナでパンは4つ食べた。満足そうにコーヒーを飲み終えて、二人は後片付けを始める。
 お弁当箱を洗いながら、マリカが声をかけた。

「今日はお弁当ありがとう、美味しかったわ」と言うと、リアナは「いいえ、どういたしまして」と返した。

 後片付けも終わり、マリカはお風呂の準備をしに行った。

 一人食堂に残ったリアナは、今日一日この体で動き、マリカと共に過ごしたことで、生きている実感を深く味わっていた。
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