伝説のレジェンドサーガ

フセ オオゾラ

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第5話

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 駅からダンジョンまでの道は舗装されてはいたが、周りにはほとんど何もなかった。道中、冒険者が最後の補給に訪れる、スーパーみたいに広いコンビニくらいだ。日本では唯一銃を販売しているコンビニでもある。今回は用がないのでスルー。

 ダンジョンの入口は、フェンスと塀で囲まれた四角い構造物にしか見えない。形容するのは難しいが、一番近いのは核シェルターとか、軍事施設だろうか。
 中央に1か所門があるが、こちらは銃で武装した自衛隊が門番を務めていた。この物々しい様子は、魔物が出てきた時に、この門で封じる役目があるためと、さらに一般人が遊び半分や観光気分で侵入しないようにする措置のためである。

 門前には先に移動してきた生徒たちが集まって最後のミーティングを行っている。
 ガイたちは道中で最終確認を済ませてしまったので、門で列を作るクラスメイトたちの最後尾につくことにした。

「探索日程表」
「ああ、そうか。リーダーが出すんだっけ」

 端末を通して聞こえてきたサトミの言葉に、ガイはポーチから「探索日程表」と表紙に書かれた手帳を取り出す。
今回は実習のためクラスメイトはみな同じ内容の日程表を記入しているが、本来これは、冒険者たちがチーム単位で提出するもので、ダンジョンの中に入る目的や、探索予定期間を記載したものだ。これを基準に、地上にいる人間はダンジョンに入った冒険者を救助に向かうかどうかなどを判断する。
 先頭に居た方がいいかと、列を移動してアカリの前に出た。

「こいつがリーダーだって?」

 列を移動していたガイに向かって、そんな声が聞こえた。どこかで聞いた声だなと思いつつ、声のした方を向く。
 勇者候補のタケルが、同じく探索日程表を手にして、ガイを睨みつけていた。

「何?」

 ガイが何か言いかける前に、サトミが不機嫌な声を出した。

「お前たち、なんのつもりだ? 遊びじゃないんだぞ」

 タケルはかなり苛立っている様子だ。ガイも自分がリーダーに向いているとは言わないが、遊びとまで断言されると腹は立つ。ガイが顔をしかめているうちに、サトミはさらに食って掛かった。

「本気も本気。お前には関係ない」
「俺たちの活動には日本の未来が掛かってるんだ。最善を尽くすべきだろ?」

 サトミは鼻で笑った。

「興味ない。けど、これが最善」
「そこまで拘る理由がわからんな……まあいい、この実習でお前たちも考え直すさ。誰の元に付くべきか」
「ちょっと待て、実習では皆同じような課題のはずだろ? おかしな真似はするなよ」

 ガイはタケルの言葉に引っかかりを覚え、思わずそう口にしていた。ダンジョン実習とは、これまで学んだ技術が 身についているのか判断されるもので、その内容は何も、強敵を倒すだの、新しいエリアの発見だの難しいことをするためのものではない。
 仮にそんなことができれば、多額の報奨金が得られたり、リターンは大きい。
 しかし、前回実習では、初めてダンジョンに潜ったことで浮ついた生徒たちの一部が、そういった実績を求めて暴走した結果、クラスメイトの中に引退者が現れるほどの騒動になったのだ。

「おかしな真似だって? あれは前回、功を焦った奴らがバカをしただけだろう」
「わかってるなら、後に続く必要はないだろ?」
「一般人のお前ならそうなるだろうな。だが、俺は違う。前回の実習、その場にいたなら魔物を取り逃すこともなかったさ」

 自信のあるタケルの様子に、何を言っても無駄そうだ、とガイは黙った。

「何を揉めている!」
「何でもありませんよ、少し話をしていただけです」

 ガイたちの様子に気付いた門番をしている自衛官の一人が、警告してきた。タケルは手を振って自衛官に答えている。すぐに会話もやめたので、自衛官はそれ以上介入しようとせずに黙った。

「まぁ、俺の活躍を指をくわえて見ているんだな」

 タケルは最後にそう言い残して──恐らくチームの元に──去って行った。
 ガイは背後から、ぽかりと小さい衝撃を受けて振り向いた。見ると、拳を振り上げるサトミの姿。

「ガイ、好きに言われすぎ!」
「しっかりしてくれよ? リーダー」
「もう少しはっきりと、意思表示されてもよかったですね」
「う……ごめん」

 勝手に決められたリーダーなのに、と理不尽さを覚えつつ、それでも謝ってしまうガイだった。
 ひと悶着はあったが、その後の手続きはスムーズだった。

 ゲートで自衛官に探索日程表を提出し、ライセンスをフェンスゲート前でかざして中に入る。その後、ダンジョンの蓋ともいえる、金属でできた巨大な自動扉を自衛官たちが手元のスイッチで操作し、開いた。

「私があなたがたの監督官となります。よろしくお願いします」

 20代後半くらいの男性自衛官が、ダンジョン内に入ったところで声をかけてきた。迷彩服に身を包み、コンパウンドボウを手に装備していた。腰にはガイたちもつけているシールドデバイスと、接近戦用なのだろう、大型のナイフを

「私のことは気にせず、実習に集中してください。何かあれば、こちらからお声がけします」
 
 ガイたちも了承の意を示すと、それ以上の会話もなく進んでいく。
 ダンジョン内の入口から進んでいくと、人工的な通路と、下に降りる階段があった。その先には何もない広場と、縦横3メートルくらいある陽炎のように揺らぐ水の膜みたいな存在が見える。

『層の扉が見えてきました』
『了解。こちらも視認した』

 層の扉、と呼ばれるこの世界と、異世界であるダンジョンの境目だ。ダンジョンは層ごとに次元が違うと言われており、その扉をくぐって別の層へと移動することになる。

『扉の前で一度停止。そしたら各自、シールドチェック』
『……了解。シールド・オン』

 前を歩く3人が、ガイの言葉に従って、扉の前で円陣を組むような形になる。互いの様子を見ながらシールドデバイスを起動。ハニカム構造の半透明のシールドが現れ、視界から消えた。この先は何が起こるかわからない異世界だ。シールドは常に起動状態にしておく必要がある。

 シールドの起動状態を確認し合って、列を組みなおし、先頭のアカリから順番に潜る。
 順に続いて、ガイも層の扉を潜り抜けた。視界いっぱいに、青い空と更地が現れる。ダンジョンの1層だ。

「っ……」

 耳の痛みを覚え、ガイは軽く顔をしかめる。1層に入ったことで気圧が変化したのだ。
 草木が一本も生えていない、という訳ではないが、見晴らしがよすぎるくらいの更地を、隊列を組んだまま進む。
 ここは元々は草木の生えた自然公園のような場所だったらしいが、ダンジョン内の資源を取りつくされてしまった結果、更地になっているようだ。今は保護する方向で、日本政府が冒険者たちにも呼び掛けている。

『みんな平気?』

 ガイの呼びかけに対して、通信デバイスからそれぞれ『問題なし』『問題なーし』『問題なしです』と返事がくる。
 2層まではほとんど一直線。ガイたちは黙々と、一時間程歩き続けた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 1層に居たという魔物も全て資源として狩りつくされてしまっていたため、何も起こらずに2層との境に到達した。

『2層の扉が見えてきました』
『了解。こちらも視認した』

 アカリの報告に、ガイは短く答えた。
 ガイが最後に層の扉をくぐりぬけると、少し蒸した空気と、鼻いっぱいに草木の匂いが広がる。耳にも木々のざわめきが届いてきた。2層は草木の生い茂る森林エリア、さっきまでの更地とは
 そのまま2層をしばらく進み、ふと後ろを見ると、1層では離れてついて来ていた自衛官の姿は見えなかった。噂では自衛官たちは生徒に姿を補足されないための訓練を兼ねているらしい、なんて言われていた。
 監視の目がないように思わせることで、生徒らに自由に判断させ、冒険者としての資質を見るのだという。

(先生の言ってたことと合わせると、噂じゃなかったってことなのか……?)

 似たような話を本道先生から聞いたな、と思いつつ意識を周辺に戻す。

『少し進んだら一度小休止しよう』
『まだ平気。好調なくらい』

 ガイの提案に、サトミから反対の声があがった。が、それが逆に気になる。

『魔力酔いの影響があるかもだろ。少し様子をみたい』

 人並みの体力しかないサトミが、小一時間ほど歩き続けてきて、元気という時点で身体に影響はでている気がした。

『なるほど。確かに私も身体が軽い気がしてました』
『あ? もう影響でてたのか……』

 とアカリとリンも口々に気にし始める。

『俺も鼻と耳が少し鋭敏な感じがするんだ。慣れるまで少しの間、探索目標の再確認をしよう』

 恐らく先人たちが歩いて作ったのだろう獣道を進む。
 奥が見えない、植生も日本とは違うその森は、どうしてもガイの心を不安にさせるのだった。
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