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一章
2、救済
しおりを挟む目覚めたら、灰色の天井が見えた。
「ここは……。俺、生きている、のか?」
手も足も動く。あの獰猛なケルベロスとやり合って五体満足なのは信じられないが、どうして俺は助かったんだ? 倒したのか? いや、意識を失ってたんだ、それはない。なら、結局あのケルベロスはどうなったんだ?
そんなことを考えながら、ゆっくりと起き上がって周囲を見渡した。ベッドの横に点滴がぶら下がっている以外、この部屋には何もない。窓もない、石畳の簡素な部屋。なんだかまるで牢屋みたいだな。
するとふと自分の腕に視線がいった。
「!? な、なんだこれ……!!」
病衣のような袖から覗く自身の腕に、魔法陣のような見たことのないイレズミが入っている。手にも、体にも、足にもだ。
な、何だよこれ……!! 何かの呪いか……!? やばい気がする。こ、ここから逃げないと……!!
点滴を引きちぎり、ベッドサイドに置いてあった剣を手に取り扉へ向かう。ドアノブをひねったら、鍵はかかっていなかった。
よし。
部屋から出ようとしたら。
「アッラー!? あなた、起きたの!?」
突如目の前に立ちはだかったのは細身のスキンヘッドだ。白衣を着ており、医者のような雰囲気を醸し出しているが、見た目は女か男かわからない。今さっきの話し方と濃い化粧からいえば、女だろうか。
敵か味方かわからない人物の登場に、ジンは臨戦態勢を取る。
「……誰だ!? ここは、どこなんだ!?」
「ちょっとちょっと、剣は仕舞いなさいよ。危ないじゃないのよ」
よくよく聞いたら声は裏声だ。もしかして男なのだろうか。まあどちらでもいい。男は丸腰だ。白衣を着ているということは医者か何かだろう。つまり魔力は無いとみていい。
こちらは魔力は無くても戦える。最悪、この白衣の男を殺して逃げる。
「もう、仕舞いなさいって言っているでしょう!」
フッと白衣の男が目の前から消えた。
「は!?」
気づけば足払いをされて、ジンは尻もちをついていた。その衝撃で手から離れた剣を白衣の男に思いっきり蹴り飛ばされて、ジンは丸腰になってしまった。それでもジンは立ち上がり際に、白衣の男の足へ一撃を入れる。メキッと骨にヒビが入ったような音がしたが、態勢を整えたジンは構わずに二撃目の蹴りをぶち込む。
「いい加減にしろっつってんだろ!! この病人がっ!!」
脇腹めがけて伸びる足を力の限り掴んだ白衣の男が、そのままジンをぶん回してベッドへと投げた。
「うわっ!!」
ごん、と後頭部を打ったが、見事にジンの体はベッドに収まった。それを確認した白衣の男は深いため息をついた。
「もう、ここは安全だから安心して。野良猫でもそんなに暴れないわよ……って、あれ?」
ジンは返事をしない。どうしたのだろうかとのぞき込めば、先ほどのぶつけた衝撃でジンの頭から大量に出血していた。
「きゃーっ!! 誰か!! 医者を呼んで!! って、私だわっ!! もう、いやぁねぇ!! あなたが暴れるからよぉ!!」
頭の付近で大声で叫ばれても、もはやジンには聞こえていなかった。
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