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49、楽園
しおりを挟むコバルトブルーの海。
透明度の高い海水は海底がはっきりと見え、光が透けてきらきらと輝いているように見える。近くから見たら、まるで海水は存在していないかのようで、船が海底から浮いてるような錯覚が起こる。
晴れ渡る青い大空とは色彩が違うこの海を見たら、誰もがうっとりしてしまうだろう。
「すごい……、綺麗……!!」
小舟が、その広大な海の上に立つお洒落なコテージに到着した。そのコテージはウッドハウスのようで、室内からは海が望める開放的な造りになっていた。
そしてバルコニーには階段がついており、いつでも海へ入れる構造だ。干潮時は陸地になるのかもしれない。
島から離れているこの場所は、世界にたった二人しかいない極上の楽園を創り出す。
敦美たちが来たのはモルディブ。まるで時間から切り離されたかのような世界が目の前に広がる。
年中温暖な気候のこの島は、今が乾季で訪れるには最適な時期らしく、ここにしばらく滞在できるのは、本当に夢のようだ。
コテージの中へ入れば、広々とした室内が広がっていた。荷物を置いて、敦美は早速水着に着替えて、智紀を呼ぶ。
「智紀さん! 海に入りましょ!!」
「うん。そうだね。行こうか」
窓を開ければ、暖かな潮風が頬を撫でる。まず智紀が先に海へ入った。まるで海に入ってないように見えるが、浮いてる彼は確実に海の中だ。
「おいで」
両手を広げられて、この胸に飛び込んでおいでと言われたような気がして、敦美は胸が高鳴った。思いきって階段の上から智紀めがけて飛び込む。
「うお!?」
バシャーンと水飛沫を上げて、海に入る。逞しい腕が、敦美の体をしっかりと受け止めたが、思った以上に勢いがあって二人とも海に沈み込んだ。
耳が海で塞がれて、何も聞こえない。
でも、視界は驚くほどクリアで、智紀の顔がよく見える。
透明の海の中で二人とも浮遊している。時間が止まったかのようで、息を止めている事すら忘れそうになる。
お互い自由に泳げるのに、水中でただただお互いを見つめ合った。
泡が水面に上ってゆき、ゆらゆらと揺れる水面から、光が降り注ぐ。二人の体が照らされて、白く輝いた。
綺麗。
見つめ合って、ゆっくりと口付ける。
それから水面に浮上して二人とも顔を出した。顔の水滴を手で拭き、前髪を掻き上げる智紀は、かっこいい。ぽたぽたとたれる水滴が、太陽の光に反射して輝く。まるで彼自身が輝いているように見えて、敦美は魅入ってしまう。
「……いやあ、思いっきたね、敦美」
「え? だって、智紀さんが受け止めてくれると思ったから」
ふふふと笑う敦美に、「まあ、そうだけど」と智紀も微笑む。真っ直ぐに見つめられて、胸が高鳴った。
もう一度唇が触れた。優しくて、心地よい。
肌と肌が触れ合っていて、敦美の心臓はドキドキと早く動いていた。
「……敦美、水着可愛いね」
「これ、今日のために買ったんです」
胸元を隠すようにレースフリルがついていて、大きさを誤魔化せるビキニだ。腰にも同じようなフリルがついているため、少しスカートみたいになっている。
「白、似合うね。……もっと良く見せて」
「わっ」
体を持ち上げられて、ぐっと水から体が出る。
「可愛い……」
熱い視線が体を這って、静かに胸元に口付けされた。
「あ……」
吸い上げられて、じんわりとそこから快感が広がったかと思えば、智紀が唇を離す。もう少しだけ、唇が欲しいと思った。見れば、そこに紅い花が咲いている。嬉しくなって、胸が熱くなる。
「智紀さん……」
「敦美……」
敦美はゆっくりと彼の唇にキスした。触れて、離れて、角度を変えて、また触れて。ちゅっちゅっと甘い音が耳に響く。
近くには誰もいない。この世界には、二人だけ。
そう思ったら、妙に体が熱い。海水にあまり浸かっていないせいか。それともじりじりと太陽の光が肌を焼く、その熱のせいか。それとも、智紀と触れているせいか。
智紀が唇をすっと親指で撫でた。その撫で方が扇情的で、ぞくっと背筋が粟立つ。
「部屋に、戻ろうか?」
素敵な海にいるのに、彼しか見えない。彼が欲しい。火照る敦美の股が、とろっと湿った。
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