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ステージ1

3 VS、滝沢春菜

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 トンファーというのはそもそも、沖縄あたりの古武術に使われる武器である。
 棒に持ち手がついており、棒で叩くだけでなく、敵の攻撃を受け流したりもできる、いわば攻防一体の武器ってやつだ。

(とはいえ、銃弾は流石に弾き飛ばせまい)

 そう高をくくっていた透は、距離を取って早速銃撃する。だが彼のその想定は、

「とりあえず……えいっ」

 春菜のトンファーに(性格にはその周りを覆う青っぽいオーラに)、軽々と吹き飛ばされた。

「えっ!? サイズ的には無理がある……何で!?」
「何でって……そういうもんでしょ? トンファーって」

 そうだ。これはゲームだ。今更ながら透は実感する。そもそもトンファーは『敵の攻撃を弾く』というコンセプトの武器なのだから、ゲーム中でもちゃんと当てないと防御できないなんて面倒な仕様にしたら、流石に非難が殺到するだろう。
 つまり春菜はあらゆる飛び道具を、武器を振ってるだけで無力化できるわけだ。

「相性最悪じゃねーか!!」

 透の心からの叫びが響いた。

(……とはいえあのトンファー、よく見ると周りに水みたいなエフェクトが付いてるな。成程、あの反射性能は何かのバフによるものか? ってかそうじゃないと許されない性能だよなあ)
「……じゃあ、こっちから行かせてもらいます、よっと!」

 思索を巡らせる透だが、そんな彼にはお構い無しに、春菜は突進して、トンファーで彼を突いた。防御が遅れ、透は空へ吹き飛ばされた。体力はざっと75%くらいに減った。

「ぐっ……」
(最初の一撃もあって、結構減ったな……オーケー、取り敢えずあの子のバフさえ消してしまえばあとはこっちのもんだ。だが、肝心の僕のデバフが、あの子には通じない……どうしたもんか)

 幸い、吹き飛ばされたことで少し距離は空いた。考える時間ならありそうだな……そう思っていた透だったが。
 透の足が、何かに触れた。

「……ん?」

 それは虹色に輝く線路のような形をしていて、宙に浮いていた。透の足は磁石で引かれるようにくっつき、それの上を滑っていった。

「何それ、うち知らない……」
「成程、スライドレールとでも言った所かな?」

 彼のゲーマーとしての勘は鋭い。この手のレールは大抵何かを動かすためのもの、そして足がくっつくなら動かされるのはプレイヤー自身。
 その推察は当たっており、そのまま透はレールの上を滑っていく。

「あっ……でも逃がさないわ!」

 そう言うと春菜もレールに飛び乗った。タイミングがずれていたので距離は空いたままだ。

(よし……考えろ、僕。滝沢さんに一撃喰らわせる方法は何だ?)

 レールの上、透は思索を巡らせる。普通に攻撃するのなら、気付かれて防がれるのがオチだ。ならば……撃てばいいんじゃないか?

「……うん、いける!」

 確信した透は、レールから飛び降りる。
 レールは先程の十字路から坂を下る向きに流れていて、彼の降り立った付近には和菓子屋があった……尤もバーチャルなので和菓子は一つも置いていないが。

「……なんで降りたの? まあいいけど!」

 春菜も透の近くへと飛び降り、リーチを活かして大回りに腕を動かして殴りかかってきた……透の読み通りに。

「大成功、だね! 行くぞ……!」

 タイミングを見計らい、透は体を屈め、転がり込むように移動する。さっきスライムに囲まれたときにしたように。
 しかしながら今回は違う。回避ではなく、攻撃を仕掛けるための前進だ。

「えっ……」
「理解できてないのか知らないけど……僕の作戦通りだなっ!」

 カウンター技というのは基本的に威力が高いもの。そうでなくても透の技にはデバフを付与する効果がある……今後の戦況を有利にするための作戦だ。
 というわけで、春菜の懐に潜り込んで透が放った光弾は……見事、春菜に命中した。

「痛っ!? 何で!? 今の、何処から……」
「何処って、そりゃ君此処に決まってるでしょうよ」
「え……うわあっ!?」

 春菜は大きくのけぞった。まるで話しかけられるまで、透に気付かなかったかのように。

「……何よその反応」

 透の声は呆れ気味。いきなりあんな反応されちゃ無理もないが。

「えっ……いや、だってアンタ、さっき確かにうちの視界から消えてたはず……」
「……消えた覚えは無いんだけどなぁ」

 透は状況を整理する。これはどうせ運営さんが用意してくれた技の一つだ。だとしてどういう技なんだ?

「……分かった! あれはただのカウンターじゃない……一時的に、姿技なんだ!」

 成程、見た目が透明になるのは確かに無属性の範疇だろう。どうやら本作のスタッフは技のパターンを相当ノリノリで考えていたらしい、結構な凝りようだ。

「ところでさ、」

 今更元の目的を思い出し、春菜に問いかける透。

「今、何か身体に不調はない? 例えば……属性のパワーとかに」
「属性の……?」

 スマホでステータスを確認しようとする春菜だが、そうするまでもなく異変に気付いたようだ。自分のトンファーを見て。

「水が消えてる……あっ、そういうデバフってことなのね!」
「大正解! ……やっぱその水バフだったのね」

 滝沢春菜の技の一つ、ウェッティストリーム。トンファーの周りに水のオーラが張られ、動かす度に残像のようにその場に広がり、トンファーの反射判定を何倍にも拡大する。
 そのバフが、今回は優先して打ち消されたようだ。

「僕の今の技は……何だろ。隠れるから……ハイド&バレット?」

 そう呟くと、透のスマホに通知が来た。
 技を3つ編み出したってことでミッションを達成したらしく、コインが50枚ほど振り込まれた。

「そういやコインって何に使うの? ショップとかがフィールド上にあるようには見えないけど……」
「それもこのスマホよ。その場で体力回復アイテムとか買えるんだって」
「へぇー」

 んでどうすんの? と透は聞く。

「どうするって……決まってんでしょうよ。あんたの体力が半分になるまで殴る」
「そんな気はしてましたよっ!」

 薄々この後起こることを察していた透は春菜から距離を取ろうと後退し、それを読んだ春菜も踏み込む。

「生憎このままやられるってのはゲーマーとして黙ってらんないんでね!」
「こっちだってアイテム欲しいのよ! 人助けだと思って……さぁ!」

 なんて言いながらリーチを活かし、叩き潰しにくる春菜。

「それが人にものを頼む態度かなぁっ!」

 なんとか避けて、銃口を向ける透。先程よりも少し距離を取っている。

「生憎、うちにも遠距離攻撃はあるんだy」
「あれーっ、露西先輩に……春菜ちゃん!? 選ばれてたんだーっ!」

 聞き馴染みのある声。透が振り替えると、そこには鈴蘭がいた。
 とはいえ姿は現実世界のそれとは全く異なる。
 オーバーサイズで派手な柄のジャージ、ヨーヨーやらキーホルダーやらがジャラジャラと付いたハイウエストのダメージジーンズ、そして紫のキャップ。恐らくはストリート系に分類されるであろうファッションだ。
 ……およそこれまで透が見てきた鈴蘭とは思えない姿だ、まあ出会って2、3日なのだが。

「……あれ、気付いてないんです? わたしですよー、夜霧です」
「あっ、やっぱりそうだよね。ちょっと自信がなかった……痛っ」

 気を取られていた間に、春菜はトンファーの棒の長いとこから水のビームで狙撃してきた。
 今ので透の体力は半分を切った。
 春菜のスマホには通知が来た。
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