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Cross-purposes of the love

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   ◇

「おお、タツミ! それは本当かい? 」

 アレンは大仰に身を仰け反らして、嘆き声を上げた。

「君の口から恋の悩み事を聞くなんて、私にとっては拷問のようだよ」

 その言葉に、達実は微かに苦笑した。

「大袈裟だな……そういうアレンだって、先月キュートなオメガの女優とスクープされていたじゃないか」

 達実の揶揄やゆに、アレンは肩をすくめる。

「あれは、向こうが勝手に迫って来たんだ。パパラッチを大勢引き連れてね。それに、彼女は確かにキュートではあるが、君の足元にも及ばないよ」

「またそんな事を――そういえば、ピアニストの姫君とはどうなったんだ? 」

 アレンには、数多あまたのオメガの恋人がいる。

 ピアニストの彼女とは、番になりそうな程に甘い雰囲気だと思っていたのだが……?

 すると、アレンは弾かれたように笑った。

「ハハハハ! 君と天秤に掛けられる程の価値が、彼女に有るワケがないだろう? 私はせっかくの休暇を過ごすなら、君としか考えられないね」

「――――そんな事を言うと、オメガの恋人たちに恨まれるぞ? 」

 達実は嘆息をしながら、そうたしなめた。

 アレンの真っ直ぐなセリフは気持ちのいいものだが、彼はアウラの後継者としてそろそろ真剣に番を見付けるべきだ。

 友人として、そう思う。

 可愛いくて優しくて――――そう、達実の母である、奏のようなオメガを。

 アレンの番ならば、それなりに教養もなければ釣り合わないだろう。

 オメガの男体は妊娠し難いと長く言われていたが、奏がその常識を覆す画期的な新薬を数年前に開発したので、その問題は既に解決されている。

 アレンが好んで女体のオメガを愛人にしているのでなければ、男体も候補に加えてもいいかもしれない。

 じつは何度か、達実は知り合いのオメガの男性から口利きを頼まれているのだ。

 相手は、奏の研究所に勤める研究員で、達実とも奏とも仲は良い。

 頭脳明晰で、素行も好ましい青年だ。

 アレンは、アルファとしても男としても充分に魅力的な雄なので、一目見て彼は恋に落ちたらしい。

 達実としては、仲のいいそのオメガの研究員と付き合ってもらいたいのだが……。

 それとなく達実は、アレンの好みを確かめることにした。

「なぁ、アレンは――恋人にオメガの男体は考えていないのか? 」

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