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Is it the love which isn't achieved?
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(私は、自分の想いを誤魔化す事はできそうもない……)
九条もまた、七海に生き写しの達実を抱えながら、苦悩していた。
長じる毎に、達実は七海に似て来る。
生涯かけて愛した、唯一のオメガに……。
やがて、何事か察した奏は、達実を連れて正式にアメリカへ移住したので、そうそう頻繁に九条邸を訪れる事もなくなった。
それでもスカイプを使って、毎日のように通信をしていたが。
とにかく九条は、車両事故に遭遇し突然の死を迎える寸前まで、ひたすらに七海と達実の名を繰り返して口にしていたらしい。
――――実の息子である筈の、采の名ではなく。
「だから……やっぱり采は、僕のことが嫌いみたい」
達実も突っ張って、采に対して悪態をついていたが……本当は寂しかった。
だから、直前にハプニングはあったが、采の方から達実に口づけをしてくれた時は……とても驚いたが、本当は嬉しかった。
これを機に、采の口から『本当は達実のことが好き』と言ってもらいたくて、マンションにまで押し掛けた。
でもそこで、あのオメガに出くわしてしまって……。
「オメガって……ズルいよね」
ポツリと呟く達実を、訝し気に嘉偉は見遣る。
「ズルい? 」
「うん。だって、小さくて華奢で可愛くて――――僕とは全然違うんだもん。こんなゴツイ不細工な身体じゃなくてさ、ああいうオメガみたいにふわふわして可愛かったら……きっとそれだけで、愛されるんだろうけど……」
「な、何言ってるの!? 達実くんのどこが不細工だっていうのさ!! 」
これほど美しく麗しいアルファなど、嘉偉は見た事もない。
皆が、彼こそ大輪の薔薇の名に相応しいと、頬を染めて褒めそやす。
嘉偉の大好きな、自慢の従兄弟だ。
「采叔父さんに何を言われたのか分からないけど、あんな人の言うことを真に受けちゃあダメだよ! 達実くんは、世界一綺麗なんだから! 」
嘉偉は、更に言い募ろうとするが――――
メイドが、遠慮がちに声をかけてきた。
「嘉偉さま、あの――お客様がいらっしゃったのですが……」
「客? 」
「はい」
「どうせ母さんにだろ? 今は外出しておりますから、後日改めて連絡してからおいで下さいって言って、いつもの通りに追い払ってよ」
すると、メイドは戸惑うように達実をチラリと見た。
その視線に気付き、達実は問い掛ける。
「……もしかして、僕? 」
「はい、そうです。アレン・シン・アウラさまと名乗っておりますが――」
アウラの名は日本でも有名だ。
メイドも、門前払いしていいものかどうかと悩んだのだろう。
しかし嘉偉は、せっかく達実を独占できるところを邪魔された気分になり、不機嫌に頬を膨らませる。
「アウラだろうと何だろうと、関係ない。ここは日本だ! 達実くんは、まだ体調が悪いからって言って、帰ってもらってよ」
「は、はい――」
引き下がろうとしたメイドに、達実は声をかける。
「待って! 僕、アレンに訊きたい事があるんだ。だから、悪いけど通してもらえないか?
」
「分かりました、東の応接間へお通しいたします」
ホッとした様子で下がっていくメイドを見て、嘉偉は怒ったように口を尖らす。
「なんだよ! 事前に連絡も無しに、急に面識もない家を訪ねて来るなんて非常識じゃないか。いくらアウラ家がアメリカの有名財閥だからって、こっちが気を遣ってやる必要なんかないよ」
「うん、嘉偉の言う事は分かるよ。でも、僕――――なんでアレンの滞在するホテルから、ここに運び込まれたのか……その間の記憶が曖昧なんだ。それを知りたくて」
達実のセリフに、嘉偉も不承不承頷く。
「うん……昨日、采叔父さんが達実くんを抱えて来て、そのまま説明もなしに帰っちゃったから……僕も、分からないけど……」
九条もまた、七海に生き写しの達実を抱えながら、苦悩していた。
長じる毎に、達実は七海に似て来る。
生涯かけて愛した、唯一のオメガに……。
やがて、何事か察した奏は、達実を連れて正式にアメリカへ移住したので、そうそう頻繁に九条邸を訪れる事もなくなった。
それでもスカイプを使って、毎日のように通信をしていたが。
とにかく九条は、車両事故に遭遇し突然の死を迎える寸前まで、ひたすらに七海と達実の名を繰り返して口にしていたらしい。
――――実の息子である筈の、采の名ではなく。
「だから……やっぱり采は、僕のことが嫌いみたい」
達実も突っ張って、采に対して悪態をついていたが……本当は寂しかった。
だから、直前にハプニングはあったが、采の方から達実に口づけをしてくれた時は……とても驚いたが、本当は嬉しかった。
これを機に、采の口から『本当は達実のことが好き』と言ってもらいたくて、マンションにまで押し掛けた。
でもそこで、あのオメガに出くわしてしまって……。
「オメガって……ズルいよね」
ポツリと呟く達実を、訝し気に嘉偉は見遣る。
「ズルい? 」
「うん。だって、小さくて華奢で可愛くて――――僕とは全然違うんだもん。こんなゴツイ不細工な身体じゃなくてさ、ああいうオメガみたいにふわふわして可愛かったら……きっとそれだけで、愛されるんだろうけど……」
「な、何言ってるの!? 達実くんのどこが不細工だっていうのさ!! 」
これほど美しく麗しいアルファなど、嘉偉は見た事もない。
皆が、彼こそ大輪の薔薇の名に相応しいと、頬を染めて褒めそやす。
嘉偉の大好きな、自慢の従兄弟だ。
「采叔父さんに何を言われたのか分からないけど、あんな人の言うことを真に受けちゃあダメだよ! 達実くんは、世界一綺麗なんだから! 」
嘉偉は、更に言い募ろうとするが――――
メイドが、遠慮がちに声をかけてきた。
「嘉偉さま、あの――お客様がいらっしゃったのですが……」
「客? 」
「はい」
「どうせ母さんにだろ? 今は外出しておりますから、後日改めて連絡してからおいで下さいって言って、いつもの通りに追い払ってよ」
すると、メイドは戸惑うように達実をチラリと見た。
その視線に気付き、達実は問い掛ける。
「……もしかして、僕? 」
「はい、そうです。アレン・シン・アウラさまと名乗っておりますが――」
アウラの名は日本でも有名だ。
メイドも、門前払いしていいものかどうかと悩んだのだろう。
しかし嘉偉は、せっかく達実を独占できるところを邪魔された気分になり、不機嫌に頬を膨らませる。
「アウラだろうと何だろうと、関係ない。ここは日本だ! 達実くんは、まだ体調が悪いからって言って、帰ってもらってよ」
「は、はい――」
引き下がろうとしたメイドに、達実は声をかける。
「待って! 僕、アレンに訊きたい事があるんだ。だから、悪いけど通してもらえないか?
」
「分かりました、東の応接間へお通しいたします」
ホッとした様子で下がっていくメイドを見て、嘉偉は怒ったように口を尖らす。
「なんだよ! 事前に連絡も無しに、急に面識もない家を訪ねて来るなんて非常識じゃないか。いくらアウラ家がアメリカの有名財閥だからって、こっちが気を遣ってやる必要なんかないよ」
「うん、嘉偉の言う事は分かるよ。でも、僕――――なんでアレンの滞在するホテルから、ここに運び込まれたのか……その間の記憶が曖昧なんだ。それを知りたくて」
達実のセリフに、嘉偉も不承不承頷く。
「うん……昨日、采叔父さんが達実くんを抱えて来て、そのまま説明もなしに帰っちゃったから……僕も、分からないけど……」
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