ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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 La Vie en rose

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――――会った事は無いけれど、ダディや奏や……そして采は、僕の顔を見る度に『七海達樹』という、僕の本当のパパを、僕を通して見ているのは知っていた。

(そんなに、似ているのかな? )

 見せてもらった、たくさんの写真には、髪の長い綺麗な青年の姿があった。

 だが、その顔色はとても青白くて、壊れそうなガラスの薔薇のように儚いそのおもてと自分の顔を見比べると、達実の目には全然違うように映った。

(どうしてこんなに違うのに、似ているってみんな言うのかな? 変なの)

 そう、ずっと思っていた。

 だが、今の自分の顔は――――

(なんだ、やっぱりそっくりだったんだな)

 磨きぬかれた鏡のように黒光りする黒檀のテーブルを見ながら、達実は溜め息をついた。

「どうしたんだい? 」

「ううん……なんでもないよ。あぁ、ありがとう」

 テーブルの上に差し出された紅茶を受け取りながら、達実は礼を言う。

 だが、その紅茶は口にしない。

 無意識で……なんとなく、アレンから渡されるモノは飲んではいけないと、強く警戒心が働いているからだ。

 するとアレンは、フッと笑った。

「警戒しなくてもいい。何も入ってはいないよ」

「――うん」

 と、返事はするものの、気の進まない様子でスプーンを取り、クルクルとカップを掻き混ぜる。

 アレンは、憂い顔の達実を切ない眼差して見つめると、対面に座って静かに頭を下げた。

「すまない、タツミ」

「え? 」

「いつも、艶やかな薔薇のように華やかで美しい君に……そんな悲しそうな表情をさせてしまうなんて」

「アレン? 」

「私は、罪深い男だ」

 溜め息交じりにそう言うと、アレンは懺悔するように再び頭を下げる。

 こんなに、アレンが深く謝罪するところなど見た事ないし、聞いた事もない。

 達実は戸惑いながら、アレンを見た。

「アレン……いったい君は、何をしたんだ? 」

「――」

「僕に、そんなに謝らなければならないような事をしたのか? 」

 達実の問い掛けに、アレンは小さく息を吐いてから答えた。

「……私は……ホテルで君に酒を飲ませて、抱こうとしたんだ」

「っ! 」

 びっくりして息を止める達実に、アレンはジッと熱い眼差しを注ぐ。

「君は、誰よりも美しい。そして誰よりも魅力的だ。私の心を捕らえて離さないほどに」

「アレン……そう言ってもらえるのは光栄だけど……僕はアルファだ。残念だけど、オメガのように可憐でもないし可愛くもない」

「可愛くない? 私の眼には、君は最もピュアで可愛く映るが」

「……ありがとう」

 達実は微かに笑うと、ふぅと溜め息をついた。

「アレンが、嘘を言っていない事は分かるよ。それくらいは、僕だって感じるさ」

「だったら……」

「でも僕は、自分の意思を無視して何かを強要されるのは大嫌いだ。そのくらいなら、自害する」

「タツミ……」

「だから君が、いくら僕のことが好きだからといっても――――その好意を暴力レイプで押し付ける気なら、僕は君を軽蔑する」

 迷いもなく言い切る達実を、アレンは切ない眼差しで見る。

「そうだね……今にして思うと、この腕に君を抱きながらも、最後まで君を犯さなかったのは正解だったなと思うよ。危うく、私は……取り返しのつかない過ちを犯すところだった……」

 言葉巧みに騙して酩酊させて、さぁチャンスだと自分勝手に抱いたなら――――きっと達実は、一生アレンを許さないだろう。
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