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La Vie en rose
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「――――どちらにせよ、九条のアルファである嫡出子が番を娶るとなったら、どんなに本人が拒否しようとも必ずオメガの妊娠経過は調べられるだろう。リンゴのウソが発覚するのは時間の問題なんだ」
「でも、それじゃあ采は……だまされて、あの場でOKした事になる。後で判る嘘なら、尚更ひどいじゃないか! すぐに采に教えてやらないとっ! 」
「彼は、リンゴのついたウソを承知で、首を縦に振ったのだと思うよ。私は、そう解釈した」
「う――嘘だ! 」
達実はそう言うと、激しく動揺した様子でパッと立ち上がった。
「采のヤツ、僕よりずっと年上のクセに抜けているところがあるから、あのオメガの言うことを言葉通りに受け取ってしまった可能性だって、あるじゃないか! 」
「タツミ……」
「僕、これからすぐに采のマンションに行ってくる! そうして、あのオメガの言っている事が全部ウソだって教えて来るよ! 」
「ウソ? 」
達実の言葉尻を捕らえて、アレンは問い掛ける。
「君は、リンゴの言っていたことが全てウソだというのか? 」
「だ、だって、妊娠したなんて嘘なんだろう? だったら、采がだまされてあいつの項を噛んでしまったら大変じゃないか! オメガの項なんか噛んだら、それこそ双方一生付き纏う問題になるんだ。僕の母親は、番の『血の盟約』による拒絶反応を防ぐ薬は開発したけれど――――まだ実用化までは漕ぎ着けてないし。だったら直ぐに行って、采が過ちを犯す前に教えてやらないと、大変なことになるんじゃないのか!? 」
息せき切ってそれだけ言うと、達実は直ぐに部屋を出て行こうとする。
だがその背中に、アレンの冷静な声が投げ掛けられた。
「だからミスター・サイは、君が日本を発ったタイミングで、改めてリンゴに番になろうと言ったのではないかな? 」
「え……」
「『今は色々と周囲も騒がしいから、あと二週間程経って少し落ち着いたら番になろう』と、サイは口にしていた。それはつまり、タツミが日本を出国したタイミングだろう? 」
それは、つまり――――達実というお邪魔虫が消えたら、その時こそ『番』になろうという事だ。
アレンのその指摘に、達実は顔色を無くす。
「そんな……」
「バカげた話だ、と――――思うかい? 」
「……」
無言になる達実に、アレンは諭すように言葉を掛ける。
「サイは、リンゴのウソを百も承知で、それでも妻に迎え入れて構わないと決断したのだろう。つまり彼は、リンゴに対してそれなりに愛情を持っているんだよ。番にしても良いという位はね」
「でも!! あいつの狙いは、九条の財産に決まっているじゃないか! 采は――」
すると、アレンは首を振った。
ジッと達実を見つめながら、アレンなりに林檎から感じ取った事を告げる。
「リンゴは、確かに大ウソつきだ。アルファに寄生する、よくいるタイプの性悪オメガだよ。しかし――――リンゴは一つだけ本当の事を言ったんだ」
「え……」
「『采を愛している』とね。それだけは、真実だろう」
「あ、愛……」
「そう、リンゴは本当にサイを愛しているんだ。運命の番ではないが……でも彼は、本気でサイを愛している」
そのセリフに、達実は凍り付いたように瞠目した。
――――それでは、采は林檎の嘘に踊らされたのではなく、リンゴの本当の気持ちを汲んで番になる事を承知したのか? 達実のことは、やはり愛してはいないのか――――?
林檎はオメガだ。それだけで、愛される理由は充分満たしている。
対して達実はアルファだ。采と同じ、アルファなのだ。
(でも僕だって、好きでアルファに生まれた訳じゃない! )
ギリッと奥歯を噛みしめ、達実は絞るように言葉を発した。
「……でも、采は、僕にキスをしたんだ……采は僕のことが本当は好きだから――だから、キスをしてきたんだと思っている。でも、それも全部、僕の勘違いだったっていうことなのか? 」
「でも、それじゃあ采は……だまされて、あの場でOKした事になる。後で判る嘘なら、尚更ひどいじゃないか! すぐに采に教えてやらないとっ! 」
「彼は、リンゴのついたウソを承知で、首を縦に振ったのだと思うよ。私は、そう解釈した」
「う――嘘だ! 」
達実はそう言うと、激しく動揺した様子でパッと立ち上がった。
「采のヤツ、僕よりずっと年上のクセに抜けているところがあるから、あのオメガの言うことを言葉通りに受け取ってしまった可能性だって、あるじゃないか! 」
「タツミ……」
「僕、これからすぐに采のマンションに行ってくる! そうして、あのオメガの言っている事が全部ウソだって教えて来るよ! 」
「ウソ? 」
達実の言葉尻を捕らえて、アレンは問い掛ける。
「君は、リンゴの言っていたことが全てウソだというのか? 」
「だ、だって、妊娠したなんて嘘なんだろう? だったら、采がだまされてあいつの項を噛んでしまったら大変じゃないか! オメガの項なんか噛んだら、それこそ双方一生付き纏う問題になるんだ。僕の母親は、番の『血の盟約』による拒絶反応を防ぐ薬は開発したけれど――――まだ実用化までは漕ぎ着けてないし。だったら直ぐに行って、采が過ちを犯す前に教えてやらないと、大変なことになるんじゃないのか!? 」
息せき切ってそれだけ言うと、達実は直ぐに部屋を出て行こうとする。
だがその背中に、アレンの冷静な声が投げ掛けられた。
「だからミスター・サイは、君が日本を発ったタイミングで、改めてリンゴに番になろうと言ったのではないかな? 」
「え……」
「『今は色々と周囲も騒がしいから、あと二週間程経って少し落ち着いたら番になろう』と、サイは口にしていた。それはつまり、タツミが日本を出国したタイミングだろう? 」
それは、つまり――――達実というお邪魔虫が消えたら、その時こそ『番』になろうという事だ。
アレンのその指摘に、達実は顔色を無くす。
「そんな……」
「バカげた話だ、と――――思うかい? 」
「……」
無言になる達実に、アレンは諭すように言葉を掛ける。
「サイは、リンゴのウソを百も承知で、それでも妻に迎え入れて構わないと決断したのだろう。つまり彼は、リンゴに対してそれなりに愛情を持っているんだよ。番にしても良いという位はね」
「でも!! あいつの狙いは、九条の財産に決まっているじゃないか! 采は――」
すると、アレンは首を振った。
ジッと達実を見つめながら、アレンなりに林檎から感じ取った事を告げる。
「リンゴは、確かに大ウソつきだ。アルファに寄生する、よくいるタイプの性悪オメガだよ。しかし――――リンゴは一つだけ本当の事を言ったんだ」
「え……」
「『采を愛している』とね。それだけは、真実だろう」
「あ、愛……」
「そう、リンゴは本当にサイを愛しているんだ。運命の番ではないが……でも彼は、本気でサイを愛している」
そのセリフに、達実は凍り付いたように瞠目した。
――――それでは、采は林檎の嘘に踊らされたのではなく、リンゴの本当の気持ちを汲んで番になる事を承知したのか? 達実のことは、やはり愛してはいないのか――――?
林檎はオメガだ。それだけで、愛される理由は充分満たしている。
対して達実はアルファだ。采と同じ、アルファなのだ。
(でも僕だって、好きでアルファに生まれた訳じゃない! )
ギリッと奥歯を噛みしめ、達実は絞るように言葉を発した。
「……でも、采は、僕にキスをしたんだ……采は僕のことが本当は好きだから――だから、キスをしてきたんだと思っている。でも、それも全部、僕の勘違いだったっていうことなのか? 」
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