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All for lovers
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「なっ……! 」
「誰が、こんな書類にサインなどするものか」
アレンは冷たく言い捨てると、二つに裂いた書類を床に放り投げ、次に皮肉気に笑った。
「私は、アウラの次期当主だぞ? 当然、私には後継を儲ける権利があるんだ。それなのに、子を生す事など不可能な、アルファのタツミだけをセックスの相手にしろと? そんな不利な条件に、サインなどするわけがないだろう」
「貴様っ! 」
「お前がしている事は、立派な人権侵害だよ。アルファの『番』が子を産めない場合は、他に複数の愛人を作っても良いという法律があるのを、知らなぬワケでもあるまいに」
「く……」
「もちろん、それぞれの愛人の生活を保障する義務は生じるがね。――――だが、私はアウラの次期当主だ。この私が、カネに困る事などあるワケがない。当然タツミは『番』として一番に愛するが、これからも複数の愛人は囲うつもりだ。……ああ、安心しろ」
そこでアレンは言葉を切ると、クッと口角を上げてせせら笑った。
「タツミは、毎日オメガのように抱いてやるよ。四六時中私の雄を嵌めて、あそこが閉じない程に愛してやろう。我々と同族である筈のアルファが、どのくらいオメガのような身体になるのか……考えただけでもゾクゾクする」
このセリフに、采はカッとして拳を振り上げる。
だが、後ろから引き攣ったような声で「采さま! なりません!! 」と弁護士に制止され、寸での所で思い止まる、が――。
「あっ! 采じゃないか! どうしてこんな所に来たんだよ!? 」
と、聞き覚えのある声に驚いて、采は目を丸くした。
「お前――――林檎か!? お前こそ、どうしてこんな場所にいる! 」
そう、采の用意したマンションにいる筈の立野林檎が、なぜかそこに居たのだ。
仰天せずにはいられない。
「いったい、これはどうしたことだ? お前、コイツにまた何か言いくるめられたのか? 」
林檎がアレンと共謀して、妊娠ネタをチラつかせて『番』になるよう采に迫って来たのは、つい先日だ。
(やはり、この二人は……まだ裏で繋がっていたんだな! )
そう判断せずにはいられない。
これ以上、身近にスパイを置いておくわけにもいかない。
この際ここで、ハッキリとさせなくては。
「林檎! もうこいつとは会うんじゃない! お前は、オレの番になるんだろう!? 」
そう強い言葉で命令したところ、いつもならば悄然とした様子を装って、一応は頷くであろう林檎が、なんとフフンと嗤って傲然と見返してきたのだ。
そうして、どこか誇らしげに采の脇を通り過ぎると、アレンへ腕を絡めてみせた。
意味が分からず、采は眉間にシワを寄せる。
「林檎? 」
不審げな采の声に、林檎は誇らしげに口を開く。
「オレは、あんたの番なんかにゃあならねーよ」
「っ! 」
「悪いが、オレはこっちの旦那に乗り換える事にさせてもらった」
「な――何だと!? 」
「だって、アウラっていったら、アメリカの超有名なアルファの名家じゃないか。学のないオレでも知ってる名前だ。でも、こんな国に来て油を売ってるくらいだ。てっきり、そこの傍系かと思っていたらさ、なんとこの旦那――――アウラの直系で、しかも次期当主っていう話じゃないか。それを聞いちゃあ、なぁ? 」
下品に笑うと、林檎はあからさまに媚びたしなを作ってアレンに身体を摺り寄せる。
そうして、扇情的な眼差しをアレンに送ると、次に采に視線を戻した。
「達実だっけ? あんたのワガママなあの弟には、仕方がないから形式上の『番』の地位は譲ってやるが、愛人の座は頂くことになったよ。これでオレは、辛気臭い日本から脱出して、晴れてアメリカで贅沢三昧の生活が送れるってもんだ」
「林檎……お前は、オレのことが好きだったんじゃないのか? 」
采は、自分の口から洩れる声がワナワナと震えていることに気付き、林檎の取った行動に、自分で思っていたよりもショックを受けている事に驚いた。
(林檎と愛人契約を始めて一年経つが……林檎は、もしかしたら本当にオレの番になりたいのではと感じていたのに……今までのは全部、演技だったというのか? )
信じられない気分で棒立ちになる采に、林檎は冷淡に言い返す。
「冗談じゃないね! あんたみたいな唐変木、こっちから願い下げだ」
「誰が、こんな書類にサインなどするものか」
アレンは冷たく言い捨てると、二つに裂いた書類を床に放り投げ、次に皮肉気に笑った。
「私は、アウラの次期当主だぞ? 当然、私には後継を儲ける権利があるんだ。それなのに、子を生す事など不可能な、アルファのタツミだけをセックスの相手にしろと? そんな不利な条件に、サインなどするわけがないだろう」
「貴様っ! 」
「お前がしている事は、立派な人権侵害だよ。アルファの『番』が子を産めない場合は、他に複数の愛人を作っても良いという法律があるのを、知らなぬワケでもあるまいに」
「く……」
「もちろん、それぞれの愛人の生活を保障する義務は生じるがね。――――だが、私はアウラの次期当主だ。この私が、カネに困る事などあるワケがない。当然タツミは『番』として一番に愛するが、これからも複数の愛人は囲うつもりだ。……ああ、安心しろ」
そこでアレンは言葉を切ると、クッと口角を上げてせせら笑った。
「タツミは、毎日オメガのように抱いてやるよ。四六時中私の雄を嵌めて、あそこが閉じない程に愛してやろう。我々と同族である筈のアルファが、どのくらいオメガのような身体になるのか……考えただけでもゾクゾクする」
このセリフに、采はカッとして拳を振り上げる。
だが、後ろから引き攣ったような声で「采さま! なりません!! 」と弁護士に制止され、寸での所で思い止まる、が――。
「あっ! 采じゃないか! どうしてこんな所に来たんだよ!? 」
と、聞き覚えのある声に驚いて、采は目を丸くした。
「お前――――林檎か!? お前こそ、どうしてこんな場所にいる! 」
そう、采の用意したマンションにいる筈の立野林檎が、なぜかそこに居たのだ。
仰天せずにはいられない。
「いったい、これはどうしたことだ? お前、コイツにまた何か言いくるめられたのか? 」
林檎がアレンと共謀して、妊娠ネタをチラつかせて『番』になるよう采に迫って来たのは、つい先日だ。
(やはり、この二人は……まだ裏で繋がっていたんだな! )
そう判断せずにはいられない。
これ以上、身近にスパイを置いておくわけにもいかない。
この際ここで、ハッキリとさせなくては。
「林檎! もうこいつとは会うんじゃない! お前は、オレの番になるんだろう!? 」
そう強い言葉で命令したところ、いつもならば悄然とした様子を装って、一応は頷くであろう林檎が、なんとフフンと嗤って傲然と見返してきたのだ。
そうして、どこか誇らしげに采の脇を通り過ぎると、アレンへ腕を絡めてみせた。
意味が分からず、采は眉間にシワを寄せる。
「林檎? 」
不審げな采の声に、林檎は誇らしげに口を開く。
「オレは、あんたの番なんかにゃあならねーよ」
「っ! 」
「悪いが、オレはこっちの旦那に乗り換える事にさせてもらった」
「な――何だと!? 」
「だって、アウラっていったら、アメリカの超有名なアルファの名家じゃないか。学のないオレでも知ってる名前だ。でも、こんな国に来て油を売ってるくらいだ。てっきり、そこの傍系かと思っていたらさ、なんとこの旦那――――アウラの直系で、しかも次期当主っていう話じゃないか。それを聞いちゃあ、なぁ? 」
下品に笑うと、林檎はあからさまに媚びたしなを作ってアレンに身体を摺り寄せる。
そうして、扇情的な眼差しをアレンに送ると、次に采に視線を戻した。
「達実だっけ? あんたのワガママなあの弟には、仕方がないから形式上の『番』の地位は譲ってやるが、愛人の座は頂くことになったよ。これでオレは、辛気臭い日本から脱出して、晴れてアメリカで贅沢三昧の生活が送れるってもんだ」
「林檎……お前は、オレのことが好きだったんじゃないのか? 」
采は、自分の口から洩れる声がワナワナと震えていることに気付き、林檎の取った行動に、自分で思っていたよりもショックを受けている事に驚いた。
(林檎と愛人契約を始めて一年経つが……林檎は、もしかしたら本当にオレの番になりたいのではと感じていたのに……今までのは全部、演技だったというのか? )
信じられない気分で棒立ちになる采に、林檎は冷淡に言い返す。
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