ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

文字の大きさ
86 / 116
All for lovers

3

しおりを挟む
「なっ……! 」

「誰が、こんな書類にサインなどするものか」

 アレンは冷たく言い捨てると、二つに裂いた書類を床に放り投げ、次に皮肉気に笑った。

「私は、アウラの次期当主だぞ? 当然、私には後継を儲ける権利があるんだ。それなのに、子を生す事など不可能な、アルファのタツミだけをセックスの相手にしろと? そんな不利な条件に、サインなどするわけがないだろう」

「貴様っ! 」

「お前がしている事は、立派な人権侵害だよ。アルファの『番』が子を産めない場合は、他に複数の愛人を作っても良いという法律があるのを、知らなぬワケでもあるまいに」

「く……」

「もちろん、それぞれの愛人の生活を保障する義務は生じるがね。――――だが、私はアウラの次期当主だ。この私が、カネに困る事などあるワケがない。当然タツミは『番』として一番に愛するが、これからも複数の愛人は囲うつもりだ。……ああ、安心しろ」

 そこでアレンは言葉を切ると、クッと口角を上げてせせら笑った。

「タツミは、毎日オメガのように抱いてやるよ。四六時中私の雄を嵌めて、あそこ・・・が閉じない程に愛してやろう。我々と同族である筈のアルファが、どのくらいオメガのような身体になるのか……考えただけでもゾクゾクする」

 このセリフに、采はカッとして拳を振り上げる。

 だが、後ろから引き攣ったような声で「采さま! なりません!! 」と弁護士に制止され、寸での所で思い止まる、が――。

「あっ! 采じゃないか! どうしてこんな所に来たんだよ!? 」

 と、聞き覚えのある声に驚いて、采は目を丸くした。

「お前――――林檎か!? お前こそ、どうしてこんな場所にいる! 」

 そう、采の用意したマンションにいる筈の立野林檎が、なぜかそこに居たのだ。

 仰天せずにはいられない。

「いったい、これはどうしたことだ? お前、コイツにまた何か言いくるめられたのか? 」

 林檎がアレンと共謀して、妊娠ネタをチラつかせて『番』になるよう采に迫って来たのは、つい先日だ。

(やはり、この二人は……まだ裏で繋がっていたんだな! )

 そう判断せずにはいられない。

 これ以上、身近にスパイを置いておくわけにもいかない。

 この際ここで、ハッキリとさせなくては。

「林檎! もうこいつとは会うんじゃない! お前は、オレの番になるんだろう!? 」

 そう強い言葉で命令したところ、いつもならば悄然とした様子を装って、一応は頷くであろう林檎が、なんとフフンと嗤って傲然と見返してきたのだ。

 そうして、どこか誇らしげに采の脇を通り過ぎると、アレンへ腕を絡めてみせた。

 意味が分からず、采は眉間にシワを寄せる。

「林檎? 」

 不審げな采の声に、林檎は誇らしげに口を開く。

「オレは、あんたの番なんかにゃあならねーよ」

「っ! 」

「悪いが、オレはこっちの旦那に乗り換える事にさせてもらった」

「な――何だと!? 」

「だって、アウラっていったら、アメリカの超有名なアルファの名家じゃないか。学のないオレでも知ってる名前だ。でも、こんな日本に来て油を売ってるくらいだ。てっきり、そこの傍系かと思っていたらさ、なんとこの旦那――――アウラの直系で、しかも次期当主っていう話じゃないか。それを聞いちゃあ、なぁ? 」

 下品に笑うと、林檎はあからさまに媚びたしな・・を作ってアレンに身体を摺り寄せる。

 そうして、扇情的な眼差しをアレンに送ると、次に采に視線を戻した。

「達実だっけ? あんたのワガママなあの弟には、仕方がないから形式上の『番』の地位は譲ってやるが、愛人の座は頂くことになったよ。これでオレは、辛気臭い日本から脱出して、晴れてアメリカで贅沢三昧の生活が送れるってもんだ」

「林檎……お前は、オレのことが好きだったんじゃないのか? 」

 采は、自分の口から洩れる声がワナワナと震えていることに気付き、林檎の取った行動に、自分で思っていたよりもショックを受けている事に驚いた。

(林檎と愛人契約を始めて一年経つが……林檎は、もしかしたら本当にオレの番になりたいのではと感じていたのに……今までのは全部、演技だったというのか? )

 信じられない気分で棒立ちになる采に、林檎は冷淡に言い返す。

「冗談じゃないね! あんたみたいな唐変木、こっちから願い下げだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

処理中です...