ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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All for lovers

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「何だと? 」

「あんたは、いっつも達実がどーしたこーしたって、そればっかり! 本当、どうしようもないブラコンじゃないか。相手にするのもバカらしいんだよね」

「――――オレの子を妊娠したんじゃなかったのか? 」

 嘘だと知っているが、あえて口にしてみる。

 すると、一瞬だけ林檎は顔を歪めたが……直ぐに表情を変えると、吐き捨てるように言った。

「バッカじゃないの! あんなの、ウソに決まってんじゃないか! まさか本当にダマされてたっていうのか? 」

「……そうか……」

 采は、深い溜め息を一つだけもらす。

「オレも嘘だろうとは思っていたが……本当だったらいいなと、それは……本当に思っていた」

「っ! 」

「お前がオレの事を本気で好いてくれているなら、嘘でもいいからそれを受け入れて『番』になるのも悪くないと――――そんな事を考えていたオレは、やっぱり愚か者か……? 」

 采の自嘲に、林檎は何か言い掛けるが……直ぐに俯いて表情を隠すと「ほんとう、あんたってどうしようもない大バカだよ」と返した。

「とにかくオレは、こっちに乗り換えることにしたんだ。あんたとはここでお別れだよ! 」

 そう言うと、林檎は采の視線から隠れるように、パッとアレンの後ろに回り込んだ。

 アレンは苦笑しながら、チラリと自身の後ろに隠れた林檎へ視線を投げると――――次に正面に向き直り、改めて采と対峙する。

「……そういうワケだ。あなたは、この国で一人寂しく暮らして行けばいい」

「――――そういう貴様は、達実を『番』に林檎を『愛人』にして、意気揚々とアメリカへ帰るという事か? 」

「そうだね。だが、それは私の魅力がそれだけあるということさ。君より、ずっとね」

「貴様には、ただカネがあるというだけだろう! 若造の分際で生意気に――」

「君だって、九条の直系だろう? 私ほどではないが、充分に恵まれた環境の筈だ。それなのに今まで正式な番も娶れなかったという事は、君に何か重大な欠陥があったということだろう」

「欠陥だと? 」

「そう、欠陥だ。――ああ、しかし、愛人や恋人は今までそれなりにいたようだから、アレ・・が勃たないというワケではないようだが」

 采はムッとして、アレンを睨み付ける。

「オレは40だし、確かにお前から見たらオッサンかもしれないが、だからといってとして役に立たないと思われるのは心外だ。オレには、欠陥など無い!! 」

 そう言い切ったところ、またアレンは皮肉気に笑った。

「おや? それじゃあ…………ねぇ君は、何が原因だと思う? 」

 アレンが質問した相手は采ではなく、何と、林檎の方だった。

 林檎はその問い掛けに答えるように、アレンの後ろからチラリと顔を出すと、采を侮蔑するように大げさに肩を竦めた。

「はんっ! そんなの決まってるよ。さっきも言ったじゃないか」

「――ほぉ? それは? 」

「采の頭の中はいっつも達実のことで一杯なんだ。だから、他の奴等がどんなに言い寄ったって眼中に入りもしない。それじゃあ、誰にも本気で惚れる事なんか出来ないさ」

 林檎のセリフに、采は絶句した。

 二の句が継げぬとは、この事だ。

 反論したい! 否定したい! 

 そんなバカなことは言うなと吐き捨てたい!! 



――――だが、さすがに今なら判る。



 自分は……アルファのエリートであるこの九条采は、自分よりずっと年下の義理の弟に心囚われ、心底惚れているのだと。

 言い返せない采に畳みかけるように、林檎は尚も言う。

「オレよりずっとレベルの高いオメガの美女や美男が言い寄っても、采はいっつも上の空だ。だからって、ベータやアルファにも全然興味ないようだし。何人も采にアプローチしてきたけど、あまりの無関心っぽさにあきらめて、みんな泣きをみたのを知ってるよ」

「采の態度は『暖簾に腕押し』ってヤツかな? 」

 アレンの合いの手に、林檎は頷く。
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