87 / 116
All for lovers
4
しおりを挟む
「何だと? 」
「あんたは、いっつも達実がどーしたこーしたって、そればっかり! 本当、どうしようもないブラコンじゃないか。相手にするのもバカらしいんだよね」
「――――オレの子を妊娠したんじゃなかったのか? 」
嘘だと知っているが、あえて口にしてみる。
すると、一瞬だけ林檎は顔を歪めたが……直ぐに表情を変えると、吐き捨てるように言った。
「バッカじゃないの! あんなの、ウソに決まってんじゃないか! まさか本当にダマされてたっていうのか? 」
「……そうか……」
采は、深い溜め息を一つだけもらす。
「オレも嘘だろうとは思っていたが……本当だったらいいなと、それは……本当に思っていた」
「っ! 」
「お前がオレの事を本気で好いてくれているなら、嘘でもいいからそれを受け入れて『番』になるのも悪くないと――――そんな事を考えていたオレは、やっぱり愚か者か……? 」
采の自嘲に、林檎は何か言い掛けるが……直ぐに俯いて表情を隠すと「ほんとう、あんたってどうしようもない大バカだよ」と返した。
「とにかくオレは、こっちに乗り換えることにしたんだ。あんたとはここでお別れだよ! 」
そう言うと、林檎は采の視線から隠れるように、パッとアレンの後ろに回り込んだ。
アレンは苦笑しながら、チラリと自身の後ろに隠れた林檎へ視線を投げると――――次に正面に向き直り、改めて采と対峙する。
「……そういうワケだ。あなたは、この国で一人寂しく暮らして行けばいい」
「――――そういう貴様は、達実を『番』に林檎を『愛人』にして、意気揚々とアメリカへ帰るという事か? 」
「そうだね。だが、それは私の魅力がそれだけあるということさ。君より、ずっとね」
「貴様には、ただカネがあるというだけだろう! 若造の分際で生意気に――」
「君だって、九条の直系だろう? 私ほどではないが、充分に恵まれた環境の筈だ。それなのに今まで正式な番も娶れなかったという事は、君に何か重大な欠陥があったということだろう」
「欠陥だと? 」
「そう、欠陥だ。――ああ、しかし、愛人や恋人は今までそれなりにいたようだから、アレが勃たないというワケではないようだが」
采はムッとして、アレンを睨み付ける。
「オレは40だし、確かにお前から見たらオッサンかもしれないが、だからといって男として役に立たないと思われるのは心外だ。オレには、欠陥など無い!! 」
そう言い切ったところ、またアレンは皮肉気に笑った。
「おや? それじゃあ…………ねぇ君は、何が原因だと思う? 」
アレンが質問した相手は采ではなく、何と、林檎の方だった。
林檎はその問い掛けに答えるように、アレンの後ろからチラリと顔を出すと、采を侮蔑するように大げさに肩を竦めた。
「はんっ! そんなの決まってるよ。さっきも言ったじゃないか」
「――ほぉ? それは? 」
「采の頭の中はいっつも達実のことで一杯なんだ。だから、他の奴等がどんなに言い寄ったって眼中に入りもしない。それじゃあ、誰にも本気で惚れる事なんか出来ないさ」
林檎のセリフに、采は絶句した。
二の句が継げぬとは、この事だ。
反論したい! 否定したい!
そんなバカなことは言うなと吐き捨てたい!!
――――だが、さすがに今なら判る。
自分は……アルファのエリートであるこの九条采は、自分よりずっと年下の義理の弟に心囚われ、心底惚れているのだと。
言い返せない采に畳みかけるように、林檎は尚も言う。
「オレよりずっとレベルの高いオメガの美女や美男が言い寄っても、采はいっつも上の空だ。だからって、ベータやアルファにも全然興味ないようだし。何人も采にアプローチしてきたけど、あまりの無関心っぽさにあきらめて、みんな泣きをみたのを知ってるよ」
「采の態度は『暖簾に腕押し』ってヤツかな? 」
アレンの合いの手に、林檎は頷く。
「あんたは、いっつも達実がどーしたこーしたって、そればっかり! 本当、どうしようもないブラコンじゃないか。相手にするのもバカらしいんだよね」
「――――オレの子を妊娠したんじゃなかったのか? 」
嘘だと知っているが、あえて口にしてみる。
すると、一瞬だけ林檎は顔を歪めたが……直ぐに表情を変えると、吐き捨てるように言った。
「バッカじゃないの! あんなの、ウソに決まってんじゃないか! まさか本当にダマされてたっていうのか? 」
「……そうか……」
采は、深い溜め息を一つだけもらす。
「オレも嘘だろうとは思っていたが……本当だったらいいなと、それは……本当に思っていた」
「っ! 」
「お前がオレの事を本気で好いてくれているなら、嘘でもいいからそれを受け入れて『番』になるのも悪くないと――――そんな事を考えていたオレは、やっぱり愚か者か……? 」
采の自嘲に、林檎は何か言い掛けるが……直ぐに俯いて表情を隠すと「ほんとう、あんたってどうしようもない大バカだよ」と返した。
「とにかくオレは、こっちに乗り換えることにしたんだ。あんたとはここでお別れだよ! 」
そう言うと、林檎は采の視線から隠れるように、パッとアレンの後ろに回り込んだ。
アレンは苦笑しながら、チラリと自身の後ろに隠れた林檎へ視線を投げると――――次に正面に向き直り、改めて采と対峙する。
「……そういうワケだ。あなたは、この国で一人寂しく暮らして行けばいい」
「――――そういう貴様は、達実を『番』に林檎を『愛人』にして、意気揚々とアメリカへ帰るという事か? 」
「そうだね。だが、それは私の魅力がそれだけあるということさ。君より、ずっとね」
「貴様には、ただカネがあるというだけだろう! 若造の分際で生意気に――」
「君だって、九条の直系だろう? 私ほどではないが、充分に恵まれた環境の筈だ。それなのに今まで正式な番も娶れなかったという事は、君に何か重大な欠陥があったということだろう」
「欠陥だと? 」
「そう、欠陥だ。――ああ、しかし、愛人や恋人は今までそれなりにいたようだから、アレが勃たないというワケではないようだが」
采はムッとして、アレンを睨み付ける。
「オレは40だし、確かにお前から見たらオッサンかもしれないが、だからといって男として役に立たないと思われるのは心外だ。オレには、欠陥など無い!! 」
そう言い切ったところ、またアレンは皮肉気に笑った。
「おや? それじゃあ…………ねぇ君は、何が原因だと思う? 」
アレンが質問した相手は采ではなく、何と、林檎の方だった。
林檎はその問い掛けに答えるように、アレンの後ろからチラリと顔を出すと、采を侮蔑するように大げさに肩を竦めた。
「はんっ! そんなの決まってるよ。さっきも言ったじゃないか」
「――ほぉ? それは? 」
「采の頭の中はいっつも達実のことで一杯なんだ。だから、他の奴等がどんなに言い寄ったって眼中に入りもしない。それじゃあ、誰にも本気で惚れる事なんか出来ないさ」
林檎のセリフに、采は絶句した。
二の句が継げぬとは、この事だ。
反論したい! 否定したい!
そんなバカなことは言うなと吐き捨てたい!!
――――だが、さすがに今なら判る。
自分は……アルファのエリートであるこの九条采は、自分よりずっと年下の義理の弟に心囚われ、心底惚れているのだと。
言い返せない采に畳みかけるように、林檎は尚も言う。
「オレよりずっとレベルの高いオメガの美女や美男が言い寄っても、采はいっつも上の空だ。だからって、ベータやアルファにも全然興味ないようだし。何人も采にアプローチしてきたけど、あまりの無関心っぽさにあきらめて、みんな泣きをみたのを知ってるよ」
「采の態度は『暖簾に腕押し』ってヤツかな? 」
アレンの合いの手に、林檎は頷く。
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる