ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

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   ◇

 アレンは、きょを移したコテージから一人で勝手に出て行こうとする林檎に気付き、少し慌てて声を掛けた。

「どうした? リンゴの部屋も手配してあるぞ。遠慮しないで、このまま滞在すればいい」

 このセリフに、林檎は「はぁ? 」と言って肩越しに振り返った。

「何言ってんだ? オレの用事はもう終わったんだから、いつまでもこんな所にいる理由なんてないじゃん」

「それは……そうだが……」

「じゃあ、あばよ」

「待て! 」

「なんだよ、うるさいなぁ」

 苛立った様子の林檎に、アレンは――――彼にしては珍しく、どこか気弱な色をブルーの瞳に滲ませながら口を開いた。

「……そうだ! これから、私と夕食を一緒にどうだ? フレンチのシェフも呼んである」

「あー……フレンチねぇ。采に付き合って食ったけどさ、オレ、ああいうテーブルマナーとかあるメシって堅苦しくて楽しめないんだよね」

 そう素気無く言い、今度こそ林檎は、その場を後にしようとする。

 しかし、戸口でピタリと足を止め、アレンを振り返った。

「あのさ」

「何だい? 」

 林檎が足を止めた事で、どこか余裕の表情を取り戻しながらアレンは口を開く。

「さぁ、言ってみるがいい。この私と夕食を共にしたいと――」

「タクシー呼んでくれない? 」

「……」

「ケータイの充電が切れたみたいだからさ、頼むよ」

 嘆息しながら、林檎はそれだけを口にした。

 どうやら本当に、林檎はここを去る気のようだ。

 その事実に、アレンは茫然とする。

 今までアレンは、数多の人間から露骨なアプローチを受ける側だった。

 いつだって彼は、アルファの王だったから……。

 その王の歓心を得ようと、アルファもベータもオメガも、種族問わず誰もが身を投げ出してきて足元へと縋り付いてきた。

 ただ一人だけ、達実は違ったが。

――――しかしここに、やはりアレンを拒絶する人間がいる。

 いいや、拒絶どころではない。

 そもそも、彼はアレンに興味自体が無いようだ。

 この現実には、唖然とするしかない。

「そうは言うが……リンゴは、ここを出てどうするつもりなんだ? 」

「は? 自分のアパートに帰るだけだよ。なに当たり前のことを言ってんだ」

「……そうではない。君は、オメガだろう? もう、采の次の目星を付けているのか? 」

 アレンの言っている事が分かり、林檎は肩をすくめて答えた。

「そんなもんないよ。ま、しばらくは、あんたらから貰ったカネがあるからゆっくりするつもりだけどね」

「その先は? 」

「――――そんなの、アンタみたいなセレブには関係ないだろう」

 林檎は、もう二十代も中頃を過ぎようとしている。

 童顔なのも幸いして年齢はサバを読んでいるが、愛人業を続けていくのもそろそろ限界だろう。

 だが、だからといって今更普通のサラリーマンなど無理だ。

 そもそも林檎は中卒で、これといって学歴もない。

「世の中には、オメガでも……七海達樹や結城奏みたいな天才もいるけどさ。でも大部分は、凡庸で普通で平凡なやつらばっかりだよ。で、オレもその一人だ」

「……」

「今は、オメガの発情ヒートを抑える安くて安全な薬もあるけどさ、オレみたいな底辺はそんな薬は使わないで、アルファの太い客を捕まえた方がよっぽど将来安心して暮らしていけるんだ。昔からそうやって、底辺のオメガが暮らしてきたのは真実だろう? 」
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