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しおりを挟む西門へ聖を運ぶ途中で、追っ手に追い付かれた。
離れの位置は西に近かったのだが、脱出ルートに想定してた場所に、夕方、大型の重機が移動されていて、それに行く手を阻まれたせいだ。
「くそっ! 迂回するぞ! 」
そうこうしている内に、三人は追っ手に周りを取り囲まれてしまった。
聖を無傷で連れ戻せと命令されていた追っ手たちは、刃物や銃などの物騒な武器は持っていない。
それぞれの手には、ロープや、国内でも流通し始めたスタンガンを持っている。
怯む徹と碇に向かい、追っ手は恫喝した。
「生憎だったな! てめぇら、こっから逃げられるとでも思っていたのかよっ」
「そいつを渡しな。そうしたら、半殺しで止めといてやるよ」
「さあ、早くこっちに寄こせ! 」
ジリジリと間合いを詰める男たちと対峙しながら、碇はチラリと徹を見遣る。
「兄さん、こいつらはオレが何とかする。しかし、このままじゃあこっちは行き止まりだ。今は、裏口も塞がっている。東の方は――」
「……正弘の大親分が、直接落とし前を付けに乗り込む手筈だ。オレ達はその隙に、西側から脱出する予定だったんだが――」
すると、碇はニヤリと笑って言った。
「じゃあ、オレはせいぜいここで暴れるから、兄さんは東に行ってくれ! 」
言うや否や、碇は剛腕を唸らせた。
辺りにいた男たちは、まとめて吹き飛ぶ!
狂戦士のように獰猛に笑いながら、碇は吠える。
「おらおらおら! 四中の近藤碇と言えば、震えあがって高校のヤンキーも族連中も道を開けたもんだぜ! てめぇら、気合入れてかかって来いやぁ!! 」
剛腕が左右に唸り、鮮血が散る。
バキッと、骨の砕けるような、嫌な音も上がる。
完全無慈悲の鉄拳に、さすがの極道の男たちも怯んだが、それも数秒。
「調子に乗るなよ、クソガキがぁ! 」
一斉に、男たちは碇に襲い掛かった!
その修羅場を背にして、徹は聖を腕に抱えながら、身を翻して東門へ向かう。
頭に血の上った男たちは、皆、碇に引き寄せられている。
碇は、自ら囮になったのだ。
悪鬼のごとく、碇は派手に暴れまわり、周囲の注意を一身に己へ引き付ける。
(すまねぇ! この子を逃がしたら、すぐに助太刀に戻る! )
徹はそう誓い、急いで東側へ走り抜け、どうにかそこに到達した。
――――はぁはぁ……。
そして、荒い息を吐き、見遣った先では、大親分の天黄正弘と、現組長の肥後竜真がまさに睨み合っている最中であった。
「お、はぁはぁ……おや、ぶ――」
息が上がり、言葉にならない。
とりあえず腕に抱えていた少年を木の根元へ下ろし、徹は、また顔を上げた。
だが、そこで、思いもよらないモノを見る。
(えっ!? あいつ、何を――)
視線の先には、暗闇の中、猟銃を持った東堂が異様な様子でフラフラと立っていた。
鼻血で顔半分が赤く染まり、歯の折れた口からも泡のような血を垂らしながら、東堂は狂ったような形相で猟銃を構える。
中央の、明かりに照らされた場所で対峙している正弘と竜真には、暗闇は目に入らない。
そうだ、彼らには東堂が見えないのだ!
ただ、東堂と同じように、暗闇にいた徹だけが見えた。
「おやぶ――」
ドンッ!!
発砲音が上がり、竜真の胸に大穴が空く。
呆気にとられ、次に殺気立つ周囲に構わず、東堂はまた猟銃を構えた。
「親分っ! 」
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