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この聖が、ここまで好き勝手に身体へ痕を付けさせるなど、滅多な相手ではないだろう。
意に添わぬ事を強要しようものなら、蹴り飛ばして相手を粉砕する事くらいはしそうな気性の男だ。
聖は平静を装ってはいるが、よくよく観察すると、未だにどこか身体の動きが鈍く随分と辛そうではないか。
「もしかして……裏の? 」
「――ああ、そうだ。分かったら、どけ」
嘆息しながら言うと、沙也加は大人しく体をどけた。
「……やっぱりさ、あたしもかなり修羅場踏んだ方だと思ってたけど、社長の方も大変だよね。その痕の相手って、絶対女じゃないでしょ? 」
「――ああ」
「社長って、ドSの恋人が――あぁ、恋人がそんなヒドイ事はしないよね……」
傷痕からは、愛撫というような、優しい雰囲気は一切感じない。
彼に刻まれた身体の痕は、ただの暴力を連想させるものばかりだ。
沙也加なりに気を回し、口調を変えて、彼女は違う話題に移った。
「今日から、事務所に新人スタッフが来るんでしょう? まだ十九だって、若い男の子が」
「ああ。それもあって、今日はオレも顔を出したんだ」
聖が、力になりそうな男を紹介してくれと正弘に言ったところ、さっそく連絡があった。なんでも、組に一切の下心なしで忠誠を誓っているような、今時珍しい若者だとか。
「――沙也加、周辺には重々気を付けろよ。お前はこれから、どんどん推し出す予定の女優なんだからな」
「なに? スキャンダルのこと? そんなの大丈夫よぉ! だって、ウチの事務所、裏に天黄組がいるって業界じゃあ公然の秘密じゃない。そう易々と、看板女優に手なんか出して来ないでしょ」
そうだと、いいのだが。
カネをかけた分、沙也加に何かあればダメージが大きい。
心配する聖の背後へ回り込み、背中から両手を回して、沙也加はその頬へチュッとキスをした。
「大丈夫よ。ふふふ、社長ったら可愛いんだから」
「可愛いだぁ? そんなの言われても嬉しくねぇぞ」
「あたし、そのドSの彼の気持ち、ちょっと分かる気がするのよねー」
「あのな……」
言いかけた、その唇を深く塞ぐ。
かなり強引だが、でも、優しく。
聖も、本気でそれに抗ったりはしない。
仕方がないなと諦めたように、身体の力を抜いている。
それに、この女はそんなに嫌いじゃない。
「ん……」
その時、トントンと扉がノックされた。
そして、こちらの返事も待たずにガチャリと扉があき、ひょろりと背の高い青年が飛び込んできた。
「すみません! 今日、こちらへご挨拶に――」
その舌が、凍ったように止まる。
視線の先には、甘い雰囲気のまま抱き合っている男女がいたからだ。
女の方はよく知っている。テレビでよく見ている顔だ。有賀沙也加という、売り出し中の清純派女優だ。
そして、もう一人は――――
「あ、の……」
「あら、本当に若いじゃない! それに、結構イケメン! あんたスタッフじゃなくて、俳優になった方がいいんじゃないのぉ? 」
テレビの中では清純派女優だった女は、戸惑う真壁を見て、明け透けな物言いでケラケラと笑った。
そして、椅子に座ったままの男の方は、真壁の顔を見て驚いたように目を見開いていた。
「あんた――確か、真壁徹って……」
「はい、オレは、真壁徹の弟で了っていいます。組長からこちらの応援に就くよう言われて来ました。よろしくお願いします! 」
大きな声でそう言うと、背の高い男は身体を二つに折って、深々と頭を下げた。
意に添わぬ事を強要しようものなら、蹴り飛ばして相手を粉砕する事くらいはしそうな気性の男だ。
聖は平静を装ってはいるが、よくよく観察すると、未だにどこか身体の動きが鈍く随分と辛そうではないか。
「もしかして……裏の? 」
「――ああ、そうだ。分かったら、どけ」
嘆息しながら言うと、沙也加は大人しく体をどけた。
「……やっぱりさ、あたしもかなり修羅場踏んだ方だと思ってたけど、社長の方も大変だよね。その痕の相手って、絶対女じゃないでしょ? 」
「――ああ」
「社長って、ドSの恋人が――あぁ、恋人がそんなヒドイ事はしないよね……」
傷痕からは、愛撫というような、優しい雰囲気は一切感じない。
彼に刻まれた身体の痕は、ただの暴力を連想させるものばかりだ。
沙也加なりに気を回し、口調を変えて、彼女は違う話題に移った。
「今日から、事務所に新人スタッフが来るんでしょう? まだ十九だって、若い男の子が」
「ああ。それもあって、今日はオレも顔を出したんだ」
聖が、力になりそうな男を紹介してくれと正弘に言ったところ、さっそく連絡があった。なんでも、組に一切の下心なしで忠誠を誓っているような、今時珍しい若者だとか。
「――沙也加、周辺には重々気を付けろよ。お前はこれから、どんどん推し出す予定の女優なんだからな」
「なに? スキャンダルのこと? そんなの大丈夫よぉ! だって、ウチの事務所、裏に天黄組がいるって業界じゃあ公然の秘密じゃない。そう易々と、看板女優に手なんか出して来ないでしょ」
そうだと、いいのだが。
カネをかけた分、沙也加に何かあればダメージが大きい。
心配する聖の背後へ回り込み、背中から両手を回して、沙也加はその頬へチュッとキスをした。
「大丈夫よ。ふふふ、社長ったら可愛いんだから」
「可愛いだぁ? そんなの言われても嬉しくねぇぞ」
「あたし、そのドSの彼の気持ち、ちょっと分かる気がするのよねー」
「あのな……」
言いかけた、その唇を深く塞ぐ。
かなり強引だが、でも、優しく。
聖も、本気でそれに抗ったりはしない。
仕方がないなと諦めたように、身体の力を抜いている。
それに、この女はそんなに嫌いじゃない。
「ん……」
その時、トントンと扉がノックされた。
そして、こちらの返事も待たずにガチャリと扉があき、ひょろりと背の高い青年が飛び込んできた。
「すみません! 今日、こちらへご挨拶に――」
その舌が、凍ったように止まる。
視線の先には、甘い雰囲気のまま抱き合っている男女がいたからだ。
女の方はよく知っている。テレビでよく見ている顔だ。有賀沙也加という、売り出し中の清純派女優だ。
そして、もう一人は――――
「あ、の……」
「あら、本当に若いじゃない! それに、結構イケメン! あんたスタッフじゃなくて、俳優になった方がいいんじゃないのぉ? 」
テレビの中では清純派女優だった女は、戸惑う真壁を見て、明け透けな物言いでケラケラと笑った。
そして、椅子に座ったままの男の方は、真壁の顔を見て驚いたように目を見開いていた。
「あんた――確か、真壁徹って……」
「はい、オレは、真壁徹の弟で了っていいます。組長からこちらの応援に就くよう言われて来ました。よろしくお願いします! 」
大きな声でそう言うと、背の高い男は身体を二つに折って、深々と頭を下げた。
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