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 ヤンがどんなに非道な行いをしたのか知っている彼等は、当然、七海がもしも目覚める時が来たら――――ヤンは絶対に報復を受けるだろうと予想していたのに。

 一同の驚愕の視線を受けながら、七海はタブレットに目線を当てる。

「オレハ、ヤンガ、クジョウノコトヲ、アイシテイルノヲシッテイタ。ズットマエカラ、シッテイタンダ」

「七海……」

「ダケドソレヲムシシテ、ミナイフリヲシテイタ。ホウッテオイタ。ソウシテ、クジョウヲホンロウシテ――ヤンモ、ユウジンダトイッテ。ヒトノキモチヲ、モテアソンデイタ」

「そんなっ! 君は本当に綺麗で美しくて、誰よりも輝いていて……」

――――ああ、だから。

「私は……ずっと、君に成りたかったんだ……」

 憎んでいたけど、それと同じくらい好きだった。

 大学に残っていた七海を暴漢に襲わせ、滅茶苦茶に壊したのに――――応急処置を施して救急車を呼んだのも、ヤンだった。

 それからずっと、ヤンは七海が回復するように尽力した。

 何という矛盾だろう。

 ヤンは、七海を憎悪しながら憧れたのだ。

 華やかで綺麗で、いつも皆の羨望を集めて輝いている七海に。

――――自分も、ああなりたいと。

「七海――すまなかった……今すぐ死ねと言われても、私はそれに従おうと覚悟は決めている。何もかも私が全部悪かったんだ。あの人九条凛を勝手に好きになって、思いが受け入れられないと逆恨みして――」

 どう足掻いても、自分では七海のようには成れないと悲観して。恨んで、呪って。

 それと同時に、どうにもならない程に七海に憧れて…………。

 でも、それは七海も知っていた。

 ヤンが七海に向ける、熱い羨望と嫉妬の視線を受けながら――――知っていたのに、見えない振りをして無視していた。そうして、彼にはただ友情だけを求めた。

 九条を翻弄する七海を見ては、ヤンがどういう気持ちでいるのか……そんな事も全部無視して、好きなように振舞っていた。

「オレハ、ヒドイヤツダッタナ」

 そして、やつれても尚美しい七海は、フッと笑った。

「七海……」

 ヤンが、その名を呟いた時――――。


 ガラッ


「七海っ! 」

 丁度そのタイミングで九条が駆け付け、ほとんど間を空けずに、奏も病室へ到着したのであった。

   ◇

 これだけの長い期間をベッドの上で過ごしていた割には、七海の運動能力は落ちてはいなかった。

 人は、たとえ健康な身体でも、一ヵ月も寝たきりになると起き上がるのも難しくなってきて、リハビリが必要になる。それなのに、手を握ったり開いたり、身体を動かして寝返りを打ったりと、目覚めたばかりだというのに、七海はある程度の運動能力を保持していた。

 長く声帯を使っていないので、まだ自由に喋る事は出来ないが……。

 しかし、身体を動かす動作が出来るなんて、これは驚嘆するに充分な現象だ。

 奏と九条は、七海だからこそ可能な奇跡かと思ったが――――。

「チガウ。コレハ、ヤンガ、シンボウヅヨク、マイニチ、リハビリ、ヲ、ホドコシタセイカダロウ」

 七海はそう言い、『そうなんだろう?』と、ヤンを見た。

「……カンセツガ、カタマッテイナイ。マイニチ、オレニ、リハビリトマッサージヲシタンダナ? 」

「――――ええ、仰る通りです。毎日欠かさずに、私はあなたに二時間のマッサージと、リハビリを処置していました」

 静かなヤンの答えに、だが、奏はキッと鋭い視線を向けた。

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