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たいした得にもならないが、例外的に今回だけは、売買契約に応じてやろうと思った。
同時にその場で、今後一切結城奏には近寄らない事を確約させようと考えたのだが…………その、肝心の馬淵本人が来ないでは話にならない。
(一度で済むような話を、またダラダラと時間ばかりを無駄にして……ベータの連中も、愚鈍なものだな)
時計を確認して、正嘉は不機嫌に溜め息をつく。
先程、馬淵コーポレーションの人間と約束してしまったので、20時まではここを動けない。焦って行動を起こす気は無いが、それにしても、やはり『運命の番』の行方がハッキリとしない現状にはイライラする。
研究所に居ない事は分かっている。
十中八九、九条が匿っていると思われるが――――さて、どうするか?
九条も、あちこちにマンションや別荘を持っている。
その何処かに奏はいるのであろうが、手のものを使って探し出すか、それとも直接九条凛を問い詰めるか。
委員会に掛け合うのも考えたが、あまりプライベートな事を表沙汰にはしたくないのも本音だ。
(何故、どいつもこいつもオレの邪魔ばかりするんだ…………)
先程からそればかり考えていて、正嘉の表情は険しい。
――――この時の正嘉は、自分の心を正しく理解していなかった。
これだけイライラする原因は、不本意ではあるが結城奏を『番』としたのに、その身柄を夫たる自分が押さえていないという現状に不満が募っているからだと思っていた。
それは半分だけ当たっていて、半分は違っていた。
正嘉は…………恋をしたのだ。
少年だった正嘉を裏切った、件のオメガの令嬢に対して抱いた淡い恋心ではなく、本物の燃えるような恋を。
だから、奏が自分ではなく馬淵栄太というベータを伴侶に選ぼうとした事も、どうしても不愉快だった。許せなかった。
正嘉は、生まれて初めて恋敵に嫉妬したのだ。
故に、無意識に意趣返しをしようとして、今回の行動に出たのだ。
ようするに……正嘉は恋敵に恩を売り付けて、立場の違いを見せつけてやろうとしているワケだ。
何とも低俗な動機なのだが…………しかし、彼自身が、未だその心情に気付いていない。
周囲はそれとなく勘付いているというのに、正嘉だけがまだ分からないでいた。
険しい表情でパソコン画面を睨みながら、正嘉は自分でも正体の分からない感情にひたすらイライラする。
(結城奏――お前はオレの運命なのだから、わざわざオレが出向かなくても、大人しく自分から来るのが筋だろうが)
正嘉の苛立っているその様子にビクビクしながら、秘書は遠慮がちに声を掛ける。
「あ、あの、正嘉さま――」
「なんだ」
「その、九条様からお電話が来ておりますが」
「繋ぐなと言ったばかりだろう! 」
「いえ、その……九条凛様からです」
秘書の言葉に、正嘉はキッと顔を上げた。
同時にその場で、今後一切結城奏には近寄らない事を確約させようと考えたのだが…………その、肝心の馬淵本人が来ないでは話にならない。
(一度で済むような話を、またダラダラと時間ばかりを無駄にして……ベータの連中も、愚鈍なものだな)
時計を確認して、正嘉は不機嫌に溜め息をつく。
先程、馬淵コーポレーションの人間と約束してしまったので、20時まではここを動けない。焦って行動を起こす気は無いが、それにしても、やはり『運命の番』の行方がハッキリとしない現状にはイライラする。
研究所に居ない事は分かっている。
十中八九、九条が匿っていると思われるが――――さて、どうするか?
九条も、あちこちにマンションや別荘を持っている。
その何処かに奏はいるのであろうが、手のものを使って探し出すか、それとも直接九条凛を問い詰めるか。
委員会に掛け合うのも考えたが、あまりプライベートな事を表沙汰にはしたくないのも本音だ。
(何故、どいつもこいつもオレの邪魔ばかりするんだ…………)
先程からそればかり考えていて、正嘉の表情は険しい。
――――この時の正嘉は、自分の心を正しく理解していなかった。
これだけイライラする原因は、不本意ではあるが結城奏を『番』としたのに、その身柄を夫たる自分が押さえていないという現状に不満が募っているからだと思っていた。
それは半分だけ当たっていて、半分は違っていた。
正嘉は…………恋をしたのだ。
少年だった正嘉を裏切った、件のオメガの令嬢に対して抱いた淡い恋心ではなく、本物の燃えるような恋を。
だから、奏が自分ではなく馬淵栄太というベータを伴侶に選ぼうとした事も、どうしても不愉快だった。許せなかった。
正嘉は、生まれて初めて恋敵に嫉妬したのだ。
故に、無意識に意趣返しをしようとして、今回の行動に出たのだ。
ようするに……正嘉は恋敵に恩を売り付けて、立場の違いを見せつけてやろうとしているワケだ。
何とも低俗な動機なのだが…………しかし、彼自身が、未だその心情に気付いていない。
周囲はそれとなく勘付いているというのに、正嘉だけがまだ分からないでいた。
険しい表情でパソコン画面を睨みながら、正嘉は自分でも正体の分からない感情にひたすらイライラする。
(結城奏――お前はオレの運命なのだから、わざわざオレが出向かなくても、大人しく自分から来るのが筋だろうが)
正嘉の苛立っているその様子にビクビクしながら、秘書は遠慮がちに声を掛ける。
「あ、あの、正嘉さま――」
「なんだ」
「その、九条様からお電話が来ておりますが」
「繋ぐなと言ったばかりだろう! 」
「いえ、その……九条凛様からです」
秘書の言葉に、正嘉はキッと顔を上げた。
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