彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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Good-bye, days dear

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 聖が、どれだけの思いで今回の海外戦略に尽力していたのかを知っているだけに、彼も無念なのだろう。

 だが、敵の力は強力だ。

 今まで彼が培ってきた人脈と資金で対抗するには、限界だった。

「――――すまない」

 首を垂れる亜麻色の頭を見下ろしながら、聖は苦々し気に舌打ちをした。

 そうして爪を噛みながら、窓から眼下のネオンを睨みつける。

 その状態で、数秒後。

 聖は意を決したように振り返り、項垂れてソファーへ座ったままの男を睥睨した。

「その横やりを入れた中国資本は、白山バイシャン股份有限公司コフンヨウシエンゴンスーか?」

「……ああ、そうだ」

 それは、今や、飛ぶ鳥を落とす勢いでエンターテインメント界に勢力図を拡大させている中国の会社だった。

 創業者はバイ子豪ズーハオという男で、裏の世界とも繋がっている狡知に長けた人物だったと聞いている。

 白山は湯水のように使える資金力をバックに、かなり強引な手法でハリウッドにも食い込んで来ているらしい。

――――今回のように。

 確か、その白山股份有限公司で、現在海外エンタメ部門の代表を務めている男の名はバイ子豪ハオランという、まだ三十代の若い男で……白家の四男坊だった筈だ。

 その男は、日本で開催予定の映画祭に合わせて、買い付けも兼ねて来日しているという情報が聖の耳に入ってあった。

「ダグ」

「何だい、ミドー?」

「白子豪と、連絡は取れないか?」

「っ!?」

 聖の言いたい事が分かり、ダグラスは顔色を変えた。

「まさか――彼を誘惑する気か?」

「そんな、まさか」

 聖は軽く笑い返すと、肩をすくめて言い返す。

「――ただ、ジュピタープロの今後の海外戦略の件もある。こう何度も横槍を入れられるようじゃあ、こっちの計画も儘ならないだろう? だから、これからの事を考えて、顔だけでも繋いでおきたいんだよ。ヤツは、今、日本に来ているんだろう?」

「……ああ」

 ダグラスは、探るような視線を聖へ向けながら、不承不承頷いた。

「今回の一件で、直接私に詫びを入れたいと連絡があった。ハリウッドに太いパイプを持つ、プロモーターの私の顔に泥を塗ったままでは拙いと思ったんだろう」

 これに、聖はクッと笑った。

「詫びを入れんなら、まずはオレにすんのが流儀じゃねぇか。散々邪魔しやがってよ。……決まりだな」

「?」

「ヤツに――白子豪と面会できるようにセッティングを頼むぜ。日本にいる間にな」

「そんなっ! 彼は、明後日国に帰る予定だぞ? さすがに急すぎる――」

 ダグラスがそう声を上げ掛けたところ、聖の腕がするりと伸び、その喉を撫で上げた。

「このオレの頼みを、断ろうってのかい?」

「うぅ……」

 白魚のような聖の手が、喉から胸へと移動する。

「なぁ、どうなんだ?」

 さらに手は下がり、下腹部付近をさわさわとうごめく。

 以前としてソファーに座ったままのダグラスに、聖は上から覆いかぶさるように凭れると、その耳たぶを軽く噛み、甘く舐る。

「オレのことを伴侶にしたいだの何だのと、熱烈な事を言ってくれたの覚えてるぜ。――そのオレの願いを呑めないってのかい?」

 甘い猛毒のような言葉に、ダグはギリっと歯軋りをする。

 そうして、押し殺したような声で一言洩らした。

Asshole汚いヤツだ!」

「Thank you」

 ニヤリと笑う聖の、美しい顔を見上げながら……ダグラスは、降参するしかなかった。
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