彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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Good-bye, days dear

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 季節は過ぎ去り、時はあっという間に移り変わる。

 聖はそれを肌で感じながら、時代に取り残されまいと日々足掻いている。

“会社をもっと大きくして、愛しい我が子ユウに何不自由のない暮らしをさせたい”

その一念だけで、ずっと歯を食いしばって生きて来たが。

――――だが、もう若い時のように無理は出来ない。

 どんなに若々しく見えようが、確実に歳を取ってきている。

 度重なる謀略とそれに伴う肉体の交合で心身ともに疲弊し、回復しきれずに弱っていたのは事実だ。

 だから、どこかに心の安らぎを求めて、つい加賀誉と逢瀬を重ねてしまった。

――――愛されるより、愛したい。

 聖は、誰かを愛したいのだ。

 その相手である誉を拒絶することは辛かった。

 そして、誉に去られる事はもっと辛かった。

 僅かな日々だったが、甘い恋人のような時を過ごして楽しかったのに。

 しかしそれ以上に、深い悲しみと苦悩を味わう結果に終わった。

 でも、こんなのは全部自業自得だ。

 誰を恨むことも出来やしない。

 すべて、自分が蒔いた種だ。

 こんな生き方しかできないのも、自分が悪いのだから。


――――それが、どうしようもなく寂しい。


「どうした、ミドー?」

 声を掛けられ、ハッと聖は現実へ戻った。

 ここは、Rホテルのゲストハウスだ。

 ダグラスは聖の願いを聞き入れて、翌日強引にバイ子豪ズーハオに面会するアポイントを捻じ込んだのだ。

 仏頂面の執事を前に、ダグラスは小声で注意を促す。

「今回アポを取る為に、かなり強引に迫ったから。相手は不快に思っているだろう。本当に、大丈夫なのかい?」

 心配そうな様子でソワソワする相手に微笑み返すと、聖は組んでいた脚を解いた。

 それまで仏頂面だった執事がドアの方へ向き直り、主人を迎える為の動作に入ったからだ。

 聖とダグラスも起立し、それに倣う。

――――どうやら、お出ましのようだ。

 ガチャリとドアが開くと、如何にも育ちの良さそうなエリート然とした青年と、彼の前後を護るように、ボディガードと思しき男達が入室してきた。

 首を垂れる執事の前の素通りした青年は、わざとらしいくらい露骨に聖を無視すると、隣にいたダグラスへと握手を求めた。

「どうも、バーグマンさん。この前の件ではご迷惑をおかけして申し訳ない。国に帰る前に、お会いできてよかったです」

「いえ、こちらこそ」

「貴方とは、今後とも是非お付き合いをしたいと思っていたところです。我が白山グループは、グローバルなショービジネスに注力する方針ですから」

 ニッコリと笑い、力強い手でダグラスの手を握り締める。

 子豪ズーハオの全身から漲る自信の正体は、一度も挫折を知らないであろう御曹司特有のものだった。

(己の権力を信じて疑わない、お坊ちゃんって事だな)

 今まで何が起ころうと、札束で全て解決出来たのだろう。

 だから、今回もそれで済むと思っているに違いない。

(――――それじゃあ一つコイツに、世の中、金で解決できないこともあるんだって教えてやろうじゃないか)

 聖は俯きながら、くっと笑った。

 そうして、おもむろに顔を上げる。

 両眼に力を入れ、嫣然と微笑みながら、真正面から子豪を見つめた。


 時が、止まる。


「初めまして、白子豪さん。私はジュピタープロダクションの代表取締役をしております、御堂聖というものです」
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