彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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Poisonous flower

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「男を相手にしたことがあるかって言いたいのか?」

「――ああ」

「ねぇよ、そんなモンは! あんた意外に『綺麗』だって思った男なんていなかったし――いや、今のは噓だ。忘れろっ」

 つい、本音をポロリとこぼしてしまった事を恥じて、一夏の顔は益々赤くなる。

 そんな一夏の、場慣れしていない初心ウブな様子に、聖の心が揺らいだ。

――――あいつも、そうだったな。

 別れたばかりの年下の恋人を思い出し……知らぬうちに、聖の頬を透明な雫が零れ落ちた。

 無邪気で、純粋で。

 どうしようもなく身勝手で――――残酷なくらいに、少年のように浅墓あさはかな男だった。

 何も考えずに、ただ愛しいと聖に恋心を寄せて。

 同時に、その無邪気な心のままで、同じ劇団の女を愛した。

 その結果、女が子を身籠ったと聞いては……聖の方が黙って去るしかない。

 血を流す心を隠し、どれだけの辛い思いをしながら聖が演技をしたかなんて、誉は気付かなかっただろう。

 今更恨み言をいう気はないが、甘い砂糖菓子を口にするように愛し合った日々を忘れるには、まだ時間が必要だった。

(未練がましいな、我ながら)

 頬を伝う涙に気付き、聖は儚げに笑む。

 そんな、弱々しく崩れる華のような……いまにも消えてしまいそうな様相に、一夏は再び惑乱する。

 見た目に反し強気で剛毅で、怜悧な聖。

 対して。

 見た目以上に、たおやかで弱々しい蜻蛉のような聖。

 どっちが、この男の本当の姿なのだろうか?

 一夏は、どんどん迷宮へ迷い込むような気がした。

 御堂聖という、無限の迷宮へと。

「……あんたを、親父から奪ってやろうと思っている」

「え?」

「それが、一番の復讐になるからな」

 母親は精神を病み、家を出て行った。

 一夏はそれを追う事も出来ず、依然として青菱で飼い殺しにされている。

 それだけでも不満だというのに、更に、全く聞いた事も無かった他家との養子縁組を史郎の一存で決められてしまい、鬱憤は溜まり続けていた。

 暴対法対策で、隠れ蓑として青菱から戸籍を移しただけだと言われたが、その説明だけで
「はいそうですか」と納得できるものではない。

 一夏は横暴な父親史郎に対し、何とかして一矢報いたいと思っていた。

「前回は、親父の愛人を使ってあんたをハメようとしたが……結局失敗したからな。もう余計な小細工は無しにする事にした」
(※詳しくは『マガイモノ』をご覧ください)

 キッと聖を睨み、宣言する。

「あんたを、オレのモノにする」

「……お前は、誤解している。史郎とは、とっくに終わっているんだ。だから――」

 しかし、その弁明は一言で却下された。

「あんたはそのつもりでも、親父はそうは思ってない」

「っ!」

「現に、あんたの誘い一つで、組の大切な会合を放り出してあんたの所へ向かったんだからな」

 聖に呼ばれたあの日。

 青菱では、これからの戦略と展望を練る会合が開かれ、いつもは交流の乏しい外様の組織も交えて重要な話し合いが行われるはずだった。

 一夏にも、青菱の次期跡目としてお披露目の席が用意されていた。

 だがその最中に、史郎は姿を消したのだ。

 それもこれも、この御堂聖の呼び出し一つで!

「そんなこと、史郎は一言も……」

 戸惑う聖に、一夏は告げる。

「親父は、あんたに惚れてるからな」

「……」
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