彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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最終章

最終章-18

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 いずれにしても、相手がマルサの場合、強制調査に入る捜査部隊は100人超と大規模になる場合がある。

 なにも聖が脱税したわけではないが、こんな所で調査に掴まったら何かと面倒だ。

 そう即座に判断すると、聖はすぐさま行動に移った。

 右往左往する奴等を搔い潜り、素早い動作でジンの腕を取ると、出入り口とは逆方向にあったバルコニーへ向かう。

 下は、プールになっているようだ。

「飛び込むぞ」

「っ!?」

 相手の返事を待たず、聖はそのまま飛び降りた。

 ザブンという大きな水音が立ったが、屋敷の中の方が蜂の巣をつついたような騒ぎになっているのだ。

 上手く行けば、こちらの方には気付くまい――と、思ったが。

「まったく、無茶するねぇ」

 呆れたような声に、聖はピタリと動きを止めた。

 水面から顔を上げると、くたびれたスーツにヨレヨレのネクタイを締めた男が、プールサイドで佇みながら飄々とした様子でタバコをふかしているのが見えた。

 その隣には、バスタオルとジャージを抱えた茶髪の青年が、助手のように控えている。

 聖はこの二人を、よく知っていた。

 そう、ジンの身辺調査を依頼した綾瀬探偵である。

「――マルサは、お前の仕業か」

 聖はザバッとプールから上がると、不機嫌そうにその顔を睨む。

 ジンの調査を依頼して、一番最初に探偵から上がってきた報告書の内容は間違った内容のものだった。これはプロとして、許されない失態である。

「これでチャラに出来ると思ってんのか? お前――」

 抗議をしようとする聖を無視するように、綾瀬は身を屈めると、そのままプールへと飛び込んだ。

「所長!」

 残った助手の青年は驚いたように声を上げるが、すぐに何かを理解した様子だ。

 プールサイドに放置されていた、キャップの付いた空のペットボトルを拾うと、プールへそれを投げ入れた。
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