後輩と先輩のやつ

十六原

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高校3年(後輩)と大学1年(先輩)

初詣

「お待たせ!」

先輩のマンションの前で待っていると、しばらくしてエントランスから先輩が出てきた。相変わらず今日も可愛い。告白してから初めて先輩と顔を合わせるので、どんな顔をして会えばいいのかなんてさっきまで考えていたけど、先輩の可愛さでそんなこと全てどうでもよくなってしまった。先輩も先輩で、良くも悪くもいつも通りという感じだった。僕のことを特別意識してくれている感じは、特にない。でも別に気まずそうにもしていない。やっぱり僕の存在は先輩の中では大して大きくないものなんだろうなあ、という感じがする。それがどうしようもなく寂しい。

新年のあいさつをして、一言二言、久しぶりだね、なんて話をしながら並んで歩き出したけれど、すぐに会話が途切れてしまった。今までは先輩とどんな話をしていたんだっけ。別に僕は先輩と一緒にいられたらそれで幸せだ。言葉はなくても、先輩が僕の隣にいてくれたらそれだけでいい。でも、先輩もそんな風に思ってくれているとは限らない。気まずい思いをさせているかもしれないし、何か話したほうがいいのかも。ああでも、今いきなり話し始めたら変かな……。
そんなことを考えていたら、ほとんど会話もないまま駅に着いてしまった。同じように初詣に行く人たちなのか、はたまた初売り目当ての人たちなのか、思っていたより電車は混んでいて座れそうにはない。神社までそう遠くはないけど、数分とはいえ揺れる電車の中で立っているのはそれだけで疲れるものだ。せっかく二人で出かけられる数少ない機会なのに、目的地に着く前に先輩のテンションが下がってしまわないか心配だ。
先輩にはドア横の手すりに掴まってもらって、僕は通路側に立って先輩が他の乗客に押されたりしないように壁になった。電車が動き出すと、その反動で先輩が少しよろめいて僕にぶつかった。やっぱりここに立っていて正解だったなと思うと同時に、先輩はいつも電車で大学に通っているはずだけど、普段からこんな感じなんだろうかと心配になる。ごめんね、と言いながら先輩が慌てて僕から離れるとき、先輩の髪からふわりと甘い香りがした。僕の知らない匂いだった。しばらく会わない間にシャンプーとか変えたのかな。こうやってどんどん僕の知らない先輩になっていってしまうのかと思うとどうしようもなく寂しい。大学生になってから、メイクもどんどん上手になって、髪も綺麗に巻いたりして、先輩は少しずつ大人の女性に近づいている。たった1歳しか違わないはずなのに、なんだか僕だけどんどん置いて行かれるような、先輩がずっと遠くにいってしまうような感じがする。僕ももう少しして大学生になれば、先輩の横に堂々と立てる男になれるのだろうか。それともその頃には、先輩はもっとずっと遠くの、僕の手の届かない場所まで行ってしまうのだろうか。
僕がそんなことを考えている間にも、先輩はふらふらと電車の揺れに耐えられていないみたいだ。言おうかどうしようかとずっと迷っていたけど、僕に掴まっててもいいですよ、と冗談っぽく言ってみた。先輩は少し迷った後、じゃあ、と僕の上着の袖をちょこんと掴んでくれた。もっと腕とかに掴まってくれたらいいのにと思ったけど、それはやっぱり嫌なのかな。

「結構並んでるねー」

神社に着くと、やはり元日ということもあり、初詣に来た人たちで混雑していた。参拝できるまでもう少し待つことになりそうだが、先輩は今のところ楽しそうにしているので安心した。

「あ、お参り終わったらお守り買ってもいいかな? あと、おみくじもやりたい!」

近くに美味しい大福屋さんがあるから、帰りにそれも買えたらいいんだけど、と先輩がスマホ画面を見せてくれる。画面にはその大福屋さんのホームページらしきものが写っていて、でもよく見ると「営業開始日:1月4日」の文字があった。それを指摘すれば、やっぱり全然気づいていなかったらしい。少し残念そうにしながらも、じゃあこれはまた今度行こ、と呟く先輩に、それは僕を誘ってくれているのかと確認する勇気は僕にはなかった。
それにしても、先輩が出かける場所のことを事前に調べているなんて珍しい。いつもは僕が電車の時間からお店の営業時間、周辺にある施設のことまで全て調べているため、別に先輩が調べる必要はないからというのはある。でも、そもそも先輩はおそらくそういうのを面倒だと思うタイプの人なので、なるべく僕がしようと思ってしていたことでもあった。まあいつも僕から誘って一緒に出掛けているんだし、僕はそういうのを調べるのが嫌いなわけでもないので、苦ではなかったけど。今回は初めて先輩から誘ってくれての二人での外出だったので、そういう意味で先輩もいろいろ調べてきてくれたのかもしれない。実は僕も今日のために下調べはしてきたけど、せっかく先輩が自分のやりたいことをリストアップしてきてくれたので、今日は先輩のプランに乗りたいと思った。





◇◇◇





「先輩はなんてお願いしたんですか?」
「私は受験のことお願いしたよ」
「え、受験って……僕のですか?」
「うん。だってそのために来たんだし」
「僕の受験、そんなに心配ですか? 模試とかいつもA判定取ってるんですけど」
「まあね、でも一人でお願いするより二人でお願いした方が叶いやすいよ、たぶん」
「そっか、そうですね。ありがとうございます」

……僕は本当は、今日のこの後のことをお願いした。
先輩に振られないで済みますようにって。普段、神様なんてこれっぽっちも信じていないけど。

先輩がお守りを買いに行くと言うので、僕は少し離れたところで待っていた。一緒に買いに行こうと思ったけど、ついてきちゃダメだと言われたので仕方なく待つことにする。とはいえ、先輩は隠しごとをするのが下手なので、おおよそ何が目的なのか見当はついていた。たぶん、僕のために合格祈願のお守りでも買ってくれようとしているのだろう。先輩のそういう気持ちは嬉しいけど、でもそれはきっと僕のことが好きだからとかじゃなくて、ただ友達として優しくしてくれているだけなのだ。仲のいい後輩がもうすぐ受験を控えているから、合格を願ってくれるだけ。今ここにいるのが僕じゃなくても、先輩はきっと同じことをするのだ。

「はい、これあげる」

僕の予想通り、先輩は僕に合格祈願のお守りを買ってきてくれた。先輩からプレゼントをもらうことはそう多くはないので、もちろんすごく嬉しくはある。嬉しいけど、でももう今の僕の気持ちはこんなものでは満たされない。もっと、先輩そのものが欲しい。先輩が、僕だけのために存在していてくれたならよかったのに。

一通り先輩がやりたいと言っていたことをし終えて、そろそろ帰ろうという流れになると、先輩がえっと、と口を開いた。

──ああ、いよいよなのか。
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