運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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8 たかが噂で民衆は踊る。

昼食

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(side夏向)
二日目のテストも結局生徒会室で受けた。
おかげでナギと会うことは無かった。
光希と一緒に登校する。遅れて来た藍先輩も『おはよ~』と話しかけてきて、『おはようございます』と挨拶をした。

今日のテストも無事に終わって、帰る準備をする。そんな時光希が口を開いた。

「夏向、今日は食堂で昼食を食べないか?」
「え?」
「また前みたいに一緒に食べたい」
「藍先輩は誘わなくていいの?」
「彼は番と一緒に食べるだろう」
「あ、そっか」

忘れがちだけど、藍先輩には番がいたんだっけ。光希が不在だからと、僕のために一緒にいてくれたことを思い出す。先輩はやっぱりいい人だな。たまに鋭く厳しい視線を向けるけど、それも全部僕のために言ってくれている気がする。

「いいよ。今日のメニューは何だっけ?」
「クリームコロッケだ」
「好物じゃん」
「そうだよ」

ああ、だから食堂で食べようなんて言い出したのか。食堂……か。どうしてもナギのことを思い出す。あんなことがあるまでは、僕はずっと食堂でナギと一緒に昼食を食べていた。
確かに期間で言ったら短いもので、転入してから一週間ちょっとの間だけ。それでも、何も知らない僕にとってはその時間は幸せだった。
って何弱気になっているんだよ僕……。今の僕には光希がいる。ナギのことなんて気にしていたら駄目だよね。軽く首を横に振って気持ちを落ち着かせた。

そして僕は光希と一緒に食堂に行った。昼食を乗せたトレイを持って辺りを見渡す。
食堂は相変わらず混んでいたけれど……座れないことは無い。いい場所を探していたら、ふと僕たちを呼びかける声が聞こえた。

「みっくん、夏向。こっちこっち~」

精一杯藍先輩がぶんぶんと手を振っているのに気づいた。藍先輩がいたのは個室。そこはいつもすぐ満席になるから、あまり座ったことが無いんだけど……僕達のために取っておいてくれたんだ。

「えっと、いいんですか、番さんは?」
「今日はみっくんに話したいことがあったの~。ちょっとね、別にして貰った」

『いつもはそうなんだけどね』と藍先輩は苦笑いを浮かべる。
光希が口を開いた。

「そんなに緊急の話なのかな?」
「そう。ちょっとヤバいかも。気づいてるかもしれないけど~。周りにいるみんなが、こちらを見てヒソヒソ話をしているの、分かる?」
「ああ、そういうことか」
「そう。とりあえず座って」

藍先輩に『こっちこっち』と手招きされて、藍先輩の隣に座ろうとする。けれど光希が僕の腕を掴んで『君は俺の隣』と、光希の隣に座らされた。
藍先輩の向かい側に光希。そして光希の隣に僕が座る。

「ごめん僕だけ分かっていないみたい。……そういうことって?」
「生徒が生徒会長として……俺を疑いの目で見てるってことだ。そうだよね?藍」
「そう。問題は、βからの支持を得ていた凪を突然脱退させたことだよ。僕たちにとってそれは当然の事だけど……でも一般生徒はそうでは無いからね」

藍先輩は寂しそうにガラスの中の氷をカランと転がす。
光希は眉間に皺を寄せ、耐えるようにごくりと飲み込んだ。

「後悔はしていない。……けれど、確かに学園でのことは後回しにしていた」

伝わってくる光希の思い。僕は光希を見ていられなくなって、つい下を向いた。光希は本当に凄い生徒会長で……なのに、どうして。
藍先輩は溜息をつき、難しそうな顔をした。

「生徒の多くはβで……だからこそ、凪の支持は高かった。『優秀なのはαだけじゃない』『俺達も頑張れば凪みたいに……』。そう思わせたのは凪だからね~」
「ああ、つまりは夏向。副会長である壮一郎を俺が脱退させたことにより、多くのβから反感を買ったんだ。αは確かに優秀な人が多い。でも逆に言えば『優秀で当たり前』という価値観が根付いている。だからα以外はαに嫉妬するんだよ。壮一郎の脱退も、βの生徒は随分捻くれた解釈をしてしまうだろうね。例えば『生徒会長はαしか生徒会役員にしない』とか」
「そっか……。どうしよう」

ようやく、きちんと理解ができた。嫉妬、逆恨み……それは憧れの裏返しでもあるのだろう。
憧れていてもどう頑張ったって、光希や兄様みたいにはなれないから。
その気持ちは痛いほど分かる。

「……でも、おかしいんだよ~。本来ならみっくんの支持率は、そんな程度では下がらないはずなんだ。みっくん今まで築き上げた信頼はそんなにやわじゃない。でも、れんちゃん情報だと、もう……」

れんちゃんが誰か、僕には分からないけれど……でもそれ以上にかなり深刻な状態になっているのは、悲痛そうに目を逸らした藍先輩の表情から察した。

「例の『ハトファイ』でね、」
「『ハトファイ』?」

藍先輩の口から出た単語が分からなくて首を捻る。
その瞬間、藍先輩はハッとした表情で僕を見た。『しまった』みたいな。そんな表情だ。

「そっか。夏向は俺が最近スマホをあげたから知らないかもしれない」

光希が言う。スマホが何か関係が有るんだろうか。スマホってことはネット関係かな。確かにそれ関係は僕は疎い。そういうところが光希の役に立ってないとか、思われているかもしれない。だって光希の支持率とか、本当に気づかなかった。僕はクラスに友達が(ナギ以外)いなくて、更に最近は生徒会室に通っている。知らなくて当然かもしれないけど……世間知らずってやっぱり駄目だよね。

「それは、僕のせい……?」

耐えきれなくなって、つい聞いてしまった。僕が光希の足枷になっているのは既に知っている。輝かしい光、みんなの憧れ。その汚点は紛れもない、罪に塗れた僕だ。
僕が光希の番だって、みんなに広まって来ているらしい。なら僕が、光希に相応しくないから……きっと光希の格を下げたのだろう。

「大丈夫。夏向は何も知らなくていいから」

光希に肩を寄せられ、こめかみにキスをされた。否定は、しなかった。それはつまり正解って事かもしれない。ああ、なんだ。やっぱり光希に僕は相応しくない。

「そっか」

精一杯の、笑顔を向けた。僕に出来ることはそれくらいだ。
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