1 / 43
1 使用人扱いにされた男爵令嬢の自分
しおりを挟む
「もう限界だわ、貴方、この娘を家から追い出して下さいな!」
義母は刺々しい声で言い放った。
先ほど、何故か廊下に張られていた縄に引っかかって足を取られたら、何故かその拍子に家の中でも高価な異国伝来の壺を転ばせて割ってしまった……
その音が響いた時、あの女の勝ち誇った顔!
「この壺は、向こうの名家から貰ったもの。それをこの様にしてしまったというのは、過失としても許す訳にはいかないな。……いやもう茶番は止すか。いい加減、こんなことを続けていてもお前のためにならないぞ。出ていけ、その方がお前も楽になるんだ」
私はよろよろと立ち上がる。
「……はい、そうですね。もういい加減その方が良いですね」
「判ればいいんだ判れば。さあとっとと、この家から出ていけ」
私は黙って屋根裏の自室まで行くと、既にまとめてあった荷物を取り出した。
そして壁につけていたカレンダーを見る。
「待ってたわ、この時を」
*
小さな時のことだ。
母は私に対してほんのりとした優しい記憶しか残さず亡くなった。
それ以来父は荒れた。
このハイロール男爵家にはそれなりに事業で蓄積した資産があった。
が、母の死以来しばらく、父はただ浪費するだけの生活になってしまった。
それをみかねた母方の子爵家の祖父母が様子を見に来るのだが、その都度「自分は悲しみに打ちひしがれて何もできません」という態度をとった。
父は出産以来の母の健康を奪ったとばかりにまず私を憎んだ。
私は乳母と、時々来る祖母の愛を受けて育った。
そして母方の祖父母は自分達で私を引き取ろうか、と考えていた。
そのままこの家においておくことが私のためになるのか、と考えて。
だがその望みは叶えられなかった。
と言うのも。
祖父がその頃、収賄の罪に問われたからだ。
私はまだ八つだった。
裁判の結果、子爵である祖父は十年間の爵位停止。
そして蟄居を命じられた。
祖父と言っても、まだ五十代、働き盛りにとって、それはなかなかに厳しい処分だったそうだ。
そもそもその収賄にしても、本当にそれがあったのかどうか怪しいところだった。
要するに祖父――ロルカ子爵は、その時期の政争に負けたのだ。
実際に収賄があったのか、ということはどちらでも良い。
ともかく祖父がそれをした、ということにされるだけの隙があったということなのだ。
「……十年……! 十年経ったらお前を子爵家の跡取りとして迎えに行くぞ」
祖父はそう言って、私を男爵家に残したまま、別荘に軟禁状態となった。
義母は刺々しい声で言い放った。
先ほど、何故か廊下に張られていた縄に引っかかって足を取られたら、何故かその拍子に家の中でも高価な異国伝来の壺を転ばせて割ってしまった……
その音が響いた時、あの女の勝ち誇った顔!
「この壺は、向こうの名家から貰ったもの。それをこの様にしてしまったというのは、過失としても許す訳にはいかないな。……いやもう茶番は止すか。いい加減、こんなことを続けていてもお前のためにならないぞ。出ていけ、その方がお前も楽になるんだ」
私はよろよろと立ち上がる。
「……はい、そうですね。もういい加減その方が良いですね」
「判ればいいんだ判れば。さあとっとと、この家から出ていけ」
私は黙って屋根裏の自室まで行くと、既にまとめてあった荷物を取り出した。
そして壁につけていたカレンダーを見る。
「待ってたわ、この時を」
*
小さな時のことだ。
母は私に対してほんのりとした優しい記憶しか残さず亡くなった。
それ以来父は荒れた。
このハイロール男爵家にはそれなりに事業で蓄積した資産があった。
が、母の死以来しばらく、父はただ浪費するだけの生活になってしまった。
それをみかねた母方の子爵家の祖父母が様子を見に来るのだが、その都度「自分は悲しみに打ちひしがれて何もできません」という態度をとった。
父は出産以来の母の健康を奪ったとばかりにまず私を憎んだ。
私は乳母と、時々来る祖母の愛を受けて育った。
そして母方の祖父母は自分達で私を引き取ろうか、と考えていた。
そのままこの家においておくことが私のためになるのか、と考えて。
だがその望みは叶えられなかった。
と言うのも。
祖父がその頃、収賄の罪に問われたからだ。
私はまだ八つだった。
裁判の結果、子爵である祖父は十年間の爵位停止。
そして蟄居を命じられた。
祖父と言っても、まだ五十代、働き盛りにとって、それはなかなかに厳しい処分だったそうだ。
そもそもその収賄にしても、本当にそれがあったのかどうか怪しいところだった。
要するに祖父――ロルカ子爵は、その時期の政争に負けたのだ。
実際に収賄があったのか、ということはどちらでも良い。
ともかく祖父がそれをした、ということにされるだけの隙があったということなのだ。
「……十年……! 十年経ったらお前を子爵家の跡取りとして迎えに行くぞ」
祖父はそう言って、私を男爵家に残したまま、別荘に軟禁状態となった。
205
あなたにおすすめの小説
家族の肖像~父親だからって、家族になれるわけではないの!
みっちぇる。
ファンタジー
クランベール男爵家の令嬢リコリスは、実家の経営手腕を欲した国の思惑により、名門ながら困窮するベルデ伯爵家の跡取りキールと政略結婚をする。しかし、キールは外面こそ良いものの、実家が男爵家の支援を受けていることを「恥」と断じ、リコリスを軽んじて愛人と遊び歩く不実な男だった 。
リコリスが命がけで双子のユフィーナとジストを出産した際も、キールは朝帰りをする始末。絶望的な夫婦関係の中で、リコリスは「天使」のように愛らしい我が子たちこそが自分の真の家族であると決意し、育児に没頭する 。
子どもたちが生後六か月を迎え、健やかな成長を祈る「祈健会」が開かれることになった。リコリスは、キールから「男爵家との結婚を恥じている」と聞かされていた義両親の来訪に胃を痛めるが、実際に会ったベルデ伯爵夫妻は―?
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
押し付けられた仕事は致しません。
章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。
書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。
『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話
といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる