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14 父は何故かドイツ系料理人を欲しがっていた

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 ミュゼットはつまり、「誰かがハイロール男爵を名乗っているだけなのではないか」と言いたいのだろうか。
 正直、私もちらっと思ったことがある。
 例えばこの家の使用人達。
 最古参でもこの家に父が越してきてからだ。
 だとしたら、それ以前の父を知っている人は一体何処に居るんだろうか?
 親戚は遠い東の地に散らばっていて、何処に居るとも知れない。
 そう、そもそも私達が父の過去に何か無いか、と調べているのはその可能性をぼんやりと感じていたからだ。
 もしそうだったら?
 いや、それはそれで構わない。
 私は復権した祖父の跡を継げばいいだけのことだから。


 
「あー! 現実にホームズ氏が居ればいいのに!」

 豆の皮をむきながら、私はドロイテについこぼしてしまう。

「ホームズ氏? 何ですかそりゃあ?」
「ほらあれだよ。名探偵というやつさ。ちょっとのことから全体を推理してしまう様な天才奇才という奴」

 やっぱり同じ豆の皮むきをさせられていたハルバートが口を挟む。

「そーいえばドロイデさんって生粋のこっち生まれじゃないよね。俺、二、三のお屋敷勤めしてきたけどさ、ここの料理ってちょっと違うじゃん。じゃがいもだって揚げ方違うし」
「ああ、言ってなかったかね? あたしの生まれはドイツの方だからねえ。若い頃うちの旦那と出会ってさ、で、こっちに来たんだよ。けどここで働くようになってからしばらくして別れたんだけどさ」
「え、結婚してたの!」

 ハルバートはそこを突っ込んだ。

「まあねえ。けど仕事の方が楽しくなっちまったからねえ。ほら、あまり若い女でコック長って無いだろ? けどここの旦那様は、ドイツの料理ができる料理人を欲しがってたからさ」
「え」

 私は手を止めた。

「何で?」
「何でだろうねえ? そこまで深く考えたことは無いねえ。ともかく一応こっちの料理もできて、その上で向こうの料理もできるってのは、そうそう無かったってことがあってさ。私は歳関係なしで取ってもらえたからねえ」
「だからかー。ここって結構キャベツの漬物とかソーセージとか多いじゃん。他の家より、ご飯が美味いんだよなあ」
「それはありがとうございましたねえ。まあ確かに、漬物は多いね。ついつい作ってしまうんだよね。旦那様もお好きだし」

 食べ物。
 そう言えば、ミュゼットも当初この家の食事には戸惑ったと言っていた。

「美味しいんだけど、みっしりして歯応えのあるパンとか、はじめびっくりしたわよ。あと、クリスマスの前にあのみっしりしたお菓子をドロイデさんが作るの。好きだけど」

 シュトーレンのことも知らなかった。
 私はこの家でしか暮らしたことが無かったから当然だと思っていたけど、確かに言われてみれば。

「今はこっちの料理と半々ですがねえ。あたしが入った頃は何かもう、気持ちいいくらいに食べてましたよ。今の旦那様と違って、まだ若かったし」
「……ハイロール家はドイツの流れなの?」

 ドロイデもハルバートも顔を見合わせ、どうだろう、と言った。
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