〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
18 / 43

18 買い出しに行こう

しおりを挟む
「買い出しに一緒に行く? アリサ嬢さん」

 ハッティとロッティに例の話をしたあと、彼女達にそう誘われた。
 別に私は外出ができない訳ではない。
 禁じられてはいない。
 ただあまり外出するだけの口実が無いのだ。
 まず、他の雇い人と違って「休日」が決まっていない。
 私はあくまでこの家の生まれなのだから。
 それこそミュゼットの様に逃げ出すという手もあるが、お祖父様の復権の日まではここに居てできるだけ男爵夫妻のボロを掴んでおきたいという気持ちがあった。
 内側からでないと見えないものがある。
 だが、外で調べたいものが、何だかどんどん出てくるのだ。
 調べに出すと妙なことが次々に湧いてくるものだから。
 私はそれでも口実がやってきたかな、と思う。

「買い出し?」
「そう。ロッティの代わりに嬢さん行かないかなって」
「行けるなら行きたいわ」

 買い出しというのは案外少ない。
 と言うのも、業者が持ち込んでくるのが基本だからだ。
 だからわざわざ「買い出し」と称して外に出るのは、こまごまとしたものを一気に買う時である。
 荷馬車に揺られて、ハッティは歌など口ずさみつつ、その道を楽しんでいた。
 確かに外に出るのは何年ぶりだろう。
 家の庭が広いからさほど閉塞感は無かったけれど、それでも外の爽快感には敵わない。

「それで今日は何処を回るの?」
「幾つも。紅茶の良いものとそうでないもの。質の良い紙を少しと、良くないものの束。奥様がバザーに出すもの用に作る小物用の、もの凄く質が良い訳ではないリボン。布はいいんですって。何でも嬢さんやミュゼットが以前着ていた服を解いて作るそうよ」
「あれを……」
「あ、それと例の子用に、と子供服屋にも寄っていかなくちゃならないわ。一応立場は近侍、なんですって」
「それを男爵は知っているの?」
「まあ知っているんじゃない? 留守にすることが多いし。だったら外で浮気されるよりは、中でペットに奉仕させておく方が気楽なんでしょ。奥様も別に恋がしたい訳ではなさげだし」
「そうなの?」
「まあね。奥様って恋より金、でしょ」
「わかるの?」
「……って言うか、嬢さんは…… じゃ、判らないか。まあ仕方ないね」

 ハッティは木箱にもたれたまま、ため息をついた。

「そりゃあ、男が女を買いに行くんだ。逆の欲望だってあるだろ? 神様が見ているって言ったって、目と心に蓋をすればいいし。まあねー、実際男といちいち付き合うと面倒ってのはあるのよね。でもしたいことはしたいとしたら、まあ身分の低い男連れ込むか、それこそペットを買いとってくるくらいよね」
「でもそれ、見つかったら」
「そうよねー。男連れ込んでいるのがばれたら離婚だろうし、ペットはそもそも買うのが犯罪だもの」
「え」

 そこか。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

家族の肖像~父親だからって、家族になれるわけではないの!

みっちぇる。
ファンタジー
 クランベール男爵家の令嬢リコリスは、実家の経営手腕を欲した国の思惑により、名門ながら困窮するベルデ伯爵家の跡取りキールと政略結婚をする。しかし、キールは外面こそ良いものの、実家が男爵家の支援を受けていることを「恥」と断じ、リコリスを軽んじて愛人と遊び歩く不実な男だった 。  リコリスが命がけで双子のユフィーナとジストを出産した際も、キールは朝帰りをする始末。絶望的な夫婦関係の中で、リコリスは「天使」のように愛らしい我が子たちこそが自分の真の家族であると決意し、育児に没頭する 。  子どもたちが生後六か月を迎え、健やかな成長を祈る「祈健会」が開かれることになった。リコリスは、キールから「男爵家との結婚を恥じている」と聞かされていた義両親の来訪に胃を痛めるが、実際に会ったベルデ伯爵夫妻は―?

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...