女性バンドPH7②マイペースな女性ギタリストが男の娘と暮らしていた件について。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
44 / 51

第44話 LUCKYSTARに連絡をつけろ

しおりを挟む
 一方のHISAKAは、と言えば、何度か室内をぐるぐると歩き回っていた。
 まあよほどの事件に巻き込まれているのではなければ、マナミはDBを連れてくるだろう。彼女はそれなりに、そういう場に慣れている。それが壊し屋であるHISAKAやFAVやTEARのせいであるのはさておき。
 ただそのことをP子さんに言ったものか。
 情を絡めると。
 正直、言いたくはない。おそらくは確実に解決するだろうことで、彼女の気持ちをささくれ立たせたくはない、とHISAKAは思う。
 しかし、もしも何かあったら。
 その時P子さんがどう衝撃を受けるのか、はもっと考えたくなかった。

「あれえ?」

 戸が開いてると思ったらあ、とMAVOがひらり、と部屋の中に飛びこんできた。

「どしたのHISAKA。ずいぶん難しい顔」
「んーMAVOちゃん、ちょっと難しいことが起こってるのよ」
「何何」

 つかつかとMAVOは部屋の真ん中でうろつくHISAKAの所まで近づく。

「何あったの? ねえねえ」
「そんな楽しそうに訊ねるんじゃないわよ。一応厄介ごとなんだから」
「だって厄介ごとはフツーじゃないことだもん。あたしには面白いよ。でもHISAKAがそんな顔するんだから、きっとそれはあたし達メンバーのことなんだ、きっとそう」

 決めつける。HISAKAは困った様に瞬きする。

「あんたってどうしてそう鋭いんでしょうねえ」
「だってあたしだもの」

 答えになっていない様な気もするが。だが言われてしまうと何かしら納得してしまうあたりが、この一芸秀でた歌うたいの怖いところだった。

「誰?」
「P子さんにね」
「あれ、P子さん、さっきあたし会ったよ」
「会った?」
「うん。こっち来る時、何か、LUCKYSTARラッキイスタアのメンツに誘われてたけど」
「LUCKYSTAR」

 ちょっと待って、とHISAKAは頭を抱える。

「何か今日あった? あのひと達」
「本人達は無いけれど、友達バンドのライヴがどーとか言ってたよ。アナタも来ないか、ってP子さん言ってたけど、あたしは別にあーんまりお友達バンド、って奴増やす気ないしー」

 相変わらずきっぱりした態度だ、とHISAKAは苦笑する。

「それにHISAKAもその方がいいんじゃないのー?」
「別に私はそんなこと言ってないわよ」
「嘘ばっかり」

 そして不意にHISAKAの首に手を回すと、頬にきゅっ、とキスをする。

「まーいいわ。ともかくP子さんは桜野《サクラノ》やネットに引きずられて行ったの。どーする? レンラクだったら、メリイさんのケイタイ、あたし知ってるけどさー」

 「メリイさん」はLUCKYSTARのギタリストだし、「ネット」はベーシストだった。

「いや私だって桜野の携帯くらいは知ってる…… けど友達バンド、ねえ……」

 ううむ、とHISAKAは抱きつかれたまま自分の顎に指を当てる。

「気分いいから別にそういうとこ行こうって思えるんだろうけど…… 大丈夫かしらねえ」
「だったらとっとと呼び寄せればいいじゃない、リーダー。理由なんて幾らでも、あんたはつけられるじゃない」
「ふん」

 つん、とHISAKAはMAVOの頬をついた。

「あなたって子は、どうしてまあ、そうも頭が回ってしまうんでしょうねえ」
「そりゃああたしだもの。あたしはHISAKAじゃあないし、良識正しいFAVさんでもないし、侠気あふれるTEARさんでもないもん。あたしはあたしが正しいと思ったことを口にするだけだよ」

 そうよね、とHISAKAは相手の腕を外させ、携帯を手にした。
 しかしLUCKYSTARのリーダー兼、強烈なハスキイヴォイスが売り物のヴォーカリストの桜野は、あいにく「ただいま電話に出ることができません」だった。
 ぷち、とスイッチを切りながらHISAKAはふう、とため息をつく。

「だいたいそうしようと思うと、こうなのよね」
「ふうん」

 MAVOはピアノに両肘を立てながら、首をかしげる。あまり大きくは無いが、くっきりとした黒目がちの瞳がHISAKAをじっと見据えた。

「じゃあまあ、何とかなるんじゃないー?」
「MAVOちゃん」
「ちょっと出てみるねー」

 ひらり、といきなりMAVOはHISAKAの横をすり抜けた。

「……全くもう」

 HISAKAが言ったところで、聞く子ではないのだ。仕方ない、とHISAKAはもう一度携帯を取り、別の相手を呼びだした。

『はいもしもしー?』
「ああ、TEAR? 今あなた何処に居る?」
『何だよいきなり。部屋だよ部屋。今日は珍しくあたしが食事作る番なんでね、今ちっと手が放せないんだわ。それともFAVさんに代わる?』
「あ、FAVさん居るの? ちょっと代わって」

 あいよっ、と威勢の良い声がして、同居人を呼ぶ声が聞こえた。

『何なのさ、リーダー』
「や、今日、LUCKYSTARの連中の居場所って判る?」
『?』

 言葉にはならない疑問な声が響く。

「や、P子さんを探してるんだけど」
『何今日、あのひと連中と一緒なのかい? あーと……』

 ちょっと待って、とFAVが立ち上がる気配が聞こえる。

『えーと』

 ページを繰る気配。きっと手帳か何かを見ているのだろう。

『……あああったあった。ミト・コンドリアのライヴに行かないか、って誘われてたんだよ』
「……行かないの?」
『別に……』

 FAVは答えをぼかす。はぁん、とHISAKAはその口調から気付く。ようするにそっちに行くより、部屋に居た方がいいのだろう。FAVは決してそんなこと口にしないけれど。

「ミト・コンドリア…… 何ってえ名前でしょうねえ、バンドにしちゃあ。場所は?」

 先日彼女達も使ったライヴハウスの名をFAVは挙げた。

「何だ、あそこなの」
『あたし等も動いた方がいい?』
「や、……」

 言いかけて、HISAKAは少し考える。

「やっぱりやめた。たまには水入らずでどうぞ」

 何だってえ? と特徴のある声が飛ぶ。
 無論それが耳に飛び込む前に、HISAKAがスイッチを切ったのは言うまでもない。
 まあああ言っておけば、FAVは食いついてくるのではないか、と彼女は思う。だいたいその予想は当たるのだ。TEARには気の毒だけど、身内で片づけてしまいたいこと、というのは確かにあるのだ。
 さて、と彼女は広げておいた譜面をざっとまとめて置く。

 彼女自身も、出動の時間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...