11 / 29
10話目 アーランの二人に対する印象の変化
しおりを挟む
「だって一目惚れって本当にあるなんて、それまで全然知らなかったのよ。最初に会った時にどーしていいのか本当に困ったもの。であたし、自分がどう思っているのか判るんだけど、そう認めるのがすごくしゃくにさわって」
「本当に好きなのねえ」
さすがにアーランもそれしか言い様がなかった。
「本当に好きだもの」
ぬけぬけと、とアーランは呆れる。
だがそののろける様子があまりにも楽しそうなので、文句をつける気にもならない。逆に幸せそうでいいな、となんて、アーランにしては不覚にもそう思ってしまったのである。
アーランはカラシュに対しては当初、偽善者だ、と感じていた。それは彼女の周囲に居た「貴族のお嬢様」達一般に対する感情と同じだった。
それがだんだん、「得体が知れない」に変化していた。何か変なのだ。アーランは調子が完全に狂っていた。
それまで彼女が関わってきた「貴族のお嬢様」は、ことごとく彼女達施設の子供には二種類の感情を向けてきた。軽蔑か憐れみ。
軽蔑の方がましだった。憐れむその裏には、「自分がそうでなくて良かった」という思いが感じられたものだ。安堵感が欲しくてそういった「奉仕」をするのではないか、と。
時々、払い下げの衣料だの、バザーの売上だのを持ってくる少女達は、アーラン達がそんな事考えているなんて知らなかっただろう。
アーラン達施設の子供達は、表向きお礼を言う。世慣れた大人ならともかく、「育ちが良くて純真な」お嬢様方はその「お礼」が本物と信じ込む。
お礼は半分は本当である。
思惑はともかく、モノに罪はない。アーラン達はモノに礼をいい、お嬢様方には礼などしない。そして腹の中で舌を出す。気付いていない少女達に。
「頂いた美しい服」は着られることはない。全て古着屋に売られて金に換えられる。
彼女達はアーラン達の服が全部同じであるのに、そのことには気付かない。寄付金が古ぼけた建物の修理に使われていると信じている。
だが実際には、相変わらず雨漏りがし、すきま風が吹き込んでいる。
そんな現実が自分達の行為と結びつかない。
何が本当に必要なのか、彼女達は知らない。知る気もないのだ、とアーランは彼女達を軽蔑する。
ところが、この二人ときたら。
そこでアーランは混乱するのだ。
カエンには最初から軽蔑も憐れみもなかった。彼女はただアーランの事実を指摘しただけだった。
カラシュはカラシュで、結局は忠告だけで、それ以上の感情は無いのだ。カエンと同じようにお茶を入れ、技術革新の話をし、恋人のことをのろける。
二人とも、アーランに対して、施設の子だどうの、という意識は全くないのだ、とアーランは確信した。
カラシュの話す、技術革新だの外交史の話は面白かった。
今までそんなことを話す女の子をアーランは見たことがなかった。たとえそれが恋人からの受けうりだったとしてもだ。
「そのひとはずいぶん頭のいい奴みたいだな」
「いいわよ、本当に。あたしも、だから、いろんなことであの人を説得するのは本当に凄く大変なんだから」
「説得して、聞いてくれるんだから、その男は実に寛容だ」
カエンは頬杖をつきながら、半ば呆れ、半ば面白がる。カラシュはうなづく。
「でしょうね。確かに世間一般とは違うひとだから」
「カラシュだってそういう意味では充分変わってるわよ」
アーランは肩をすくめる。カラシュはその様子を見るとひらひらと手を振る。
「昔はよく言われたわ」
「昔って言ったって、君、別にワタシ達と大して変わらないだろうに」
カラシュはそれには笑って答えなかった。
「でも本当、カラシュは何か違うわよ。カエンも違うと思うけど」
「あらどうして?」
「んーと…… 何って言えばいいのかな?」
アーランは迷った。
何から切り出せばいいのか判らなかった。何せそういう突っ込んだ話を誰かとしたことはないのだ。
突っ込んだ話をすれば、自分の本心が相手に見えかねない。それは彼女には避けるべきことだったのだ。だがどうやらここでは言いたいような気になり始めていた。
「あたしは施設に居たって言ったでしょ?」
二人はうなづく。
「そこには、男の子も女の子も居るの。一緒に暮らしているわ」
再びうなづく。
「だから本当に子供の頃はいいの。男の子も女の子も、ころころじゃれようが、けんかしようが、それこそ取っ組み合いのけんかしても、どっちも罰をもらったの。だけど十を越えると違うの」
「どう違うの?」
カラシュはやや真面目な顔になる。
「こう言われるの。『何はともかく、男の子にあやまりなさい』」
「ふーん……」
カエンはほんの少し、眉を寄せているようにアーランには見えた。彼女はあまり表情の変化が大きくはない。だが全く変化が無い訳ではない。
「何はともかく、か」
ちっ、と彼女は舌打ちする。
「カエン?」
「気に食わない言葉だな。何はともかく、か。結局それが全てか」
「でもたいていは、気に食うも食わないもないわ。そう言われればそうしなくちゃならないのよ。そこで口答えすればまた罰が加わるだけだわ。そういうもの、で終わらないと、自分が損するのよ」
「アーランもそうなのか?」
「……」
「本当に好きなのねえ」
さすがにアーランもそれしか言い様がなかった。
「本当に好きだもの」
ぬけぬけと、とアーランは呆れる。
だがそののろける様子があまりにも楽しそうなので、文句をつける気にもならない。逆に幸せそうでいいな、となんて、アーランにしては不覚にもそう思ってしまったのである。
アーランはカラシュに対しては当初、偽善者だ、と感じていた。それは彼女の周囲に居た「貴族のお嬢様」達一般に対する感情と同じだった。
それがだんだん、「得体が知れない」に変化していた。何か変なのだ。アーランは調子が完全に狂っていた。
それまで彼女が関わってきた「貴族のお嬢様」は、ことごとく彼女達施設の子供には二種類の感情を向けてきた。軽蔑か憐れみ。
軽蔑の方がましだった。憐れむその裏には、「自分がそうでなくて良かった」という思いが感じられたものだ。安堵感が欲しくてそういった「奉仕」をするのではないか、と。
時々、払い下げの衣料だの、バザーの売上だのを持ってくる少女達は、アーラン達がそんな事考えているなんて知らなかっただろう。
アーラン達施設の子供達は、表向きお礼を言う。世慣れた大人ならともかく、「育ちが良くて純真な」お嬢様方はその「お礼」が本物と信じ込む。
お礼は半分は本当である。
思惑はともかく、モノに罪はない。アーラン達はモノに礼をいい、お嬢様方には礼などしない。そして腹の中で舌を出す。気付いていない少女達に。
「頂いた美しい服」は着られることはない。全て古着屋に売られて金に換えられる。
彼女達はアーラン達の服が全部同じであるのに、そのことには気付かない。寄付金が古ぼけた建物の修理に使われていると信じている。
だが実際には、相変わらず雨漏りがし、すきま風が吹き込んでいる。
そんな現実が自分達の行為と結びつかない。
何が本当に必要なのか、彼女達は知らない。知る気もないのだ、とアーランは彼女達を軽蔑する。
ところが、この二人ときたら。
そこでアーランは混乱するのだ。
カエンには最初から軽蔑も憐れみもなかった。彼女はただアーランの事実を指摘しただけだった。
カラシュはカラシュで、結局は忠告だけで、それ以上の感情は無いのだ。カエンと同じようにお茶を入れ、技術革新の話をし、恋人のことをのろける。
二人とも、アーランに対して、施設の子だどうの、という意識は全くないのだ、とアーランは確信した。
カラシュの話す、技術革新だの外交史の話は面白かった。
今までそんなことを話す女の子をアーランは見たことがなかった。たとえそれが恋人からの受けうりだったとしてもだ。
「そのひとはずいぶん頭のいい奴みたいだな」
「いいわよ、本当に。あたしも、だから、いろんなことであの人を説得するのは本当に凄く大変なんだから」
「説得して、聞いてくれるんだから、その男は実に寛容だ」
カエンは頬杖をつきながら、半ば呆れ、半ば面白がる。カラシュはうなづく。
「でしょうね。確かに世間一般とは違うひとだから」
「カラシュだってそういう意味では充分変わってるわよ」
アーランは肩をすくめる。カラシュはその様子を見るとひらひらと手を振る。
「昔はよく言われたわ」
「昔って言ったって、君、別にワタシ達と大して変わらないだろうに」
カラシュはそれには笑って答えなかった。
「でも本当、カラシュは何か違うわよ。カエンも違うと思うけど」
「あらどうして?」
「んーと…… 何って言えばいいのかな?」
アーランは迷った。
何から切り出せばいいのか判らなかった。何せそういう突っ込んだ話を誰かとしたことはないのだ。
突っ込んだ話をすれば、自分の本心が相手に見えかねない。それは彼女には避けるべきことだったのだ。だがどうやらここでは言いたいような気になり始めていた。
「あたしは施設に居たって言ったでしょ?」
二人はうなづく。
「そこには、男の子も女の子も居るの。一緒に暮らしているわ」
再びうなづく。
「だから本当に子供の頃はいいの。男の子も女の子も、ころころじゃれようが、けんかしようが、それこそ取っ組み合いのけんかしても、どっちも罰をもらったの。だけど十を越えると違うの」
「どう違うの?」
カラシュはやや真面目な顔になる。
「こう言われるの。『何はともかく、男の子にあやまりなさい』」
「ふーん……」
カエンはほんの少し、眉を寄せているようにアーランには見えた。彼女はあまり表情の変化が大きくはない。だが全く変化が無い訳ではない。
「何はともかく、か」
ちっ、と彼女は舌打ちする。
「カエン?」
「気に食わない言葉だな。何はともかく、か。結局それが全てか」
「でもたいていは、気に食うも食わないもないわ。そう言われればそうしなくちゃならないのよ。そこで口答えすればまた罰が加わるだけだわ。そういうもの、で終わらないと、自分が損するのよ」
「アーランもそうなのか?」
「……」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる