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第7話 「物騒な話」に関して慣れている様なメンツ。
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ダイスにしてみれば、実業学校を卒業した自分がプロに入ろう、と決意したのは、この男のためなのだ。
昨年度、初めての全星域リーグで、試合のここぞ、という所で、強打者をノックアウトする、その姿。
このひとと一緒にプレイができたらいいな、と学校リーグで「怪物」と呼ばれていた速球投手はぼんやりと考えていたのである。
だが、何せ「アルク」はまだ政情不安をひきずって、就業率・失業率も不安定なままだった。だったら学校の教師や、親が勧めるままに、近場の工業系の会社に入るしかないかな、と思っていたのである。
そして野球は、時々部活か何かで。星系内の社会人リーグ、というものもあるのだ。それで楽しめばいいのではないか、と思っていた。―――思おうと、していたのだ。
そこへ、急にスカウトである。
君の速球は素晴らしいよ、これは絶対全星域的プロでやるべきだよ、とこれでもかとばかりに家に通われた。
そうなったら、さすがに「堅実」などという文字はもろくも崩れ去る。
彼は親と教師に言った。
「俺、ベースボール、やりたいんだ」
一日中、そのことで頭埋め尽くしても、いい環境なんて。願ったりも叶ったりじゃないか。
しかし、それでも当初は周囲も、契約が一年ごとだったり、収入が不安定ではないか、遠征で身体を壊すのではないか、と心配があった様だった。特に母親は心配した。
そしてもう一人。
ぼんやりと、その姿が。
ダイスはどうせ、私が居なくても、ベースボールがあればいいのよね。
そう言って、離れて行った彼女。
そう言われて、気付いたのだ。ああ自分はそういう奴なんだ、と。
気付いてしまったら、もう彼を止めるものは何もなかった。彼は周囲に宣言した。
「俺、ベースボールやるからね」
さすがにもう誰も止められなかった。
―――で、入った宿舎で、最初に見たのが、憧れの中継ぎエースだった、訳である。
だがしかし、憧れと実際は違う。マーティ・ラビイは、彼が思う以上に、奇妙な存在だった。
憧れている段階では単に「格好いい」だけだったのだが、実際に付き合うと、それ以上のものも見えてくる。
例えば、新入りの自分に、おそらくは必要以上に気を使ってくれているところ。判らない様にする、のが上手い方法だ、というなら、それは決して上手くはないのかもしれない。だけど、その気持ちはよく伝わる。そんな。
ただ。
この敬愛なる中継ぎエースには、別の噂もあったのだ。
十年程前の有名な選手に「よく似ている」という。
だがその件について聞いてみようと思うと、たいがいははぐらかされる。
「噂でしょう」とヒュ・ホイは言う。
「俺あんま、キョーミないしー」とテディベァルは言う。
「知らね」とトマソン。
「だったら資料集めたらどうですか?」と先生。
極めつけがストンウェルだった。
「何でそんなこと、聞きたいんだ?」
その時の視線が、非常に怖かった。
彼は負けている試合の時に、肝が座るタイプで、本気で怒った時ほど静かに静かになってくるのだという。
そのせいだろうか。ノブル・ストンウェルの現在のスポーツ報道関係でのあだ名は「暁の黒鮫」だ。
その目でにらまれたら、確かにもうその件で聞きたい、という気は無くなる。ただし、逆に、疑惑は大きくなるのだが。
そして本人は、こうとどめを刺す。
「俺が別に昔、何をやってたって構わないんじゃないか? ほら、ウチのオーナーも、俺達を獲った時、こう言ってたぜ。『要はその人物がどういうことをしてきたか、ではなく、どうこれから選手としてがんばるのか、の方が大事』ってさ」
確かに、それはそうなのだが。
だけど、このメンツが「物騒な話」に関して、どうも慣れている様なのを見ると、普段は押し込めていた疑問が、ぞわぞわと頭をもたげてくるのだ。
昨年度、初めての全星域リーグで、試合のここぞ、という所で、強打者をノックアウトする、その姿。
このひとと一緒にプレイができたらいいな、と学校リーグで「怪物」と呼ばれていた速球投手はぼんやりと考えていたのである。
だが、何せ「アルク」はまだ政情不安をひきずって、就業率・失業率も不安定なままだった。だったら学校の教師や、親が勧めるままに、近場の工業系の会社に入るしかないかな、と思っていたのである。
そして野球は、時々部活か何かで。星系内の社会人リーグ、というものもあるのだ。それで楽しめばいいのではないか、と思っていた。―――思おうと、していたのだ。
そこへ、急にスカウトである。
君の速球は素晴らしいよ、これは絶対全星域的プロでやるべきだよ、とこれでもかとばかりに家に通われた。
そうなったら、さすがに「堅実」などという文字はもろくも崩れ去る。
彼は親と教師に言った。
「俺、ベースボール、やりたいんだ」
一日中、そのことで頭埋め尽くしても、いい環境なんて。願ったりも叶ったりじゃないか。
しかし、それでも当初は周囲も、契約が一年ごとだったり、収入が不安定ではないか、遠征で身体を壊すのではないか、と心配があった様だった。特に母親は心配した。
そしてもう一人。
ぼんやりと、その姿が。
ダイスはどうせ、私が居なくても、ベースボールがあればいいのよね。
そう言って、離れて行った彼女。
そう言われて、気付いたのだ。ああ自分はそういう奴なんだ、と。
気付いてしまったら、もう彼を止めるものは何もなかった。彼は周囲に宣言した。
「俺、ベースボールやるからね」
さすがにもう誰も止められなかった。
―――で、入った宿舎で、最初に見たのが、憧れの中継ぎエースだった、訳である。
だがしかし、憧れと実際は違う。マーティ・ラビイは、彼が思う以上に、奇妙な存在だった。
憧れている段階では単に「格好いい」だけだったのだが、実際に付き合うと、それ以上のものも見えてくる。
例えば、新入りの自分に、おそらくは必要以上に気を使ってくれているところ。判らない様にする、のが上手い方法だ、というなら、それは決して上手くはないのかもしれない。だけど、その気持ちはよく伝わる。そんな。
ただ。
この敬愛なる中継ぎエースには、別の噂もあったのだ。
十年程前の有名な選手に「よく似ている」という。
だがその件について聞いてみようと思うと、たいがいははぐらかされる。
「噂でしょう」とヒュ・ホイは言う。
「俺あんま、キョーミないしー」とテディベァルは言う。
「知らね」とトマソン。
「だったら資料集めたらどうですか?」と先生。
極めつけがストンウェルだった。
「何でそんなこと、聞きたいんだ?」
その時の視線が、非常に怖かった。
彼は負けている試合の時に、肝が座るタイプで、本気で怒った時ほど静かに静かになってくるのだという。
そのせいだろうか。ノブル・ストンウェルの現在のスポーツ報道関係でのあだ名は「暁の黒鮫」だ。
その目でにらまれたら、確かにもうその件で聞きたい、という気は無くなる。ただし、逆に、疑惑は大きくなるのだが。
そして本人は、こうとどめを刺す。
「俺が別に昔、何をやってたって構わないんじゃないか? ほら、ウチのオーナーも、俺達を獲った時、こう言ってたぜ。『要はその人物がどういうことをしてきたか、ではなく、どうこれから選手としてがんばるのか、の方が大事』ってさ」
確かに、それはそうなのだが。
だけど、このメンツが「物騒な話」に関して、どうも慣れている様なのを見ると、普段は押し込めていた疑問が、ぞわぞわと頭をもたげてくるのだ。
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