未来史シリーズ⑧カモンレッツゴーベースボール~よせ集め新チーム、他星へ遠征す。

江戸川ばた散歩

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第8話 他の惑星のベースボール状況

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「……ダイス、眠いですか?」

 ミュリエルが声を掛けた。はっ、として彼は顔を上げる。いいや、と首を反射的に振る。

「ならいいですけど」

 あっさりとそれでまた、自分の方へ話を引きつける。
 さすが実業で教えていただけある。実業学校の生徒というのは、その先の自分の職業に関係するものや、興味ある授業以外は、つい耳を貸さずに、さぼったり、睡眠時間に当ててしまうことが多い。
 ダイスは自分もそういう学校の生徒だったので、良く知っている。そういう所で上手くやっていく教師というのは、アメとムチの使い分けが上手いのだ。

「……で、言葉なんですが」
「例えばー?」
「そうですねえ、簡単な所では……」

 ミュリエルは、きょろきょろと辺りを見渡すと、ああこれがいい、と果物のかごを手に取った。

「これが何に見えますか?」
「……林檎だよな」
「林檎」
「うん、それ以外に見えないけれど」
「そうですよね。ただ、ここでは時々、これを林檎と呼ばない」
「じゃ何か、アプルとアプフェルとか、そういう違いか?」
「や、それは基本的には同じでしょう? ところがここで取れる林檎に関しては、『赤梨』と呼ばれることもあるんですよ」
「赤梨~?」

 テディベァルは思いきり眉間にしわを寄せた。

「でもそれくらいならまだ形は」
「で、さっき問題になった『爆弾』ですが」

 言いかけたダイスを遮って、「先生」は続けた。ダイスは軽く膨れる。

「これがですねえ…… 結構色んな意味があるんですよ」
「って」

 ふう、とミュリエルはため息をつく。

「テディ、君確か、お菓子好きでしたよね」
「お菓子? 好き好き。何かくれるの?」
「持ってませんって。で、その中に、『爆弾』って名前がついているものもあるんですよ」
「へ? 菓子で?」

 皆怪訝そうな顔をする。

「何で菓子が」
「正式名称は、爆弾あられ、なんですがね、通称は『爆弾』になるんです」
「じゃあ何、お菓子でも仕掛けるって言うのかよ?」

 呆れた様な顔でトマソンが問う。

「いや、だからそれは例ですって。『仕掛ける』爆弾、だけでも、何故かこの『エンタ』では十くらいあるんですよ。手品のネタなんかもそう言ったりしますよ。―――ひらたく言えば爆弾に関する、俗語が多いんです」

 へえ、と皆感心したようにうなづいた。

「でも先生、結構回りくどかったなあ」
「そうですか? すいません。でもストンウェル、あなたの名前もそういう意味では面白いじゃないですか。確かどっかの俗語では貴族という意味も」
「よせやい。……ただでさえ……」

 ストンウェルはそこで言葉を切ると、ひらひらと自分の前で手を振る。

「……何でそんな、スラングが多いんだよ。物騒じゃねえか。下手に使われたら、どーすんだよ」
「だから、この惑星は、平和でしたからねえ」
「そうだな」

 マーティも口をはさむ。

「少なくとも、レーゲンボーゲンうちの様に、長いこと政権が安定しなかったり、クーデターやテロが横行することが無かったからなあ…… 爆弾という言葉の意味が、簡単になっちまうのかもしれない」

 しみじみとマーティは言った。
 確かにそれはダイスにとってもそうだった。
 生まれてから十八年と少し。その間に、どれだけのクーデターやその未遂事件、騒乱と言ったものが起きてきただろう。
 小さな頃、軍部のクーデターで処刑される人々を見たことがある。あれは子供心にもかなりの恐怖があった。もっと前には繁華街のガラスというガラスが学生を中心とした暴動で叩き割られたこともある。
 アルクは、ほんの少し前まで、そんな惑星だったのだ。
 さすがに現在は、廃止されているが、つい十年前位までは、政治犯が、同じ星系にある極寒の惑星「ライ」に流刑にされることも珍しくはなかったのである。
 だから彼等の星系の人間は、基本的に「爆弾」や「テロ」と言った単語に敏感である。逆に、爆弾を隠語で言うことは多かったが、そのものに関しては、なるべく口に出したくない、という人々が大半だったのだ。

「だから、ダイスが聞いたのが、そのスラングの方であって欲しい、と思うんですがねえ」
「俺もそう思うよ」
「僕も思いますよ」

 ホイは真面目な顔で言う。

「スタジアムが壊されでもして、試合が減ったら、給料に響くんですから」

 さすがに妻子持ちの意見は違う、と皆うなづいた。

「ま、俺なんかは食って寝てベースボールできりゃ、それでいいけどさ、ここの球場がどうなろうが知ったことじゃねえが…… でも、なあ」

 ストンウェルもうなづく。

「ま、大事に越したことはない、ということだな」

 マーティはまとめ上げる。オッケー、と皆が何かを納得したようにうなづいた。

「と、言う訳で、皆の衆、見取り図をもう一度見てくれ」

 ほいよ、と離れかけた集団が、再びわらわらとマーティのベッドに寄ってくる。

「それにしても、マーティずいぶん詳細ですねえ。見取り図自体は、よく球場案内の広報に出ていることはあるんですが」
「ま、ちょっとしたつてがあってね」

 マーティはそう言ってお茶を濁した。ストンウェルは二本目の煙草に火をつけた。
 ミュリエルはその図をじっと見て、感想を述べる。

「……なるほど二重構造なんですね。最初の球場が作られたのは、……なるほど、もう百年も昔なのですか」

 それが未だに使われているあたり、この惑星の平和さをダイスは感じていた。

「へー。そーいえばずいぶん蔦が絡まってると思ったよ。何か俺達のホームグラウンドを思い出すよなあ」

 へへへ、とテディベァルは笑う。
 彼等のアルクでのホームグラウンドは、サンライズの本拠地にあるものだが、その球場には屋根が無い。彼等は「テスト試合」は青空の下で行ったのだ、とダイスはニュースペイパーで知った。

「何テディ、マルミュットには野球場は無かったの?」

 ホイの問いかけに、ああ、とテディベァルはうなづく。

「そんな大層なものは作られなかったよなー。うちの惑星、すげえビンボだし。みんなもっぱら野っぱらかなあ。ネット無い時だってよくあったから、皆ボール無くしちゃいけねーから、守備ばっか上手くなるの。でもまあ、野球たぁよく言ったものだ」

 へえ、と感心したようにダイスはうなづく。他の惑星のベースボール状況など、聞いたことは無かったのである。
 実際、場所によっては、微妙に統合連盟の提唱する「正式ルール」とは違う惑星もある。

「俺んとこなんざ、変化球なんて誰も使わなかったしなあ」

というのはトマソンだった。

「思い出話はまあその位にして。そうですね、何かこの形だと…… 缶詰にふたをした、という感じですね」

 ミュリエルは唇に親指を当てる。するとトマソンがぐい、と乗り出して来る。

「缶詰というよりは、鳥かごと違うか?」
「鳥かご?」
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