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第23話 「ああ、そこまで聞こえたの」
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「お、こんなとこに居た居た。おいダイス、出番だぜ」
どのくらいそこでぼうっとしていたのだろう。
上半分の扉を開けて、テディベァルが声を張り上げた。ただでさえ大きな声が、トイレの壁に反響する。
「す、すぐ行きます」
そう言って、ダイスは頭をぶん、と振った。
「それじゃ、俺引き続き、あの女を捜しに行くからな。がんばれダイちゃん♪」
投げキッスを飛ばす先輩に、ダイスはさすがにやや硬直した。気を取り直してベンチへ行くと、ストンウェルが椅子に足を投げ出して彼の方を見た。
「お、大の方だったのか?」
へへ、とストンウェルは笑う。
この人は何処まで知ってるんだろう、とダイスは思う。
そう思って思わずじっとその顔を見てしまうと、いきなり彼は両方のほっぺたをつまみ上げられた。
「何ふるんれすかあ!」
「いやあ、ずいぶんと熱っぽく見てくれるのでつい……」
そういうことを真面目な顔で言わないでくれ、と彼は思う。
「マーティは?」
「あ、まだ探しに、と言ってました」
「ふうん」
それ以上はストンウェルは答えなかった。その返事一つに含みは感じられるが、自分の出番が迫っている以上、ダイスにはそれ以上追求することはできなかった。
*
その回は、三振と、フライ二つで上手く終わった。
「いい感じじゃない」
ヒュ・ホイはにっこりと笑って背中を叩く。
「そうですか?」
「うん、ずいぶん堅さが取れてきた」
小柄なこの捕手は、「チームの良識」「チームの良心」と呼ばれるだけあって、人をフォローしたり、元気付けるのが上手い。
しかしそれでも、あのトラブルに足を突っ込むメンツに入っているんだよなあ、とダイスは不思議に思ったりする。
ベンチに戻ると、廊下に続く扉が開いていた。しかも、人気が少ない。
何だろう、と思っていると、扉のすきまからストンウェルがひらひらと手招きをしていた。
トバリ監督の目を盗んで、そうっとダイスは外に出た。
そしてそこには、例のメンツが、何かをぐるりと囲んでいた。
「よぉエース、やっと来たか」
「何ですか? 一体」
ストンウェルは身体を横にずらす。
すると、輪の中には、一人の女が居た。ほっぺたがふっくらとした、ぽっちゃりとした、ピンクのスーツ。低いヒール。
まさか。
「マーティさん、このひとは……」
「あらルーキー君。ご機嫌よう。初めまして」
「あなた……」
「ふっくら」と「でぶ」の形容が迷う程度のスタイルの女は、実に自信ありげな笑みを浮かべた。
そしてその声は、と言えば。
「あ、あなた、一昨日の夜、会長と夜、話してませんでした?」
「あら、良く知ってるじゃない。何で知ってるの」
彼女は前で腕を組むと、あっさりと認める。
「なあんだ、あなた達、今日はそのことで、私を捕まえたって訳?」
「そうだ、と言ったら?」
マーティは短く答える。
「まあね。そりゃあ疑うのも当然かもねえ」
ふふふ、と女は笑った。慣れた口調だった。
「お前が何度も何度もうちへの『嫌がらせ』をやっているのは判ってるからな。シィズン」
「私は移り気なのよ。そういう名ですもの。そうよね、私も去年は実に色々あなた方にやってきたわね。でも証拠が無いですもの。それに私がどうこう言ったところで仕方ないでしょう?」
その言葉には、暗に「連盟」の存在を示していた。
「でもルーキー君、あの時間にあんな所に居たなんて、どうしたの? お寝坊してしまった訳?」
今度はくすくす、とシィズンという女は笑った。図星だけに、ダイスには返す言葉も無かった。
「いい加減にしろ、シィズン」
「いい加減にして欲しいのは、私の方だわ。あなた方ねえ、いつもいつも私が『嫌がらせ』ばかりしている訳じゃあないのよ」
「じゃあ何だよ」
テディベァルがぐい、とにらむ。
「可愛いぬいぐるみさん。あくまで私は、お仕事で色々やってるの。ご存じ?」
「知ってるさあ」
「だから、色んなお仕事があるってことよ」
「じゃあ今回は『嫌がらせ』じゃねえってことか?」
トマソンは野太い声で問いかけた。
「さあそれは。あなた方の受け取り方次第じゃないかしら」
あくまで彼女は余裕だった。
「だけどあなた、あの時『爆弾』って言ってませんでした?」
「ああ、そこまで聞こえたの」
なあるほど、と彼女は大きくうなづいた。
「否定しないんでしょ」
「否定しないわよ。確かに私はそう言ったわ」
「喋ってたのは、ジャガー氏でしょ」
「そうよ。よく判ったわね。耳いいじゃない、ルーキー君」
「だから……」
どのくらいそこでぼうっとしていたのだろう。
上半分の扉を開けて、テディベァルが声を張り上げた。ただでさえ大きな声が、トイレの壁に反響する。
「す、すぐ行きます」
そう言って、ダイスは頭をぶん、と振った。
「それじゃ、俺引き続き、あの女を捜しに行くからな。がんばれダイちゃん♪」
投げキッスを飛ばす先輩に、ダイスはさすがにやや硬直した。気を取り直してベンチへ行くと、ストンウェルが椅子に足を投げ出して彼の方を見た。
「お、大の方だったのか?」
へへ、とストンウェルは笑う。
この人は何処まで知ってるんだろう、とダイスは思う。
そう思って思わずじっとその顔を見てしまうと、いきなり彼は両方のほっぺたをつまみ上げられた。
「何ふるんれすかあ!」
「いやあ、ずいぶんと熱っぽく見てくれるのでつい……」
そういうことを真面目な顔で言わないでくれ、と彼は思う。
「マーティは?」
「あ、まだ探しに、と言ってました」
「ふうん」
それ以上はストンウェルは答えなかった。その返事一つに含みは感じられるが、自分の出番が迫っている以上、ダイスにはそれ以上追求することはできなかった。
*
その回は、三振と、フライ二つで上手く終わった。
「いい感じじゃない」
ヒュ・ホイはにっこりと笑って背中を叩く。
「そうですか?」
「うん、ずいぶん堅さが取れてきた」
小柄なこの捕手は、「チームの良識」「チームの良心」と呼ばれるだけあって、人をフォローしたり、元気付けるのが上手い。
しかしそれでも、あのトラブルに足を突っ込むメンツに入っているんだよなあ、とダイスは不思議に思ったりする。
ベンチに戻ると、廊下に続く扉が開いていた。しかも、人気が少ない。
何だろう、と思っていると、扉のすきまからストンウェルがひらひらと手招きをしていた。
トバリ監督の目を盗んで、そうっとダイスは外に出た。
そしてそこには、例のメンツが、何かをぐるりと囲んでいた。
「よぉエース、やっと来たか」
「何ですか? 一体」
ストンウェルは身体を横にずらす。
すると、輪の中には、一人の女が居た。ほっぺたがふっくらとした、ぽっちゃりとした、ピンクのスーツ。低いヒール。
まさか。
「マーティさん、このひとは……」
「あらルーキー君。ご機嫌よう。初めまして」
「あなた……」
「ふっくら」と「でぶ」の形容が迷う程度のスタイルの女は、実に自信ありげな笑みを浮かべた。
そしてその声は、と言えば。
「あ、あなた、一昨日の夜、会長と夜、話してませんでした?」
「あら、良く知ってるじゃない。何で知ってるの」
彼女は前で腕を組むと、あっさりと認める。
「なあんだ、あなた達、今日はそのことで、私を捕まえたって訳?」
「そうだ、と言ったら?」
マーティは短く答える。
「まあね。そりゃあ疑うのも当然かもねえ」
ふふふ、と女は笑った。慣れた口調だった。
「お前が何度も何度もうちへの『嫌がらせ』をやっているのは判ってるからな。シィズン」
「私は移り気なのよ。そういう名ですもの。そうよね、私も去年は実に色々あなた方にやってきたわね。でも証拠が無いですもの。それに私がどうこう言ったところで仕方ないでしょう?」
その言葉には、暗に「連盟」の存在を示していた。
「でもルーキー君、あの時間にあんな所に居たなんて、どうしたの? お寝坊してしまった訳?」
今度はくすくす、とシィズンという女は笑った。図星だけに、ダイスには返す言葉も無かった。
「いい加減にしろ、シィズン」
「いい加減にして欲しいのは、私の方だわ。あなた方ねえ、いつもいつも私が『嫌がらせ』ばかりしている訳じゃあないのよ」
「じゃあ何だよ」
テディベァルがぐい、とにらむ。
「可愛いぬいぐるみさん。あくまで私は、お仕事で色々やってるの。ご存じ?」
「知ってるさあ」
「だから、色んなお仕事があるってことよ」
「じゃあ今回は『嫌がらせ』じゃねえってことか?」
トマソンは野太い声で問いかけた。
「さあそれは。あなた方の受け取り方次第じゃないかしら」
あくまで彼女は余裕だった。
「だけどあなた、あの時『爆弾』って言ってませんでした?」
「ああ、そこまで聞こえたの」
なあるほど、と彼女は大きくうなづいた。
「否定しないんでしょ」
「否定しないわよ。確かに私はそう言ったわ」
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「だから……」
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