8 / 21
第7話 自分から彼女を逃がすために。
しおりを挟む
やがて冬が訪れた。
クリスマスに、年越しに、正月に、彼女の母親は、「遠くて実家には帰れない」と口にする彼をアパートに呼んだ。
小柄だが豪快な母親は、中里を当初から気に入っていた様で、二人より三人のほうが楽しい、とばかりにケーキに年越しそばにおせちに雑煮に、と思い切りその時には腕を奮った。
*
そして冬の最後のイベントのバレンタイン・デイ。
正直、中里にしてみれば、「何だそれ」状態だった。「縁が無い」以前の問題だった。
なのにこの年は、と言えば、「彼女」が自分にこう尋ねるのだ。
「ねえ哲ちゃん、バレンタインに、何が欲しい?」
その日の存在すら気付いていなかった彼にとって、何が欲しいもへったくれもない。
よし野はそんな彼の、硬直するくらい困った様子に気付いているのかいないのか、友達はどうしたこうした、と話を続ける。
「ねえ哲ちゃん、聞いてるの?」
「ああ……」
勢いに押されてはいるが、一応「聞いて」はいた。だが、やがて話の流れはおかしな方へと向かっていった。
「でねえ、斜め向こうの関谷ちゃんは、こう言ったの『バレンタインには、あたしをあげるんだーっ』って」
「は?」
「だから、例えばあたしだったら」
そこまで言った時、さすがに彼女も思わず手で口を塞いだ。
「えええええと」
さすがにその時には、察しの悪い中里も、その意味が判った。
硬直がさらに悪化して、彼は午後一の授業をついに欠席してしまったのだが、それも仕方あるまい。
ところが。
2月7日水曜日。
その日、靴箱で見つけた赤い小瓶に入っていたのは、六粒の「R」と「四年九組 羽根よし野」と書かれた紙だった。
彼は自分の目を疑った。何度も何度も、「R」の数を数えなおした。紙に書いてある字を読み直した。
嘘だろう、と思った。嘘であって欲しい、と思った。
つまりそれは。
彼はびんと紙をぐっ、と握りしめた。
逃がさなくては。
彼は思った。
自分から。危険になるはずの自分から、彼女を遠く、遠く、自分が追いつけない程の場所に。
そして中里は、よし野に旅行を提案したのだ。
*
「でもねえ」
女は手の中で、赤い小瓶を転がす。
うふふ、と甲高い、水晶の様な女の声が、放課後のLL教室の中に流れる。
「あいつが考えることなんて、そんなものよねえ。結局コレが無くちゃ、いくら今日あのコを遠くにやったとこで、どうにもならないって言うのに…… あ」
広げられた制服のブラウスの下、なめらかな白い肌の上に、男はねっとりと舌を這わせる。
「全くお前は、アレが切れそうになると、淫乱になるな…… それだけでもう、これか?」
んん、と長い髪が、教卓の下で揺れる。
男は一度スカートの下に潜り込ませた指に、透明な粘液を絡ませ、女の前にぐっと見せつける様に突き出した。
「そういうセンセも、それをいいことに、あたしに好きなコトしてるじゃない……」
「役得、と言うんだな」
低い声は、そうつぶやく。
「こんな『仕事』をやってるんだからな」
クリスマスに、年越しに、正月に、彼女の母親は、「遠くて実家には帰れない」と口にする彼をアパートに呼んだ。
小柄だが豪快な母親は、中里を当初から気に入っていた様で、二人より三人のほうが楽しい、とばかりにケーキに年越しそばにおせちに雑煮に、と思い切りその時には腕を奮った。
*
そして冬の最後のイベントのバレンタイン・デイ。
正直、中里にしてみれば、「何だそれ」状態だった。「縁が無い」以前の問題だった。
なのにこの年は、と言えば、「彼女」が自分にこう尋ねるのだ。
「ねえ哲ちゃん、バレンタインに、何が欲しい?」
その日の存在すら気付いていなかった彼にとって、何が欲しいもへったくれもない。
よし野はそんな彼の、硬直するくらい困った様子に気付いているのかいないのか、友達はどうしたこうした、と話を続ける。
「ねえ哲ちゃん、聞いてるの?」
「ああ……」
勢いに押されてはいるが、一応「聞いて」はいた。だが、やがて話の流れはおかしな方へと向かっていった。
「でねえ、斜め向こうの関谷ちゃんは、こう言ったの『バレンタインには、あたしをあげるんだーっ』って」
「は?」
「だから、例えばあたしだったら」
そこまで言った時、さすがに彼女も思わず手で口を塞いだ。
「えええええと」
さすがにその時には、察しの悪い中里も、その意味が判った。
硬直がさらに悪化して、彼は午後一の授業をついに欠席してしまったのだが、それも仕方あるまい。
ところが。
2月7日水曜日。
その日、靴箱で見つけた赤い小瓶に入っていたのは、六粒の「R」と「四年九組 羽根よし野」と書かれた紙だった。
彼は自分の目を疑った。何度も何度も、「R」の数を数えなおした。紙に書いてある字を読み直した。
嘘だろう、と思った。嘘であって欲しい、と思った。
つまりそれは。
彼はびんと紙をぐっ、と握りしめた。
逃がさなくては。
彼は思った。
自分から。危険になるはずの自分から、彼女を遠く、遠く、自分が追いつけない程の場所に。
そして中里は、よし野に旅行を提案したのだ。
*
「でもねえ」
女は手の中で、赤い小瓶を転がす。
うふふ、と甲高い、水晶の様な女の声が、放課後のLL教室の中に流れる。
「あいつが考えることなんて、そんなものよねえ。結局コレが無くちゃ、いくら今日あのコを遠くにやったとこで、どうにもならないって言うのに…… あ」
広げられた制服のブラウスの下、なめらかな白い肌の上に、男はねっとりと舌を這わせる。
「全くお前は、アレが切れそうになると、淫乱になるな…… それだけでもう、これか?」
んん、と長い髪が、教卓の下で揺れる。
男は一度スカートの下に潜り込ませた指に、透明な粘液を絡ませ、女の前にぐっと見せつける様に突き出した。
「そういうセンセも、それをいいことに、あたしに好きなコトしてるじゃない……」
「役得、と言うんだな」
低い声は、そうつぶやく。
「こんな『仕事』をやってるんだからな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる