反帝国組織MM⑪完 Seraph――生きていくための反逆と別れ

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
6 / 78

5.目が痛くなりそうな白い街

しおりを挟む
「ここ?」

 Gは思わず目を丸くした。

「そう、ここ」

 イアサムは軽く返す。
 確かに、何も無い。跡形もない。
 いや、そこに建物なり、店なり、それがあった雰囲気というものは残っている。例えば、敷地の隅に転がった、ランプの傘とか、壊れた椅子とか。

「攻撃にあった、って本当だったんだな」
「何かねえ、ここはアウヴァールのスパイのたまり場だったんだってさ」
「スパイの」

 うん、とイアサムはうなづく。

「それで、このワッシャードの警察だか軍だかに、やられたのかい?」
「違うよ。お客さん、知らないね。そんな単純なものじゃないさ」
「と言うと?」
「連中は攻撃を受けて逃走する時に、ここに火をつけたんだよ」
「何でまた」
「そりゃあ、ここに集まってる何かの証拠が見つかったらまずいだろ?」
「でも、イアサム、君はよくそんなこと知ってるね。まだ小さいのに」
「小さいって言うなよ!」

 かっとして彼し怒鳴った。おや、とGはその様子を見て思う。何やら小さくて、よく吠える犬を見ている様な気がする。

「だいたいお客さん、あんたそういうけど、俺とどんだけ違うっていうんだよ!」
「どれだけって」

 彼は苦笑する。この少年(に見える)にとって、自分は一体どのくらいの年齢に見えているのだろう。もう自分の流れてきた、実際の年月がどのくらいなのか、彼はとうに忘れてしまっていた。
 と同時に、きっと自分は成長することも、忘れてしまったのではないか、と時々彼は考える。無論、判らないことを知るとか、危機対処ができるといったこととは別のことである。

「幾つに見えるの?」
「俺、二十歳だぜ?」
「え?」

 彼は思わず声を上げた。それは予想外だった。

「嘘だろう、君、何処から見ても」
「15.6くらいって言うんだろ? 全く」

 そうやってイアサムは頬を膨らませる。その行動の何処が子供っぽくないんだ、と反論したい気持ちに彼もかられたが、まあ態度と年齢は関係ない。

「時々ね、この惑星で生まれる奴は、成長が遅くなったりするんだよ」
「へえ。それって、やっぱり一日の時間と関係あるのかな」
「知らないよ。でも珍しいことは確かだよ。だからいちいち俺、言われたくない」
「ああそう…… うん、ごめん」

 ちょっと誠意がこもっていない言い方かな、と彼は思う。だがとっさにはそれが精一杯だった。

「じゃあ、話を戻そう。それって、あの店でよく話されてることなのかい?」
「まあね。うちの店は小さいけれど、人の出入りは多い。ついでに言うなら、あんたみたいな観光客も結構来る。色んな言葉の色んな情報が、ホントのものもウソのものもひっくるめて、あふれかえってる」

 本当も嘘も、というあたりに、Gはふと目を細めた。

「カフェってのはそういうとこなの?」
「どうかな。どっちかというと、そうゆうのは、カッフェーの方が普通なんじゃない? ウチの方が珍しい」
「そうなの。でもさイアサム、そういうことを、ただの観光者の俺にすらすら言ってしまっていいの?」
「俺はさ、誰にだって言うよ。あんただけじゃない」

 なるほど、と彼は肩をすくめた。
 この惑星にやって来た時、彼が感じたのは、まず開放感だった。
 居住地域がそう多くは無い惑星だというのに、何故自分がそんなことを感じたのか判らない。
 宙港に着いた時の、あの熱気。エアコンディショナーは効いているはずなのに、空気の密度が違った。
 そして外へ出た時の、まぶしい日差し。街並みは白かった。昼時間の真ん中の日差しは、強烈で、ただただ白い。その白い日差しを、白い石造りの建物が更に跳ね返す。目が痛くなりそうだった。
 すぐに適当な宿に居場所を定めると、服を買いに出かけた。この街で住む男達と同じ、白い長い服と、頭にかぶる布。白い街の中で、埋没するにはそれがいい。
 とりあえずは、ロゥベヤーガだった。こことは違うが、昼はカフェ、夜はカッフェーで、ぼんやりと時間を過ごした。ただ耳だけはいつも開放していた。休暇とは言え、自分の身を守ることは必要だ。
 街の中では、いつでも言葉があふれていた。
 三人居る妻の一人が飛び出したとか、息子の成人式には大したことはしてやれなかったが娘には充分な持参金を付けなければ、と言ったひどく家庭的な話から、昨日近くのアダマン市で木の実の輸出業者同士の抗争があった、と言ったような物騒な話ので、それは千差万別だった。
 ただ、その何処にも、あの有名な反帝都政府集団の名前は出てこなかった。それが彼を、どんな物騒な空間の中でもくつろがせた。
 そんなに自分はあの集団の中に居るのが嫌なのだろうか。彼はそれを自覚するたび、ぼんやりと考えた。そうではない、と思う。思いたかった。
 ただ、思いたい、と考える時点で、そこに迷いがある。彼はそれにも気付いてはいた。
 あの連絡員と自分は違うのだ。あれだけ盲目的に信じられたら、どれだけ楽だろう、と思う。
 自分の一番大切な部分を他人に預けてしまうと、確かに楽ではある。そこに自分の責任は無くなる。少なくとも、自分の中で。
 だが彼はそれを好まない自分を知っている。
 そんな繰り言の様な考えがずっと頭の中をぐるぐると回って離れない。
 人混みの中に紛れるのは、そこから逃れるためだった。雑多な人々の声が、その中に含まれる考えが、強烈な日差しの中、白い空間で、とけ込んでしまう。まぶしくて、見えなくなってしまう。
 中断させたのは、イェ・ホウだった。そして、また別の問題を彼に投げかけた。
 先の事件で出会ったのは偶然ではない。彼は自分を待っていたのだ。まだ彼に会っていない自分を。
 それがどういう意味なのか、彼は知っていた。その事件の時に、Gは自分の未来の姿と会っている。自分は近い未来、過去へと飛ぶのだ。
 それがいつなのか、何処なのか、彼にも判らない。時間を飛び越えてしまう天使種としての能力は、Gの意志とは関わりなく発動する。
 しかしイェ・ホウが姿をくらました、ということは、それがそう遠くはないことを示しているのではないか、と彼は思わずにはいられない。
 だから長く――― できるだけ長く、あの怠惰な時間を、少しでも長引かせていたかったのだが。

 信じたくはなかった。自分が「Seraph」の党首になるのだとは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...