反帝国組織MM⑪完 Seraph――生きていくための反逆と別れ

江戸川ばた散歩

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21.イアサムはそんな盲目的心酔を嫌う

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「で、その女とどうして帝立大で会った訳?」 
「私は学生で…… 彼女も学生でした。別に彼女が地下活動に誘ったという訳ではないんですが……」
「地下活動かい!」

 吐き捨てる様にイアサムは言う。

「そういうことをあまりはっきり口に出すものじゃないよ……」
「でも地下活動としか言い様がないですし」
「はいはいそれで?」
「私はそこではごくごくありふれた学生でしたから……毎日何となく勉学にはげみ、皆と遊び…… まあごくごくありふれた生活をしていたのですが」
「つまらなくなった訳?」
「いえ…… つまらないなどと……」
「端から見りゃねー、あんた達ってのはすごい恵まれた環境なんだぜ? 帝立大なんて、入りたくても入れない奴はごまんと居るんだ。なのに何よ」
「それは…… でもそれは、そこに居る者にしか判らないものもあります!」
「まあそれはいいさ。あんたにはあんたの言い分もあるだろ。でもせっかくそーんないいとこで勉強してた連中が、しかもあんた帝都の人間じゃないんだろ? だったらあったまいいはずじゃない。どーしてそんな活動に行ってしまう訳」
「……だから!」

 マリエアリカは顔を上げた。

「そーんなに、その女が、好きだったんだ」

 上げた顔が、一瞬にして赤らむ。

「……いけませんか?」
「いけなくはないさあ。自分の居場所が分からないとか何とか言ってる連中に比べりゃ、よっぽど真っ当な答えだよ。でもさその女、そんなにあんたが惚れ込むほど、いい奴な訳?」
「あなたは彼女に会ったことないから、そういうんです」

 彼女はきっぱりと答えた。

「最初から彼女は、圧倒的でした…… 別にどうしろこうしろって言われた訳じゃあないです。だけど、どれだけ彼女が急ぎ足になっても、どうしても付いていきたい、って気持ち、あるじゃないですか」
「だからそれはそれでいいって言うの」

 ややうんざりした様にイアサムは言い返す。

「だから、その女は何をどうしていたの」
「だから、……地下活動です」
「何の。反帝組織か何かだって言うの? 有名どころ?」
「……というのかもしれません。でも私、それがどんなところかなんか知らないんですから」
「……ふざけんしゃないよ」
「ふざけてません! 何処だって、何だってよかったんです!」

 ふう、ともう一度Gはため息をつき、代わって、とイアサムの肩に手を置いた。

「……君がとてもとてもとてもその人が好きだっていうのはよーく、判った。で、どうしてその人は君をこの惑星まで連れてきた訳?」
「……あ」

 話が停滞していたことを思い出したのか、彼女の頬が再び赤くなる。ああどうしましょう、と焦ると育ちがそこに出るらしい。
 しかしそんな育ちが判る様な女が、ここであんな仕事について平気だ、というのがGには不思議だった。
 確かに誰かに心酔している人間は、その相手のためなら何をしても、という部分はあるだろう。しかし元々の育ちというのはなかなか隠せないものだ。

「彼女は…… ここでするべきことがあるからと」
「するべきこと?」
「何だよそれ」

 ぐい、とイアサムは身を乗り出す。

「……この惑星の、女性を助けるという仕事です」 
「なるほど、それにあんたは感銘してしまったって訳だ」
「……大切な、仕事です!」
「ふうん。それであんたは何だよ。女じゃない訳? どーしてそうゆうお仕事するっていうのに、あんたという女が、そんな傷こしらえなくちゃいけないんだよ?」

 マリエアリカはうっと口ごもった。

「それは……」
「言えないだろ」
「……だけど、この惑星の、女性を売ることに関してのやり方は、間違ってます!」
「それはあんたの育った環境では間違ってる、っていうだろ。そりゃあそうだろうな。アニミム星系も、帝都も気候はばっちり快適だもんな。でもここは違うんだぜ。大して量の無い住める地域以外は砂砂砂なんだぜ? そういうとこで決まった約束事を、あんたらの常識とやらで解決しようとするんじゃないよ!」
「……」
「君は『逃がし屋』の集団の一人なんだね?」

 イアサムの攻撃が一段落したところでGは口をはさむ。すっかり萎縮してしまったマリエアリカは、小さな声で、ええと答えた。

「『逃がし屋』は、砂漠の途中で、女を助けて、アウヴァールへ連れて行くんだろ?」
「ええ。砂漠の、ワッシャード側からは見えなくなった辺りで、女性を助けて、そのまま待機していた車に乗せて運ぶのです」
「それじゃあ、そのアウヴァールで、彼女達はどうしているのかい?」
「……一応、請負料はいただきますから……」
「それを持って、生活していると思う?」
「思いたい…… です」

 だんだん彼女の声は頼りなげになってくる。

「……ええだって、私も会いました。向こうで、ちゃんと家庭を持ってるひとも見ました。だから、それは間違っていないと思いました」
「そんなのね、幾らでも作れるだろ」
「作る?」
「最初から、あんたの様な単純な正義感という奴にまみれたお嬢さんを引っかけるためにはさ、最初の売られる段階からお芝居してることだってあるだろ?」
「……そんな」
「俺もそう思う。ねえ君、こっちで売られそうになった子なら、向こうでも売られてる、って考えてみなかった?」

 彼女はぶるぶると首を振った。

「だって…… そんな…… 彼女がそんなこと……」
「そこまで信じられる? そんな人なら、俺は一度お目に掛かってみたいよ」
「……あ…… あなたは彼女を見たことないから言えるんです!」
「そうだよ俺は見たことないよ」

 イアサムは吐き捨てる様に言う。

「でもあんたを見てると、お目にかかっても、お知り合いにはなりたくないね。俺だったら、もっとましな奴を選ぶよ」
「……そんな人、居るですか! 居るもんですか!」
「自分で思いつかないからってヒステリックに叫ぶなよ、うるさいよ。あいにく、俺にだって、そうゆう人はいるんだからね」

 え、とGはイアサムを見た。あまりにもさらりとその言葉は口から滑り出したが。

「……だったら気持ち、少しは判ってくれてもいいじゃないですか!」
「あいにくね、俺のそういうひとは、そういう盲目的な態度ってのはすごーく嫌うの」

 だから少し黙ってなさいね、とイアサムは言うと、その時頭にきたらしい彼女が伸ばした身体に当て身を食らわせた。

「……イアサム……」
「ねえサンドさん、とりあえずこの女、さっき言った通り、あの都市警察のひと達のとこに届けて来ようよ」
「……それは俺も賛成だけど、君……」

 そしてその華奢に見える身体に関わらず、彼は気を失ったマリエアリカの身体をひょい、と持ち上げた。

「俺さあ、こーんな風に盲目的に誰かを信じるのって、だいっきらいなの」
「それは俺も嫌だけど」
「だからさサンドさん、この女に、そーんなに思わせる誰かさん、って一度見たくない?」
「それは」

 彼もそれには、なかなか興味があった。
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