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29.『生存は可能。居住は不適』な惑星
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「私も実際に見た訳ではないから分からないが、そんな時期もあったのやもしれない。全く口を利かずに、そんな場所で同志を募るのは無理な話だ。そしてまだ、あの方にも、何の力も無かった頃だ」
「力が」
「そう、力が。忘れたのかね? 君達という生物は何故力があるのか」
忘れた訳ではない。忘れられる訳がない。ただ、思い当たらなかったのだ。
「話を戻そう。彼は、同志と密かに計画を練った。それは慎重に慎重を重ねたものだった。計画どころか、その様に不穏な発想を持っていることを知られただけでも罰せられる。簡単に死が与えられる」
「ひどいな」
「何故その様なことができたと思う?」
Gは黙って、ちら、と伯爵の方に視線を流した。
「支配者側にとって、奴隷は同じ人間ではなかったからだ。罪悪感など全くない。自分たちが作り出してやった生命だから、自分達が勝手に潰してしまっても、それは決して罪ではない、と考えていたんだよ。傲慢なことだ」
同じ生物であることには変わりはあるまい、と伯爵は付け足した。確かに、とGはうなづいた。このひとにはそれを言う資格がある。
「彼らはそんな中で、周到に計画を練った。何をしたと思う?」
「……反乱は、……無理ですね。条件が悪すぎる」
「そうだ。物資も、武器も、何もかも足りない。それに、何より、下手に武装化した時に、彼らが乗っている船そのものを壊してしまっては元も子もない。支配者層を倒すことができたとしても、共倒れではどうしようもない」
「では」
「そこで彼らは、彼らだけで逃走することを選んだ」
「逃走」
「巨大な移民船には、もしもの時のために、脱出用の船が積載されている。それは母船ほど長い時間を飛ぶことはできないかもしれないが、それでも目的の場所が見つかったら、そこまでの距離を超空間航行することは可能だ。そういう作りになっているはずだ」
そういうものだろうか、と移民船の時代からは遠く離れた時代に生まれたGは思う。そしてそういうものなのだろう、と無理矢理自分を納得させる。
「彼らはその船を一つ、奪うことにしたのだ」
「そんなことが、可能だったのですか?」
「可能かどうか、ではなかったのだよ、彼らには。そうするしか、なかった」
「そうするしか」
「無論、そんな冒険を拒む者が居ない訳ではなかった。だから脱走組にしてみれば、そんな不参加者に対しても警戒を怠る訳にはいかなかった。中には、上の世界に引き上げられてもらえるものと信じて、密告する者が出ない訳でもない。しかしそんな中で、彼らは情報を収集し始めた」
「どうやって? だって、生活区域は決まっているのでしょう?」
「そう確かに決まっていた。しかし、かと言って、全く不可能な訳ではない。時には、危険な作業中に行方不明になる者も居る」
なるほど、とGは納得した。
「彼は元々上の世界で反旗を翻した時に、船の内部は熟知していた。下の世界で手を組んだ者達の中で、彼は参謀の様な役割となっていき、ゆっくりだが、確実に、計画を遂行させていった」
「……」
「ただ、問題は、脱走した後の行き場所だった。計画を始めてしまったら、遂行までの時間制限は、自ずと決められてしまう。目標の無い計画は失敗するものだ」
Gは苦笑する。
「居住可能な惑星が、見つかる可能性は低かった。そもそも、そんな惑星があるのなら、当の昔に、この移民船自体がそこにたどり着こうとしているはずだ。だがその気配は無かった」
伯爵は首を横に振る。
「いや、全く無い訳ではなかった。ただそこは、その船に乗り込んだ支配者層にとって、住むに値しない惑星だった、ということだ」
「と言うと」
「温暖でなくてはならない。自然が豊かでなくてはいけない。そして先住の知的生命体が居てはいけない」
「そんなこと言っていたら、永遠に見つからないかもしれないというのに」
「そうしたら永遠に船でさまよっていればいい、と思ったのだろうな。しかし脱走する彼らには、そんな選択は意味が無かった。どんな場所でも、現在よりはましだ、というのが彼らを奮い立たすバネになった」
だろうな、とGも思う。
「そして、ある日、そんな見捨てた惑星が彼らの前に近づいたのだ」
伯爵は笑った。いや、笑った様に見えただけかもしれない。
「その惑星は、決して居住に適した所ではなかった。少なくとも、探査コンピュータの端末は、必ずこう答えていた。『生存は可能。居住は不適』」
「居る分には構わないが、住むには適さない」
「平たく言えばね」
「それが、……アンジェラスですか?」
そうだ、と伯爵はうなづいた。
「一体誰がその様な名前を付けたのだろうね。古い宗教では『お告げの祈り』やその祈りの時刻を告げる鐘の意味だと言う。直接に天使そのものを示す言葉ではない。同じ様な宗教をバックボーンに持っていたとしてもだ。……しかし考えようによっては、正しいのかもしれない」
「……」
「結果としては、だ」
「結果として」
「彼らは、それでもその惑星へと脱出した。総勢186名、だったという。たったの186名だよ? それだけの、体系だった知識も何も持たない寄せ集めの集団だ。ただ、その集団には、生きようという意志があった。踏みつけにされていたくない、という誇りがあった。それが一体何処から来たものかは判らない。その血をたどればその答えは出るかもしれないが、それは不可能だ。……いずれにせよ、彼らは不屈の闘志と忍耐で、その惑星へ何とかたどり着いたのだ」
「……無茶です」
「無茶だろう。しかし既に彼らの計画は発覚直前だった。飛び出すしかなかった。船を動かせる者はいない訳ではなかった。船外の危険な作業をさせられていた者も居た訳だからね。死と隣り合わせの作業に、彼らはいともたやすく、大した訓練も無しに外に出された。無論その中で死んだ者も…… いやその話じゃないな」
脱線しかかったことに伯爵は苦笑する。
「そんな外での作業をしていた者、また彼らを乗せていた船の操縦士と言った者が、活躍した。彼らは自分で超空間航行はしたことが無い。それは巨大な船のコンピュータに任せていたからね。しかししない訳にはいかなかった。そしてそれは奇跡的に成功したのだ」
「奇跡的」
「……とその時はそう思ったのだろう。しかしそうではなかった。彼らは呼ばれたのだ。惑星に」
「え?」
それは初耳だった。Gは思わず問い返す。
「惑星が、彼らを誘導した。君等の母星だ。アンジェラスの主星自体が、彼らを呼び寄せたのだ」
「それは……」
そんなことが、とGは言い返そうと思った。が、できなかった。そんなことが、あってもおかしくは無い、と彼は知っているのだ。
「力が」
「そう、力が。忘れたのかね? 君達という生物は何故力があるのか」
忘れた訳ではない。忘れられる訳がない。ただ、思い当たらなかったのだ。
「話を戻そう。彼は、同志と密かに計画を練った。それは慎重に慎重を重ねたものだった。計画どころか、その様に不穏な発想を持っていることを知られただけでも罰せられる。簡単に死が与えられる」
「ひどいな」
「何故その様なことができたと思う?」
Gは黙って、ちら、と伯爵の方に視線を流した。
「支配者側にとって、奴隷は同じ人間ではなかったからだ。罪悪感など全くない。自分たちが作り出してやった生命だから、自分達が勝手に潰してしまっても、それは決して罪ではない、と考えていたんだよ。傲慢なことだ」
同じ生物であることには変わりはあるまい、と伯爵は付け足した。確かに、とGはうなづいた。このひとにはそれを言う資格がある。
「彼らはそんな中で、周到に計画を練った。何をしたと思う?」
「……反乱は、……無理ですね。条件が悪すぎる」
「そうだ。物資も、武器も、何もかも足りない。それに、何より、下手に武装化した時に、彼らが乗っている船そのものを壊してしまっては元も子もない。支配者層を倒すことができたとしても、共倒れではどうしようもない」
「では」
「そこで彼らは、彼らだけで逃走することを選んだ」
「逃走」
「巨大な移民船には、もしもの時のために、脱出用の船が積載されている。それは母船ほど長い時間を飛ぶことはできないかもしれないが、それでも目的の場所が見つかったら、そこまでの距離を超空間航行することは可能だ。そういう作りになっているはずだ」
そういうものだろうか、と移民船の時代からは遠く離れた時代に生まれたGは思う。そしてそういうものなのだろう、と無理矢理自分を納得させる。
「彼らはその船を一つ、奪うことにしたのだ」
「そんなことが、可能だったのですか?」
「可能かどうか、ではなかったのだよ、彼らには。そうするしか、なかった」
「そうするしか」
「無論、そんな冒険を拒む者が居ない訳ではなかった。だから脱走組にしてみれば、そんな不参加者に対しても警戒を怠る訳にはいかなかった。中には、上の世界に引き上げられてもらえるものと信じて、密告する者が出ない訳でもない。しかしそんな中で、彼らは情報を収集し始めた」
「どうやって? だって、生活区域は決まっているのでしょう?」
「そう確かに決まっていた。しかし、かと言って、全く不可能な訳ではない。時には、危険な作業中に行方不明になる者も居る」
なるほど、とGは納得した。
「彼は元々上の世界で反旗を翻した時に、船の内部は熟知していた。下の世界で手を組んだ者達の中で、彼は参謀の様な役割となっていき、ゆっくりだが、確実に、計画を遂行させていった」
「……」
「ただ、問題は、脱走した後の行き場所だった。計画を始めてしまったら、遂行までの時間制限は、自ずと決められてしまう。目標の無い計画は失敗するものだ」
Gは苦笑する。
「居住可能な惑星が、見つかる可能性は低かった。そもそも、そんな惑星があるのなら、当の昔に、この移民船自体がそこにたどり着こうとしているはずだ。だがその気配は無かった」
伯爵は首を横に振る。
「いや、全く無い訳ではなかった。ただそこは、その船に乗り込んだ支配者層にとって、住むに値しない惑星だった、ということだ」
「と言うと」
「温暖でなくてはならない。自然が豊かでなくてはいけない。そして先住の知的生命体が居てはいけない」
「そんなこと言っていたら、永遠に見つからないかもしれないというのに」
「そうしたら永遠に船でさまよっていればいい、と思ったのだろうな。しかし脱走する彼らには、そんな選択は意味が無かった。どんな場所でも、現在よりはましだ、というのが彼らを奮い立たすバネになった」
だろうな、とGも思う。
「そして、ある日、そんな見捨てた惑星が彼らの前に近づいたのだ」
伯爵は笑った。いや、笑った様に見えただけかもしれない。
「その惑星は、決して居住に適した所ではなかった。少なくとも、探査コンピュータの端末は、必ずこう答えていた。『生存は可能。居住は不適』」
「居る分には構わないが、住むには適さない」
「平たく言えばね」
「それが、……アンジェラスですか?」
そうだ、と伯爵はうなづいた。
「一体誰がその様な名前を付けたのだろうね。古い宗教では『お告げの祈り』やその祈りの時刻を告げる鐘の意味だと言う。直接に天使そのものを示す言葉ではない。同じ様な宗教をバックボーンに持っていたとしてもだ。……しかし考えようによっては、正しいのかもしれない」
「……」
「結果としては、だ」
「結果として」
「彼らは、それでもその惑星へと脱出した。総勢186名、だったという。たったの186名だよ? それだけの、体系だった知識も何も持たない寄せ集めの集団だ。ただ、その集団には、生きようという意志があった。踏みつけにされていたくない、という誇りがあった。それが一体何処から来たものかは判らない。その血をたどればその答えは出るかもしれないが、それは不可能だ。……いずれにせよ、彼らは不屈の闘志と忍耐で、その惑星へ何とかたどり着いたのだ」
「……無茶です」
「無茶だろう。しかし既に彼らの計画は発覚直前だった。飛び出すしかなかった。船を動かせる者はいない訳ではなかった。船外の危険な作業をさせられていた者も居た訳だからね。死と隣り合わせの作業に、彼らはいともたやすく、大した訓練も無しに外に出された。無論その中で死んだ者も…… いやその話じゃないな」
脱線しかかったことに伯爵は苦笑する。
「そんな外での作業をしていた者、また彼らを乗せていた船の操縦士と言った者が、活躍した。彼らは自分で超空間航行はしたことが無い。それは巨大な船のコンピュータに任せていたからね。しかししない訳にはいかなかった。そしてそれは奇跡的に成功したのだ」
「奇跡的」
「……とその時はそう思ったのだろう。しかしそうではなかった。彼らは呼ばれたのだ。惑星に」
「え?」
それは初耳だった。Gは思わず問い返す。
「惑星が、彼らを誘導した。君等の母星だ。アンジェラスの主星自体が、彼らを呼び寄せたのだ」
「それは……」
そんなことが、とGは言い返そうと思った。が、できなかった。そんなことが、あってもおかしくは無い、と彼は知っているのだ。
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