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52.花火
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「どうしたの?」
コレットは一度乱れた髪をまとめながら彼に問いかける。
「……いや、まだ向こうが明るいと思って」
窓に腰かけながら、彼は答える。花火があちこちで上がっている。開けた窓に、ぽんぽんとひっきり無しに音が飛び込んでくる。
「そりゃあそうでしょう、祭りなんだから」
当然の様に、彼女は手を広げた。
そうだね、と彼は答えた。
*
食事の後、コレットは広場で始まったダンス・マラソンにいきなり参加してしまった。大きな濃い色の花柄を振り回しながら、ボンネットを激しく揺らせながら、彼女は実にくるくるくるくるとよく動いた。
思わずGは目を離せなくなってしまっていた。
ふくらんだ袖からすっと伸びた、むきだしの腕が空を貫く。陽気な笑顔。
気が付いたら、陽がずいぶんと傾き、ダンス・マラソンも終盤にかかった頃に、はあはあと息を乱し、首すじから胸にかけて、玉になった汗を浮かべている彼女が飛び出してきた。
「何まだ居たの!?」
あはははは、と彼女は笑って、勢いのまま、Gに飛びついた。
「泊まっておいきよ」
彼女はその勢いのまま、彼の首に腕を回し、言った。
「今日はクルティザンヌにも休日なんだ」
だから、客でない相手と寝てもいいんだよ、と。
*
「明日は早いのかい?」
彼女は問いかける。いや、とGは首を横に振る。
この惑星に「明日」は無い。彼はそれを知っていた。
ただ、どんな方法で「今日」この惑星が壊滅するのか、彼には予想がつかなかった。
もう夜で、それももうかなり回っている。
今日これから、いきなり爆撃があるとでもいうのだろうか。しかし空襲が普段からある様な地域には見られない。人々の余裕はその証拠だ。
指導者キュレーの悪口を言っていても、まだ言う余裕がある。戦争はおそらく、この惑星の住民にとって、遠い世界の出来事なのだろう。ハンオク星域が大変なことになった、と言っても、それはただの事実の確認に過ぎない。
「これから何処へ行くんだい?」
彼は首を傾げて、微かに笑った。まだそれは、彼にも判らない。
Mが冒してしまった「過ち」。それが何であるのか、判らない限りは、次の移動はできない。
彼はそれが都市である限り、日銭を稼ぐことはできるだろう自分を知っていた。戦場でも生き延びる術は学んできた。
その他の場所に出る可能性が無い訳ではない。もしかしたら、恐ろしく平穏な農村に出てしまうかもしれない。工場地帯の真ん中に出てしまうかもしれない。きっとそんな所に出たら、戸惑ってしまうかもしれない。あまりの平和さに。
出た所勝負ではある。そこにMの過ちが存在するなら、そこがそれまでどんな平和な所であったにせよ、その瞬間から、平和とは縁の無い場所になるのだろうから。
「何だい。決めてないの?」
「まだ、判らないんだ」
「ふうん。それじゃあ仕方ないね」
そう言って彼女は、Gを引き寄せて、唇を塞いだ。柔らかで、穏やかなこの感触。久しぶりだった。悪くはない、と思う。
「やめた」
不意に彼女は身体を離す。
「その気になっていない男とするのは商売だけで充分だと思わない?」
「その気に? なってるとは思わない?」
「身体はね、でも」
ふわりとした褐色の巻き毛が、肩に滑り落ちる。
「あなた何か、ずっと気にしているわよ。何? あたしに言って済むことなら言ってごらんなさいよ」
しっとりとした指先が、頬からあごにかけての線をたどる。どうしたものかな、と彼は苦笑する。
言っていいものだろうか。君達の惑星は、今日で終わるんだ、と。
もっとも、口にしたところで、信じられやしないだろうけど。
「……いや、戦争はここには来ないかなと」
「何、来て欲しいの?」
「そんなことは無いけど」
「どうかしらね。あのケチのキュレーがアンジェラスの軍にお帰り願うのに、どれだけ払うか、が問題だけど」
「え?」
「あんた新聞ちゃんと読んでいなかったの? 駐留してるのよ、アンジェラスの軍は。とりあえず政府がどケチだろうが何だろうが、それなりにあしらっているから、今のとこ何とかなってるけど」
「……軍が、居るのかい?」
「居るわよ。それも空にね」
「空」
「いつ爆弾落とされたって、おかしくは、ないわよ」
頬を撫でる手が、そのまま髪をかきあげる。
「だけど、そこで下手に防空対策なんてとったら、向こうに敵対意識もってることが丸判りじゃない。だから祭りを、しなくちゃならなかったのよ」
「……本当に?」
「誰だって知ってることよ。ねえ、あんたはだあれ?」
コレットは問いかけた。
「この時期、他星からの旅行者が、テロワニュに入れる訳が無いのよ。もうずっと前から、宙港は閉鎖されている。あんたの様に、そんな身軽な恰好で、換金してないお金持って、ふらふらとやってくる旅行者が入れる程、平和な時代じゃあないのよ」
「……俺は……」
Gがそう言いかけた時、だった。急に花火の音が、激しくなった。
窓の外が、明るくなる。色とりどりの、あくまで花火。勢い良い音が、これでもかとばかりに鳴り響く。火薬のにおいが、漂いだす。
「な」
窓の方を向こうとした矢先、彼女の手がそれを阻止する。
「花火でしょ」
彼女はあっさりと、だけどきっぱりと答える。
「花火でも打たなくちゃ、気がおさまらないわよ」
コレットは一度乱れた髪をまとめながら彼に問いかける。
「……いや、まだ向こうが明るいと思って」
窓に腰かけながら、彼は答える。花火があちこちで上がっている。開けた窓に、ぽんぽんとひっきり無しに音が飛び込んでくる。
「そりゃあそうでしょう、祭りなんだから」
当然の様に、彼女は手を広げた。
そうだね、と彼は答えた。
*
食事の後、コレットは広場で始まったダンス・マラソンにいきなり参加してしまった。大きな濃い色の花柄を振り回しながら、ボンネットを激しく揺らせながら、彼女は実にくるくるくるくるとよく動いた。
思わずGは目を離せなくなってしまっていた。
ふくらんだ袖からすっと伸びた、むきだしの腕が空を貫く。陽気な笑顔。
気が付いたら、陽がずいぶんと傾き、ダンス・マラソンも終盤にかかった頃に、はあはあと息を乱し、首すじから胸にかけて、玉になった汗を浮かべている彼女が飛び出してきた。
「何まだ居たの!?」
あはははは、と彼女は笑って、勢いのまま、Gに飛びついた。
「泊まっておいきよ」
彼女はその勢いのまま、彼の首に腕を回し、言った。
「今日はクルティザンヌにも休日なんだ」
だから、客でない相手と寝てもいいんだよ、と。
*
「明日は早いのかい?」
彼女は問いかける。いや、とGは首を横に振る。
この惑星に「明日」は無い。彼はそれを知っていた。
ただ、どんな方法で「今日」この惑星が壊滅するのか、彼には予想がつかなかった。
もう夜で、それももうかなり回っている。
今日これから、いきなり爆撃があるとでもいうのだろうか。しかし空襲が普段からある様な地域には見られない。人々の余裕はその証拠だ。
指導者キュレーの悪口を言っていても、まだ言う余裕がある。戦争はおそらく、この惑星の住民にとって、遠い世界の出来事なのだろう。ハンオク星域が大変なことになった、と言っても、それはただの事実の確認に過ぎない。
「これから何処へ行くんだい?」
彼は首を傾げて、微かに笑った。まだそれは、彼にも判らない。
Mが冒してしまった「過ち」。それが何であるのか、判らない限りは、次の移動はできない。
彼はそれが都市である限り、日銭を稼ぐことはできるだろう自分を知っていた。戦場でも生き延びる術は学んできた。
その他の場所に出る可能性が無い訳ではない。もしかしたら、恐ろしく平穏な農村に出てしまうかもしれない。工場地帯の真ん中に出てしまうかもしれない。きっとそんな所に出たら、戸惑ってしまうかもしれない。あまりの平和さに。
出た所勝負ではある。そこにMの過ちが存在するなら、そこがそれまでどんな平和な所であったにせよ、その瞬間から、平和とは縁の無い場所になるのだろうから。
「何だい。決めてないの?」
「まだ、判らないんだ」
「ふうん。それじゃあ仕方ないね」
そう言って彼女は、Gを引き寄せて、唇を塞いだ。柔らかで、穏やかなこの感触。久しぶりだった。悪くはない、と思う。
「やめた」
不意に彼女は身体を離す。
「その気になっていない男とするのは商売だけで充分だと思わない?」
「その気に? なってるとは思わない?」
「身体はね、でも」
ふわりとした褐色の巻き毛が、肩に滑り落ちる。
「あなた何か、ずっと気にしているわよ。何? あたしに言って済むことなら言ってごらんなさいよ」
しっとりとした指先が、頬からあごにかけての線をたどる。どうしたものかな、と彼は苦笑する。
言っていいものだろうか。君達の惑星は、今日で終わるんだ、と。
もっとも、口にしたところで、信じられやしないだろうけど。
「……いや、戦争はここには来ないかなと」
「何、来て欲しいの?」
「そんなことは無いけど」
「どうかしらね。あのケチのキュレーがアンジェラスの軍にお帰り願うのに、どれだけ払うか、が問題だけど」
「え?」
「あんた新聞ちゃんと読んでいなかったの? 駐留してるのよ、アンジェラスの軍は。とりあえず政府がどケチだろうが何だろうが、それなりにあしらっているから、今のとこ何とかなってるけど」
「……軍が、居るのかい?」
「居るわよ。それも空にね」
「空」
「いつ爆弾落とされたって、おかしくは、ないわよ」
頬を撫でる手が、そのまま髪をかきあげる。
「だけど、そこで下手に防空対策なんてとったら、向こうに敵対意識もってることが丸判りじゃない。だから祭りを、しなくちゃならなかったのよ」
「……本当に?」
「誰だって知ってることよ。ねえ、あんたはだあれ?」
コレットは問いかけた。
「この時期、他星からの旅行者が、テロワニュに入れる訳が無いのよ。もうずっと前から、宙港は閉鎖されている。あんたの様に、そんな身軽な恰好で、換金してないお金持って、ふらふらとやってくる旅行者が入れる程、平和な時代じゃあないのよ」
「……俺は……」
Gがそう言いかけた時、だった。急に花火の音が、激しくなった。
窓の外が、明るくなる。色とりどりの、あくまで花火。勢い良い音が、これでもかとばかりに鳴り響く。火薬のにおいが、漂いだす。
「な」
窓の方を向こうとした矢先、彼女の手がそれを阻止する。
「花火でしょ」
彼女はあっさりと、だけどきっぱりと答える。
「花火でも打たなくちゃ、気がおさまらないわよ」
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