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63.漢方薬屋
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「何だってあんたが……」
「知り合いかい?」
「……市場通りでいつもねーちゃんの薬を安く売ってくれる……」
「漢方薬屋のマオです。初めまして。いえ、お久しぶりという感じです」
そういうことか、とGは思った。
無論自分には覚えは無い。だが自分という存在が何処かでこの青年に出会っているのか、もしくは知れ渡っているのだろう。
とすると。
「今の俺は、君等がどういうつながりなのか判らないけれど、俺にとっては味方なんだな?」
「はい」
マオは硬そうな髪を短く刈り込んだ頭をさっと下げる。
「我々は、いつになるのか判らないけれど、あなたが現れる時にはあなたがそれを判っていてもいなくとも、そうすべきだと言われてきましたから」
Gはうなづいた。
「―――何だよあんた?」
イェ・ホウはいきなり変わった知り合いの態度と、この唐突に自分の前に現れた謎の人物とを見比べ、顔を歪める。何なんだ一体。
「……まさか、最初から」
がし、とマオはイェ・ホウの頭をはたく。
「違うんだよ! ……けどお前がなあ」
「はあ?」
意味も判らず困惑した表情のイェ・ホウを見て、くす、とGは口の端で笑う。なるほど、彼らは俺がこの子を知ってるということがどういう意味か知ってるのか。
「今の俺には判らない部分が多いんだけど、なるほど、この街にも俺が居ても構わない場所があるんだな」
「はい」
マオは大きくうなづいた。
自分が言葉をきちんと交わしたのは、あの老人くらいしかない。関わっているのは間違いないだろう。
「ではあの裏布のことも、聞いてるんだろう?」
「はい。いずれにせよ、ああいうものは、我々の勢力範囲内では排除してきました。……ちょうど良い、口実となります」
「そうだな」
Gはにやりと笑う。
「あれ」
何が何だか判らない、とまた泣きそうな顔になっていたナーイが、イェ・ホウの腰のあたりをじっと見る。
「鳴ってるよ、ホウ」
「鳴って?」
イェ・ホウは腰のポケットに手をやる。何処で手に入れたのか、小型の端末がその手の中にはあった。ちら、と小窓をのぞくと、表情が変わった。
「……ねーちゃん!」
少年は思わず叫んでいた。
「どうした?」
「ねーちゃんが、俺を呼んでる」
「何かあったのか?」
「ちょっと待って下さい」
マオもまた、前掛けのポケットから、やや形の違う端末を取り出す。耳に当て、誰かを呼びだしている様だった。
「……そう、……何?」
太めの眉がぐっと寄せられる。
「……大変だ、お前のねーさんが、連れ去られた」
「俺のせいだ!」
その結論に瞬間的に行き着いたのは見事だ、とGは思う。
「一応こっちも、メィランの周囲に人をやっていたのですが」
「メィラン?」
「ホウの姉です」
「どうしよう…… ねーちゃん、逃げることはできないんだ……」
普段から寝たり起きたりだったら、確かにそんな荒事には対処できないだろう。
「こんなことが起きちゃ困るから、と端末を渡しておいたのに……」
「こんなこと、が起きちまったよな」
Gはぐい、とイェ・ホウの肩を掴み、自分の方を向かせる。
「お説教はごめんだよ」
それでもまたそれだけ言う気力はあるか。Gはふん、と鼻を鳴らすと、真正面に引き寄せる。
「説教じゃないさ。これは事実だ」
びく、とイェ・ホウはGの迫力に震える。
「お前のねーさんがお前のせいで捕まった、ってのはどうしようもない事実なんだ。だから、どうすればいい?」
「ど、どうすればって」
「一つ一つ、考えろ。それが真っ当だと思ったら、俺はお前に手助けする。そうだな?」
そう言ってGはマオの方を見る。もちろんです、とマオはうなづいた。
「何をしたい? 何よりも一番に」
「……ねーちゃんを…… 助けたい」
「よし、それじゃそのためにどうすればいい?」
「居場所を…… 調べなくちゃ」
Gはマオの方に合図をする。マオは端末に何やら話しかける。
「場所は、突き止め次第連絡するそうです。自分の配下、十人程に今散らばらせてます」
「ありがとう。さて、居場所は何とかなる。じゃあお前はどうするべきだ?」
「……俺は……」
イェ・ホウは口ごもる。頭の中で、どうしようどうしよう、という思いがぐるぐると渦巻いて、どうにもならない様だ。こんな時の答えは、自分で見つけなくてはならない。人にどんな良いことを言われたとしても、納得はできないのだ。
「……俺が軽はずみだったんだ……」
ぼそぼそ、とそんなつぶやきがGの耳に飛び込む。あえて
Gは言葉をかけない。掛けるにしても、タイミングが必要なのだ。それを逃すと、受け入れられるものも、受け入れられない、ということもある。
「ねーちゃん……」
ナーイがそんなホウを心配そうに見ている。だが見られている当人は、その視線にも気付かない様だった。
―――と、びく、とその身体が跳ねた。
マオの持っていた端末が、コール音を立てたのだ。はい、とすぐにマオは向こう側の相手に声を送る。
「……なるほど。判った」
ぴ、と再び電子音がして、会話が切れる。
「判りました。……ホウお前、ねーさんが通っていたのって、大海総合病院か?」
少年は黙ってうなづく。
「その近くに、十三番倉庫ってあるだろう?」
「十三番…… レンガの倉庫は知ってるけど、あれ?」
「昔は十三あったんだ。どんどん取り壊されて、最後の十三番だけ残ったから、十三番倉庫、って親父さんは言っていた。そこに連れていかれたらしい」
「その十三番倉庫、を管理しているのは?」
Gは問いかける。
「九合社、ですね」
「げ」
イェ・ホウは思わず指で口を押さえた。
「この通りに本社があります。近くの星系への輸出入を取り扱う商社です」
「ふうん。歴史は長い?」
「長い、と言えば長いです。が、植民当初、からではない」
「戦争が関係している?」
マオはうなづく。
「知り合いかい?」
「……市場通りでいつもねーちゃんの薬を安く売ってくれる……」
「漢方薬屋のマオです。初めまして。いえ、お久しぶりという感じです」
そういうことか、とGは思った。
無論自分には覚えは無い。だが自分という存在が何処かでこの青年に出会っているのか、もしくは知れ渡っているのだろう。
とすると。
「今の俺は、君等がどういうつながりなのか判らないけれど、俺にとっては味方なんだな?」
「はい」
マオは硬そうな髪を短く刈り込んだ頭をさっと下げる。
「我々は、いつになるのか判らないけれど、あなたが現れる時にはあなたがそれを判っていてもいなくとも、そうすべきだと言われてきましたから」
Gはうなづいた。
「―――何だよあんた?」
イェ・ホウはいきなり変わった知り合いの態度と、この唐突に自分の前に現れた謎の人物とを見比べ、顔を歪める。何なんだ一体。
「……まさか、最初から」
がし、とマオはイェ・ホウの頭をはたく。
「違うんだよ! ……けどお前がなあ」
「はあ?」
意味も判らず困惑した表情のイェ・ホウを見て、くす、とGは口の端で笑う。なるほど、彼らは俺がこの子を知ってるということがどういう意味か知ってるのか。
「今の俺には判らない部分が多いんだけど、なるほど、この街にも俺が居ても構わない場所があるんだな」
「はい」
マオは大きくうなづいた。
自分が言葉をきちんと交わしたのは、あの老人くらいしかない。関わっているのは間違いないだろう。
「ではあの裏布のことも、聞いてるんだろう?」
「はい。いずれにせよ、ああいうものは、我々の勢力範囲内では排除してきました。……ちょうど良い、口実となります」
「そうだな」
Gはにやりと笑う。
「あれ」
何が何だか判らない、とまた泣きそうな顔になっていたナーイが、イェ・ホウの腰のあたりをじっと見る。
「鳴ってるよ、ホウ」
「鳴って?」
イェ・ホウは腰のポケットに手をやる。何処で手に入れたのか、小型の端末がその手の中にはあった。ちら、と小窓をのぞくと、表情が変わった。
「……ねーちゃん!」
少年は思わず叫んでいた。
「どうした?」
「ねーちゃんが、俺を呼んでる」
「何かあったのか?」
「ちょっと待って下さい」
マオもまた、前掛けのポケットから、やや形の違う端末を取り出す。耳に当て、誰かを呼びだしている様だった。
「……そう、……何?」
太めの眉がぐっと寄せられる。
「……大変だ、お前のねーさんが、連れ去られた」
「俺のせいだ!」
その結論に瞬間的に行き着いたのは見事だ、とGは思う。
「一応こっちも、メィランの周囲に人をやっていたのですが」
「メィラン?」
「ホウの姉です」
「どうしよう…… ねーちゃん、逃げることはできないんだ……」
普段から寝たり起きたりだったら、確かにそんな荒事には対処できないだろう。
「こんなことが起きちゃ困るから、と端末を渡しておいたのに……」
「こんなこと、が起きちまったよな」
Gはぐい、とイェ・ホウの肩を掴み、自分の方を向かせる。
「お説教はごめんだよ」
それでもまたそれだけ言う気力はあるか。Gはふん、と鼻を鳴らすと、真正面に引き寄せる。
「説教じゃないさ。これは事実だ」
びく、とイェ・ホウはGの迫力に震える。
「お前のねーさんがお前のせいで捕まった、ってのはどうしようもない事実なんだ。だから、どうすればいい?」
「ど、どうすればって」
「一つ一つ、考えろ。それが真っ当だと思ったら、俺はお前に手助けする。そうだな?」
そう言ってGはマオの方を見る。もちろんです、とマオはうなづいた。
「何をしたい? 何よりも一番に」
「……ねーちゃんを…… 助けたい」
「よし、それじゃそのためにどうすればいい?」
「居場所を…… 調べなくちゃ」
Gはマオの方に合図をする。マオは端末に何やら話しかける。
「場所は、突き止め次第連絡するそうです。自分の配下、十人程に今散らばらせてます」
「ありがとう。さて、居場所は何とかなる。じゃあお前はどうするべきだ?」
「……俺は……」
イェ・ホウは口ごもる。頭の中で、どうしようどうしよう、という思いがぐるぐると渦巻いて、どうにもならない様だ。こんな時の答えは、自分で見つけなくてはならない。人にどんな良いことを言われたとしても、納得はできないのだ。
「……俺が軽はずみだったんだ……」
ぼそぼそ、とそんなつぶやきがGの耳に飛び込む。あえて
Gは言葉をかけない。掛けるにしても、タイミングが必要なのだ。それを逃すと、受け入れられるものも、受け入れられない、ということもある。
「ねーちゃん……」
ナーイがそんなホウを心配そうに見ている。だが見られている当人は、その視線にも気付かない様だった。
―――と、びく、とその身体が跳ねた。
マオの持っていた端末が、コール音を立てたのだ。はい、とすぐにマオは向こう側の相手に声を送る。
「……なるほど。判った」
ぴ、と再び電子音がして、会話が切れる。
「判りました。……ホウお前、ねーさんが通っていたのって、大海総合病院か?」
少年は黙ってうなづく。
「その近くに、十三番倉庫ってあるだろう?」
「十三番…… レンガの倉庫は知ってるけど、あれ?」
「昔は十三あったんだ。どんどん取り壊されて、最後の十三番だけ残ったから、十三番倉庫、って親父さんは言っていた。そこに連れていかれたらしい」
「その十三番倉庫、を管理しているのは?」
Gは問いかける。
「九合社、ですね」
「げ」
イェ・ホウは思わず指で口を押さえた。
「この通りに本社があります。近くの星系への輸出入を取り扱う商社です」
「ふうん。歴史は長い?」
「長い、と言えば長いです。が、植民当初、からではない」
「戦争が関係している?」
マオはうなづく。
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