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第25話 サボン、父との決別とセンとの出会い
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サヘ将軍が息子とその友人を連れてやってきたのは、それから少し後だった。
食事が何とか終わった頃だった。
「……」
「……」
タボーとエモイは呆気にとられてその様子を眺めた。何か言いたいのだろう、とサボンは二人を見て思ったが、あえて口をつぐんだ。
がつがつ、がつがつ。
良家の令嬢にはあってはならない程旺盛な食欲を見せて、アリカは運ばれて来る料理を口にした。
そしてその時々に、やはり力の加減を間違う様で、匙を曲げたり皿にひびを入らせていた。
ふう、と最後の茶を口にした時には、半ば使いものにならなくなった食器が卓の上に山と積まれる羽目になった。
「だ、大丈夫なんですかね、サボンさん、女君は」
「大丈夫、らしいわよ……」
囁くタボーに、サボンは肩をすくめた。しかも一体身体の何処に入ったのだろう、腹は少しも膨れていない。
「ま、ともかくあんたは少しお休みなさいな」
「え、でも私も片づけを」
「将軍様がいらっしゃるんじゃないですかね? 私達はそっち向きじゃあないですよ」
ではお言葉に甘えて、とサボンはアリカの方へと戻った。
ようやく茶器を持つ感覚が判ったらしく、アリカは茶をすすっていた。
その様子を控えの間で、椅子を引き出して眺めているうちに、サボンはついうとうとしてしまったらしい。
目覚めたのは、父の声。
「サボナンチュ」
肩を掴む力。暖かい手。
はっ、と目を開く。思わずお父様、と言いそうになった。口を開きかけた。
違う、使うべき言葉は。しなくてはならない態度は。
「将軍様」
勢い良く立ち上がると、すっと頭を下げた。
「申し訳ございません。この様な格好で」
「うむ」
将軍は短くそう言うと、うなづいた。父の後ろには、兄と、見知らぬ青年が二人。
「―――あれはどうか?」
将軍は問い掛ける。あれ。それは自分だったもの。今のアリカ。
「お目覚めになられ、少々お気が高ぶっていらっしゃる様です。アリカ様は」
そうか、と将軍はうなづき、寝室の方へと向かった。兄はサボンを見ると、微妙に表情を歪めた。そして何も言わず、父の後へとついて行った。
胸がくっ、と締め付けられる思いだった。
と。
「僕等は入ってもいいのかな?」
穏やかな声が、背後からした。振り向くと、背の高い眼鏡の青年が自分に問い掛けていた。
「あの……?」
「やっぱりここまでかな。入れるのは。さすがに」
「さあ…… 私には判りかねます」
「誰だ?」
もう一人が問い掛ける。低い声だ。弾かれる様にサボンはその男を見た。
「はい?」
「女官か?」
「まあ、そんなものです。未だ正式ではないですが」
「お付きなんだね」
眼鏡の青年―――サハヤはアリカと視線を合わせる様に軽く身を屈めた。アリカは反射的に身をすくめた。サハヤはそんな彼女を見てにっこりと笑った。
「何も怖がらせるつもりは無いんだよ。僕等は君の若様の、友達だから」
「ああ」
サボンはそこで詰まった。そう言えば。記憶をひっくり返す。時々副帝都に戻ってくる兄の話の中には、出来のいい同僚がよく出てきたものだ。
「もしや、都城周衛の……」
「ああ、聞いたこと、あるんだね」
ある。あるのだが。あるのだが……
「おい」
背後の男――― センが、サハヤの肩をぐいと掴む。
「何だよセン」
「困っているぞ」
「困って?」
え。サボンは目を広げる。男の視線は自分の方へと向けられる。
「困っているのではないか?」
ええと。ますますサボンは目を大きくする。そうだ。
何で、判ったんだろう。
サボンは驚いた。自分も今、判ったばかりなのに。
「ウリュン!」
低い声は、兄の名を呼ぶ。
「我々は周衛官舎の方へと戻る」
言うが早く、センは何か言いたげなサハヤを引きずる様にして、北離宮から去って行った。
何なんだあのひとは。
玉砂利の音が遠くなって行くのを聞きながらも、サボンは目を丸くしたまま、しばらくその場から動けなかった。
「サボンさん、将軍様には何かお出ししなくていいんですかね… あれ?」
問い掛けたタボーは驚いた。
「サボンさん」
え、と振り向くサボンに、タボーはひょい、と手巾を渡す。
「疲れてたんですね。お拭きなさいな」
「何……」
「顔がくちゃくちゃですわ。将軍様に見せちゃあいけませんよ。そんな顔」
顔。慌ててサボンは自分の頬に触れる。濡れている。
泣いていたのか。ようやく彼女はそのことに気付いた。
「今日はゆっくりお休みなさいな」
「疲れてないわ」
「疲れてるんです。そういう時には、同僚なんですから頼んなさいよ」
そういうものなのか、とサボンは手巾を受け取りながらうなづいた。
食事が何とか終わった頃だった。
「……」
「……」
タボーとエモイは呆気にとられてその様子を眺めた。何か言いたいのだろう、とサボンは二人を見て思ったが、あえて口をつぐんだ。
がつがつ、がつがつ。
良家の令嬢にはあってはならない程旺盛な食欲を見せて、アリカは運ばれて来る料理を口にした。
そしてその時々に、やはり力の加減を間違う様で、匙を曲げたり皿にひびを入らせていた。
ふう、と最後の茶を口にした時には、半ば使いものにならなくなった食器が卓の上に山と積まれる羽目になった。
「だ、大丈夫なんですかね、サボンさん、女君は」
「大丈夫、らしいわよ……」
囁くタボーに、サボンは肩をすくめた。しかも一体身体の何処に入ったのだろう、腹は少しも膨れていない。
「ま、ともかくあんたは少しお休みなさいな」
「え、でも私も片づけを」
「将軍様がいらっしゃるんじゃないですかね? 私達はそっち向きじゃあないですよ」
ではお言葉に甘えて、とサボンはアリカの方へと戻った。
ようやく茶器を持つ感覚が判ったらしく、アリカは茶をすすっていた。
その様子を控えの間で、椅子を引き出して眺めているうちに、サボンはついうとうとしてしまったらしい。
目覚めたのは、父の声。
「サボナンチュ」
肩を掴む力。暖かい手。
はっ、と目を開く。思わずお父様、と言いそうになった。口を開きかけた。
違う、使うべき言葉は。しなくてはならない態度は。
「将軍様」
勢い良く立ち上がると、すっと頭を下げた。
「申し訳ございません。この様な格好で」
「うむ」
将軍は短くそう言うと、うなづいた。父の後ろには、兄と、見知らぬ青年が二人。
「―――あれはどうか?」
将軍は問い掛ける。あれ。それは自分だったもの。今のアリカ。
「お目覚めになられ、少々お気が高ぶっていらっしゃる様です。アリカ様は」
そうか、と将軍はうなづき、寝室の方へと向かった。兄はサボンを見ると、微妙に表情を歪めた。そして何も言わず、父の後へとついて行った。
胸がくっ、と締め付けられる思いだった。
と。
「僕等は入ってもいいのかな?」
穏やかな声が、背後からした。振り向くと、背の高い眼鏡の青年が自分に問い掛けていた。
「あの……?」
「やっぱりここまでかな。入れるのは。さすがに」
「さあ…… 私には判りかねます」
「誰だ?」
もう一人が問い掛ける。低い声だ。弾かれる様にサボンはその男を見た。
「はい?」
「女官か?」
「まあ、そんなものです。未だ正式ではないですが」
「お付きなんだね」
眼鏡の青年―――サハヤはアリカと視線を合わせる様に軽く身を屈めた。アリカは反射的に身をすくめた。サハヤはそんな彼女を見てにっこりと笑った。
「何も怖がらせるつもりは無いんだよ。僕等は君の若様の、友達だから」
「ああ」
サボンはそこで詰まった。そう言えば。記憶をひっくり返す。時々副帝都に戻ってくる兄の話の中には、出来のいい同僚がよく出てきたものだ。
「もしや、都城周衛の……」
「ああ、聞いたこと、あるんだね」
ある。あるのだが。あるのだが……
「おい」
背後の男――― センが、サハヤの肩をぐいと掴む。
「何だよセン」
「困っているぞ」
「困って?」
え。サボンは目を広げる。男の視線は自分の方へと向けられる。
「困っているのではないか?」
ええと。ますますサボンは目を大きくする。そうだ。
何で、判ったんだろう。
サボンは驚いた。自分も今、判ったばかりなのに。
「ウリュン!」
低い声は、兄の名を呼ぶ。
「我々は周衛官舎の方へと戻る」
言うが早く、センは何か言いたげなサハヤを引きずる様にして、北離宮から去って行った。
何なんだあのひとは。
玉砂利の音が遠くなって行くのを聞きながらも、サボンは目を丸くしたまま、しばらくその場から動けなかった。
「サボンさん、将軍様には何かお出ししなくていいんですかね… あれ?」
問い掛けたタボーは驚いた。
「サボンさん」
え、と振り向くサボンに、タボーはひょい、と手巾を渡す。
「疲れてたんですね。お拭きなさいな」
「何……」
「顔がくちゃくちゃですわ。将軍様に見せちゃあいけませんよ。そんな顔」
顔。慌ててサボンは自分の頬に触れる。濡れている。
泣いていたのか。ようやく彼女はそのことに気付いた。
「今日はゆっくりお休みなさいな」
「疲れてないわ」
「疲れてるんです。そういう時には、同僚なんですから頼んなさいよ」
そういうものなのか、とサボンは手巾を受け取りながらうなづいた。
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