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第27話 皇帝と太公主のむかしばなし
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こんこんこん。
窓枠を叩く音。弱い光が、障子越しに室内に届く夜明け。
彼女は寝台から起きあがると、自ら窓を開く。その下にたたずむ男を優しく眺める。
「どうしたのですか、こんな時間に」
「入ってもよろしいですか」
返事を待つ。彼女は無言でうなづいた。ひらりと彼は窓を越える。
それはほんの数刻前に、別の離宮であった光景を思わせる。
だがここは北離宮ではない。広い後宮の、逆端に位置する南離宮だった。
緑が濃い、ひっそりとしたその場所に近寄る者はあまり居ない。
同じ人気が少ない場所であっても、北が新しい住人のための場所であるのに対し、この南は。
「あなたこそ、こんな時間に起きてらしたのですか」
男は――― 皇帝は、夜具姿の彼女に向かって、静かな声で問い掛ける。お座りになって、と彼女もまた、朝の空気に散じてしまう程の声で椅子を勧める。
「今、茶の用意を致しますわ」
「あなたがそんなことをする必要は無い」
「年寄りは朝が早いのです。それに私の少ない楽しみですもの」
灯を手に、そのひとは自ら厨房へと向かう。
配膳方が居ない訳ではない。お付きの女官が居ない訳でもない。
「若いひとはまだ、眠いのですよ」
彼女はいつも、そう言う。
確かに、現在のこの後宮にはこの貴人より年かさの女君は居ない。
今上の皇帝は、過去に沢山の女性を後宮に入れ、子を為すために住まわせた。
だが今は誰も居ない。彼が身体を重ねた女達は、既に都城を出ている。
郷里に帰った者も居れば、帝都や副帝都に邸を置き、そこを終の棲家とした者も居る。
彼女達は皆、自分から出て行った。
「爽やかな香りの茶だ」
「先日、桜様がいらしたのですよ」
「ルーシュが?」
はい、と彼女はうなづく。
「またいっそうお綺麗になられて」
「そうだったかな」
まあ、と彼女は口元に手を当て、笑う。
「昔のあなたを思い出す様な気もするのだが」
「それはおっしゃらないお約束ですわ」
一瞬こぼれた笑みに、翳りがさす。
「俺にとっては、あなたが誰よりも可愛らしかった。美しかった」
「昔のことですわ。それよりお美しくなられた公主様達の嫁ぎ先のことなどお考えなのでしょうか?」
「あれ等の母親に任せている」
「公主の結婚というものはそういうものではありませんでしょう。今までの時も、何度私も申し上げましたことやら。あなた様の御子でございますよ」
彼女は首を横に振る。ゆらゆらと、ゆるく束ねただけの髪が揺れる。
「元々俺は、別に娘など欲しくは無かった」
「―――陛下」
「そういう呼び方は嫌いだ、と俺は何度言った?」
どん、と茶器を卓に戻すと、皇帝は彼女の手を取った。
「いけません」
「何がいけない。俺は皇帝だ。義務さえ果たせば、好きなことをしていいと、奴らは言った。だから俺は」
「陛下――― カヤさん」
彼女は皇帝を見上げた。細めた目、軽く開けた唇。
それらが彼女の顔に、皺となり、深い陰影を残す。
「待たせ過ぎた。あなたを」
「それは……」
「どうやら、本当に、俺の世継ぎは誕生する様だ」
彼女は息を呑む。
「先日入った女が、目覚めた。目覚めたのだ。長い眠り、あの、どうしようもない身体に、なって、目覚めてくれたのだ。あれは俺の世継ぎを産む。誰もあれを傷つけることはできないだろう。俺は見た。あれは俺と同じだけの力を持つ」
そう言うと皇帝は腕を伸ばし、彼女を抱き締めた。
「俺はやっと、あなたと一緒になれる」
彼女は黙って皇帝の背に腕を回した。そしてその背を撫でる。ゆっくり、ゆっくり。
「あなたはあの時も、そうやって俺の背を撫でてくれたな」
「あなた様が、とても苦しそうだったから」
だがあの時とは違う。皇帝は苦々しく思う。
あれから、四十年が経っているのだ。
四十年前に出会った少女は、婚姻できる立場ではなく。
かと言って何処かへ嫁がせるのは嫌だった。
彼女の名はヤンサシャフェイ太公主。
先帝の末の公主であり―――「第三夫人の次女」。
そして、皇帝カヤが、その地位に就く前に恋した―――四十年前の少女。
今上の皇帝はまだその地位に就く前、カヤという名で呼ばれていた。
アリカに彼自身が言った様に、「宿屋の息子」だった。
皇帝どころか帝都に近寄ることすら、考えもつかなかった、ただの「宿屋の息子」。
確かに旅人から話を聞くのは楽しかった。
彼の生まれた頃統一された帝国、「武帝」と呼ばれる皇帝のもと、良くも悪くも変わって行く、あちこちの話。
遠い遠いところの、話。
帝都もまた然り。
それが自分に関わって来るなどと、生まれて二十年かそこらの彼には全く思いもよらぬものだった。
彼にとって、人生とは、毎日毎日の繰り返しだった。
平凡な。だがやって来る旅人のおかげで、退屈はしない日々。
「もっとも」
皇帝はくっ、と笑う。
「退屈という言葉自体、俺はここに来るまで知らなかったぞ」
生きていくことに精一杯な人間に「退屈」という言葉は似合わない。生活か時間に、極端な余裕が無ければ生じないものだ。
「良くも悪くも、あの女が来なければ!」
吐き捨てる様に皇帝は言う。
「母太后様のことをそうおっしゃるものではありません」
太公主は静かに彼の手を取る。その手は暖かい。
だが、冷えている。奥の奥で。
手ずから入れ、運んできた茶のおかげで表面は暖かいが、芯は冷えている。皇帝は思った。
冷えて、乾いている。まるでこの南離宮の様だ、と。
ひっそりとした場所。うっそうとした緑の中。
訪れる者も滅多に無く。
「寒くはないか?」
「何をおっしゃいます。充分な暖かさでございます」
「女官達はあなたに対して無礼なことをしないか?」
「今更。そんな者、居りません。皆、私と共に昔から居る者達ゆえ」
皆。だがその中には、既に他界した者も居る。
考えても詮無いことだと言うのに。
「カヤさん」
皇帝は顔を上げる。
「私は幸せですよ」
彼女はいつも、穏やかな笑みを浮かべて彼に言う。
四十年の間、言い続ける。言い続けてきた。
だがこの笑みを見るたびに、彼の胸は痛む。
もう少し早く。
何故、もう少し早く。
自分達に残された時間は、もう決して長くないのだ。
出会った時はまだ、彼女が十六、彼が二十四だった。
だが今は。
「今度の女君はどんな方ですか?」
「興味があるか? 珍しい」
「サヘ将軍の息女と聞きますが。勇猛な方なんでしょうか」
「む…… どうかな」
皇帝は口ごもる。
「まあ、あなたこそ、お珍しい」
太公主は軽く両手を合わせた。長い髪がゆらゆらと揺れた。
「何が」
「いつもどんな女君にも、ご関心を示されないあなたでしたのに」
「さすがに皇后になる女だ。多少の関心はある」
「でしょうね」
「皇后として、できるだけのことはさせてやろうと思う」
例えば、と彼女は問い掛けた。
「政治を」
太公主は眉を寄せた。
「それは――― 今まで、決してご夫人方の縁戚に配慮の一つもなさらなかったのに」
危険だ、という意味を言外に含める。皇帝はにやりと笑った。
「そこが夫人と皇后の差だ。同じであっては困る。夫人は結局、皇后の器ではなかった」
「……」
「皇帝の名において、皇后にそれだけの力を任せる。あれにはそれだけのものがある」
「ですが」
「皇帝を産む者が皇后だ。この帝国ではそうなっている」
そうなっているんだ、と彼は忌々しげに繰り返した。
「どんな出であれ、どんな凶状持ちであったにせよ! ……俺のあんな母親ですら、たいそうな尊称をもらっているくらいだ」
四十年。太公主は目を眇める。
長い月日だ。少女だった自分が残りの人生を数える様になってしまった。
だが彼は変わらない。
そしてまた、彼がその「母親」に対して下す評価も変わらない。
「風夏太后」という尊称を与えられ、そのままいずこともなく姿を消した、旧藩国「桜」出身の女性。
「今でも、あの女は何処かで何かやらかそうとしているはずだ。何せ皇后になれてしまった女だ。何か起こそうとしたらどうすればいいのか、よく判っているはずだ」
そうだろうか、と太公主は何度か問い掛けたことがある。彼の繰り言を聞くたびに。
すると彼は答えるのだ。
「何せあの女は、あの偉大な父上に、ただ復讐するために、平穏な幸せに浸っていた私を叩き起こし、桜の残党をも結集させたのだからな。私を旗印にして!」
しかもそれは成功しているのだから、とその時彼は笑った。
だから彼女はもうそのことについて問わない。
さぞ苦しいだろう、と太公主は思う。
誰かのことを、延々四十年も憎み続けるというのは。
だが彼女にはそれを止めることはできない。彼は母親を、三代の皇后を、憎みたがっているのだ。
彼女は知っている。彼はずっと、「四代皇帝」ではなく、「宿屋の倅」でありたかったことを。
即位したばかりの頃、宮中を退出したい、と願い出た彼女を無理矢理引き留めたのは彼だ。
彼はこう言ったのだ。
自分は全てあきらめる。あきらめて皇帝になるから、君はここに居てくれ、と。
きつくきつく、抱き締めながら、そう言って、泣いたのだ。
窓枠を叩く音。弱い光が、障子越しに室内に届く夜明け。
彼女は寝台から起きあがると、自ら窓を開く。その下にたたずむ男を優しく眺める。
「どうしたのですか、こんな時間に」
「入ってもよろしいですか」
返事を待つ。彼女は無言でうなづいた。ひらりと彼は窓を越える。
それはほんの数刻前に、別の離宮であった光景を思わせる。
だがここは北離宮ではない。広い後宮の、逆端に位置する南離宮だった。
緑が濃い、ひっそりとしたその場所に近寄る者はあまり居ない。
同じ人気が少ない場所であっても、北が新しい住人のための場所であるのに対し、この南は。
「あなたこそ、こんな時間に起きてらしたのですか」
男は――― 皇帝は、夜具姿の彼女に向かって、静かな声で問い掛ける。お座りになって、と彼女もまた、朝の空気に散じてしまう程の声で椅子を勧める。
「今、茶の用意を致しますわ」
「あなたがそんなことをする必要は無い」
「年寄りは朝が早いのです。それに私の少ない楽しみですもの」
灯を手に、そのひとは自ら厨房へと向かう。
配膳方が居ない訳ではない。お付きの女官が居ない訳でもない。
「若いひとはまだ、眠いのですよ」
彼女はいつも、そう言う。
確かに、現在のこの後宮にはこの貴人より年かさの女君は居ない。
今上の皇帝は、過去に沢山の女性を後宮に入れ、子を為すために住まわせた。
だが今は誰も居ない。彼が身体を重ねた女達は、既に都城を出ている。
郷里に帰った者も居れば、帝都や副帝都に邸を置き、そこを終の棲家とした者も居る。
彼女達は皆、自分から出て行った。
「爽やかな香りの茶だ」
「先日、桜様がいらしたのですよ」
「ルーシュが?」
はい、と彼女はうなづく。
「またいっそうお綺麗になられて」
「そうだったかな」
まあ、と彼女は口元に手を当て、笑う。
「昔のあなたを思い出す様な気もするのだが」
「それはおっしゃらないお約束ですわ」
一瞬こぼれた笑みに、翳りがさす。
「俺にとっては、あなたが誰よりも可愛らしかった。美しかった」
「昔のことですわ。それよりお美しくなられた公主様達の嫁ぎ先のことなどお考えなのでしょうか?」
「あれ等の母親に任せている」
「公主の結婚というものはそういうものではありませんでしょう。今までの時も、何度私も申し上げましたことやら。あなた様の御子でございますよ」
彼女は首を横に振る。ゆらゆらと、ゆるく束ねただけの髪が揺れる。
「元々俺は、別に娘など欲しくは無かった」
「―――陛下」
「そういう呼び方は嫌いだ、と俺は何度言った?」
どん、と茶器を卓に戻すと、皇帝は彼女の手を取った。
「いけません」
「何がいけない。俺は皇帝だ。義務さえ果たせば、好きなことをしていいと、奴らは言った。だから俺は」
「陛下――― カヤさん」
彼女は皇帝を見上げた。細めた目、軽く開けた唇。
それらが彼女の顔に、皺となり、深い陰影を残す。
「待たせ過ぎた。あなたを」
「それは……」
「どうやら、本当に、俺の世継ぎは誕生する様だ」
彼女は息を呑む。
「先日入った女が、目覚めた。目覚めたのだ。長い眠り、あの、どうしようもない身体に、なって、目覚めてくれたのだ。あれは俺の世継ぎを産む。誰もあれを傷つけることはできないだろう。俺は見た。あれは俺と同じだけの力を持つ」
そう言うと皇帝は腕を伸ばし、彼女を抱き締めた。
「俺はやっと、あなたと一緒になれる」
彼女は黙って皇帝の背に腕を回した。そしてその背を撫でる。ゆっくり、ゆっくり。
「あなたはあの時も、そうやって俺の背を撫でてくれたな」
「あなた様が、とても苦しそうだったから」
だがあの時とは違う。皇帝は苦々しく思う。
あれから、四十年が経っているのだ。
四十年前に出会った少女は、婚姻できる立場ではなく。
かと言って何処かへ嫁がせるのは嫌だった。
彼女の名はヤンサシャフェイ太公主。
先帝の末の公主であり―――「第三夫人の次女」。
そして、皇帝カヤが、その地位に就く前に恋した―――四十年前の少女。
今上の皇帝はまだその地位に就く前、カヤという名で呼ばれていた。
アリカに彼自身が言った様に、「宿屋の息子」だった。
皇帝どころか帝都に近寄ることすら、考えもつかなかった、ただの「宿屋の息子」。
確かに旅人から話を聞くのは楽しかった。
彼の生まれた頃統一された帝国、「武帝」と呼ばれる皇帝のもと、良くも悪くも変わって行く、あちこちの話。
遠い遠いところの、話。
帝都もまた然り。
それが自分に関わって来るなどと、生まれて二十年かそこらの彼には全く思いもよらぬものだった。
彼にとって、人生とは、毎日毎日の繰り返しだった。
平凡な。だがやって来る旅人のおかげで、退屈はしない日々。
「もっとも」
皇帝はくっ、と笑う。
「退屈という言葉自体、俺はここに来るまで知らなかったぞ」
生きていくことに精一杯な人間に「退屈」という言葉は似合わない。生活か時間に、極端な余裕が無ければ生じないものだ。
「良くも悪くも、あの女が来なければ!」
吐き捨てる様に皇帝は言う。
「母太后様のことをそうおっしゃるものではありません」
太公主は静かに彼の手を取る。その手は暖かい。
だが、冷えている。奥の奥で。
手ずから入れ、運んできた茶のおかげで表面は暖かいが、芯は冷えている。皇帝は思った。
冷えて、乾いている。まるでこの南離宮の様だ、と。
ひっそりとした場所。うっそうとした緑の中。
訪れる者も滅多に無く。
「寒くはないか?」
「何をおっしゃいます。充分な暖かさでございます」
「女官達はあなたに対して無礼なことをしないか?」
「今更。そんな者、居りません。皆、私と共に昔から居る者達ゆえ」
皆。だがその中には、既に他界した者も居る。
考えても詮無いことだと言うのに。
「カヤさん」
皇帝は顔を上げる。
「私は幸せですよ」
彼女はいつも、穏やかな笑みを浮かべて彼に言う。
四十年の間、言い続ける。言い続けてきた。
だがこの笑みを見るたびに、彼の胸は痛む。
もう少し早く。
何故、もう少し早く。
自分達に残された時間は、もう決して長くないのだ。
出会った時はまだ、彼女が十六、彼が二十四だった。
だが今は。
「今度の女君はどんな方ですか?」
「興味があるか? 珍しい」
「サヘ将軍の息女と聞きますが。勇猛な方なんでしょうか」
「む…… どうかな」
皇帝は口ごもる。
「まあ、あなたこそ、お珍しい」
太公主は軽く両手を合わせた。長い髪がゆらゆらと揺れた。
「何が」
「いつもどんな女君にも、ご関心を示されないあなたでしたのに」
「さすがに皇后になる女だ。多少の関心はある」
「でしょうね」
「皇后として、できるだけのことはさせてやろうと思う」
例えば、と彼女は問い掛けた。
「政治を」
太公主は眉を寄せた。
「それは――― 今まで、決してご夫人方の縁戚に配慮の一つもなさらなかったのに」
危険だ、という意味を言外に含める。皇帝はにやりと笑った。
「そこが夫人と皇后の差だ。同じであっては困る。夫人は結局、皇后の器ではなかった」
「……」
「皇帝の名において、皇后にそれだけの力を任せる。あれにはそれだけのものがある」
「ですが」
「皇帝を産む者が皇后だ。この帝国ではそうなっている」
そうなっているんだ、と彼は忌々しげに繰り返した。
「どんな出であれ、どんな凶状持ちであったにせよ! ……俺のあんな母親ですら、たいそうな尊称をもらっているくらいだ」
四十年。太公主は目を眇める。
長い月日だ。少女だった自分が残りの人生を数える様になってしまった。
だが彼は変わらない。
そしてまた、彼がその「母親」に対して下す評価も変わらない。
「風夏太后」という尊称を与えられ、そのままいずこともなく姿を消した、旧藩国「桜」出身の女性。
「今でも、あの女は何処かで何かやらかそうとしているはずだ。何せ皇后になれてしまった女だ。何か起こそうとしたらどうすればいいのか、よく判っているはずだ」
そうだろうか、と太公主は何度か問い掛けたことがある。彼の繰り言を聞くたびに。
すると彼は答えるのだ。
「何せあの女は、あの偉大な父上に、ただ復讐するために、平穏な幸せに浸っていた私を叩き起こし、桜の残党をも結集させたのだからな。私を旗印にして!」
しかもそれは成功しているのだから、とその時彼は笑った。
だから彼女はもうそのことについて問わない。
さぞ苦しいだろう、と太公主は思う。
誰かのことを、延々四十年も憎み続けるというのは。
だが彼女にはそれを止めることはできない。彼は母親を、三代の皇后を、憎みたがっているのだ。
彼女は知っている。彼はずっと、「四代皇帝」ではなく、「宿屋の倅」でありたかったことを。
即位したばかりの頃、宮中を退出したい、と願い出た彼女を無理矢理引き留めたのは彼だ。
彼はこう言ったのだ。
自分は全てあきらめる。あきらめて皇帝になるから、君はここに居てくれ、と。
きつくきつく、抱き締めながら、そう言って、泣いたのだ。
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