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第22話 今のうちに残桜衆を締めておこう。
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どうしたものか、と問われてアリカはすぐには答えなかった。
この宮中に潜んでいる「残桜衆」は皇帝の命によって自分の配下、ということになっている。実際それでさすがに妊娠も後期で動きづらかった時、幾分かの資料を用立ててもらったものだ。
だが彼等は基本的に「桜の残党」なのだ。その場合、彼等を組織した者―――に親しい太后の方に、より加担するものではないか?
皇帝カヤの命令。
彼等が桜の国の末裔としての血。
これはあくまで母方のものだ。となると、彼等は自分よりイチヤの命令に従う可能性が高い。
だが―――
「ダリヤ様」
「何だ?」
「イチヤ様は帝国のことについてはどう思っておられるのでしょうか?」
「は」
彼女は肩をすくめる。
「お主からその質問が出たのはありがたいな。あくまで主観で答えるぞ」
「はい」
「あやつは何も考えていない」
は、とアリカは耳を疑った。
「何も考えて――― いない? とは?」
「言葉通りだ。あれの世界は酷く狭い。そして頑強だ。その頑強さが、カヤを産ませた心の強さにもなっているが、ではお主も――― まあ私もだが、得た『知識』に関しては、理解していないし、する気もない。いや、一つだけ生かしたな。残桜衆を組織し、扇動する方法だ」
「それがあの方にはできると?」
「お主の『知識』の中にもなかなか手本となるものがあるのではないか?」
それに関してはややアリカは弱かった。
「ダリヤ様、私は今のところ技術の方にそれを見ることを偏らせすぎております……」
ぴしゃ、とダリヤは自身の額を叩く。
「まあそんなものか。だがそれでもお主はその技術を帝国全土に生かすための手段に関しては見たのだろう?」
「あ…… はい」
「あれはお主の様に、誰かのためにという発想は無いよ。全く!」
突き放す様に、吐き捨てる様に言い切った。
「だからそんなあれの言葉に、残桜衆が本当に付き従っているのか? それはお主が聞くことだ、今の皇后はお主だからな」
アリカは少しの間目をつぶった。
「朱? 居たら私の前に来てください。いえ、いらっしゃい」
声に力を込めた。空間が震える。
「お呼びで」
そう言って、奥から女官の形をした者が現れた。見た目は完全に女だった。が、その口から溢れる言葉は。
「朱ですか?」
「はい」
男のものだった。
「聞いておりましたね? 今の話を」
「はい」
「問いたい。其方は何に対して仕えているのか?」
先ほど同様――― いや、それより言葉の先に酷く鋭い刃を込めて問いかけた。
「桜の国から出た皇帝陛下と、その配偶者たる皇后陛下です。故にそちらの初后陛下に従う道理はございません」
「では其方達を組織した太后様は其方達の中でどういう位置づけになっているのか?」
「あの方は―――」
「答えに困る問いなのか?!」
激しい口調で問う。
「いつかそれを問われる日が来ることは判っていたであろう! だとしたら其方達自体の姿勢が問われることになるが?」
は、と次第に「朱」の姿勢が低くなって行く。
「―――もう止せ」
ダリヤの手がアリカの肩を掴んだ。
「お主の圧に、心の臓がキリキリと痛む様だ」
そういう効果もこの「声」にはあるのだ、とダリヤは暗に示していた。
「―――よかろう。朱」
「は…… はい」
「其方の次点は誰だ」
「え」
「其方は覚悟が足りない。よって次点の者を其方の位置につける。其方は皇帝陛下の元につくがいい」
「それは―――」
「朱より上なら、赤か?」
「現在の――― 我々の位置づけからすると、『朱』が一番上でございます……」
「次点は」
「『藍』で」
「ではそれをすぐ寄越しなさい。すぐに、です。そして引き継ぎを私の前でした後、其方は帰還する皇帝陛下の護衛に回りなさい」
「……はい……」
そしてまた音も無く、女の形をした者はその場から立ち去り、今度は本当の女を連れてやってきた。
「自分が『藍』でございます」
そう言ったのは、女というにはあまりにまだ幼い少女だった。自分より二つ三つ下というところだろうか。
「そうか。では其方が今から『朱』となるのだ」
「諾《はい》」
「そして見えない場所に居るのではなく、私の近くに居なさい。サボンと共に身の回りに」
「それは」
「正体の見えない護衛というのに対して本当に信頼できると思うのか?」
再び刃の言葉を投げる。びく、と少女の身体が震えた。大きく息をつくと、再び「諾」と少女は言った。
「其方が親から貰った名は?」
「……」
「それを呼ばれたくないなら、其方が呼ばれたい名を考えなさい。サボンの様に、呼ばれても問題が無いという名を」
「ハヅキ――― と申します。皇后陛下。ですがそれはぜひ口になさらないで下さい。夏の、芙蓉の花が咲く時期に生まれたゆえ。それ以外の名はありませんので、宜しければお好きな名を」
「フヨウの花」
「知識」がその花の姿を映し出す。夏の青い空の下咲く、鮮やかな色の、空へ空へと伸びようとする緑の合間に咲く花。やわやわとした花弁。
「ではその花の名で呼ぶ。其方はフヨウ。フヨウーリシェを中の名とするがいい」
この宮中に潜んでいる「残桜衆」は皇帝の命によって自分の配下、ということになっている。実際それでさすがに妊娠も後期で動きづらかった時、幾分かの資料を用立ててもらったものだ。
だが彼等は基本的に「桜の残党」なのだ。その場合、彼等を組織した者―――に親しい太后の方に、より加担するものではないか?
皇帝カヤの命令。
彼等が桜の国の末裔としての血。
これはあくまで母方のものだ。となると、彼等は自分よりイチヤの命令に従う可能性が高い。
だが―――
「ダリヤ様」
「何だ?」
「イチヤ様は帝国のことについてはどう思っておられるのでしょうか?」
「は」
彼女は肩をすくめる。
「お主からその質問が出たのはありがたいな。あくまで主観で答えるぞ」
「はい」
「あやつは何も考えていない」
は、とアリカは耳を疑った。
「何も考えて――― いない? とは?」
「言葉通りだ。あれの世界は酷く狭い。そして頑強だ。その頑強さが、カヤを産ませた心の強さにもなっているが、ではお主も――― まあ私もだが、得た『知識』に関しては、理解していないし、する気もない。いや、一つだけ生かしたな。残桜衆を組織し、扇動する方法だ」
「それがあの方にはできると?」
「お主の『知識』の中にもなかなか手本となるものがあるのではないか?」
それに関してはややアリカは弱かった。
「ダリヤ様、私は今のところ技術の方にそれを見ることを偏らせすぎております……」
ぴしゃ、とダリヤは自身の額を叩く。
「まあそんなものか。だがそれでもお主はその技術を帝国全土に生かすための手段に関しては見たのだろう?」
「あ…… はい」
「あれはお主の様に、誰かのためにという発想は無いよ。全く!」
突き放す様に、吐き捨てる様に言い切った。
「だからそんなあれの言葉に、残桜衆が本当に付き従っているのか? それはお主が聞くことだ、今の皇后はお主だからな」
アリカは少しの間目をつぶった。
「朱? 居たら私の前に来てください。いえ、いらっしゃい」
声に力を込めた。空間が震える。
「お呼びで」
そう言って、奥から女官の形をした者が現れた。見た目は完全に女だった。が、その口から溢れる言葉は。
「朱ですか?」
「はい」
男のものだった。
「聞いておりましたね? 今の話を」
「はい」
「問いたい。其方は何に対して仕えているのか?」
先ほど同様――― いや、それより言葉の先に酷く鋭い刃を込めて問いかけた。
「桜の国から出た皇帝陛下と、その配偶者たる皇后陛下です。故にそちらの初后陛下に従う道理はございません」
「では其方達を組織した太后様は其方達の中でどういう位置づけになっているのか?」
「あの方は―――」
「答えに困る問いなのか?!」
激しい口調で問う。
「いつかそれを問われる日が来ることは判っていたであろう! だとしたら其方達自体の姿勢が問われることになるが?」
は、と次第に「朱」の姿勢が低くなって行く。
「―――もう止せ」
ダリヤの手がアリカの肩を掴んだ。
「お主の圧に、心の臓がキリキリと痛む様だ」
そういう効果もこの「声」にはあるのだ、とダリヤは暗に示していた。
「―――よかろう。朱」
「は…… はい」
「其方の次点は誰だ」
「え」
「其方は覚悟が足りない。よって次点の者を其方の位置につける。其方は皇帝陛下の元につくがいい」
「それは―――」
「朱より上なら、赤か?」
「現在の――― 我々の位置づけからすると、『朱』が一番上でございます……」
「次点は」
「『藍』で」
「ではそれをすぐ寄越しなさい。すぐに、です。そして引き継ぎを私の前でした後、其方は帰還する皇帝陛下の護衛に回りなさい」
「……はい……」
そしてまた音も無く、女の形をした者はその場から立ち去り、今度は本当の女を連れてやってきた。
「自分が『藍』でございます」
そう言ったのは、女というにはあまりにまだ幼い少女だった。自分より二つ三つ下というところだろうか。
「そうか。では其方が今から『朱』となるのだ」
「諾《はい》」
「そして見えない場所に居るのではなく、私の近くに居なさい。サボンと共に身の回りに」
「それは」
「正体の見えない護衛というのに対して本当に信頼できると思うのか?」
再び刃の言葉を投げる。びく、と少女の身体が震えた。大きく息をつくと、再び「諾」と少女は言った。
「其方が親から貰った名は?」
「……」
「それを呼ばれたくないなら、其方が呼ばれたい名を考えなさい。サボンの様に、呼ばれても問題が無いという名を」
「ハヅキ――― と申します。皇后陛下。ですがそれはぜひ口になさらないで下さい。夏の、芙蓉の花が咲く時期に生まれたゆえ。それ以外の名はありませんので、宜しければお好きな名を」
「フヨウの花」
「知識」がその花の姿を映し出す。夏の青い空の下咲く、鮮やかな色の、空へ空へと伸びようとする緑の合間に咲く花。やわやわとした花弁。
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