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第三章 義兄の関係者をあたってみた

⑦姉のところで医者の所在を聞く

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 そんな尽きない話やらこの土地の環境やら色々と味わい、私は何だかんだで一週間この家に滞在した。

「また来てちょうだいね、遠くからのお客さんってやっぱり楽しいから」

 すっかり打ち解けたアルシャは出て行く前に袋二杯に甘辛い薄焼き菓子を作って渡してくれた。

「道中の食事で酔うと何だし、こういうのをぽりぽりつまんでいく程度がいいかもよ」

 そして彼女曰く、高速馬車に乗る際には自前の座布団があるといいと。
 惜しげも無く彼女はそれを私に一つ渡した。

「手紙を書きます」
「是非に! オネストがどういう反応をしたかの顛末は絶対に書いてね」

 彼女はそう言って一度ぐいっと私を抱きしめ、ぽんぽんと背を叩く。
 釣られて私もやり返した。



 実際甘辛い薄焼き菓子と座布団はとても役立った。
 帰り着いた時の尻の痛みは行きに比べてどれだけ少なかったことか!
 帝都に着くと、まだ日も高かったこともあり、お姉様のところへと向かった。
 義兄が帰ってくるのは夕刻過ぎだ。
 彼が帰る前に聞いておきたいことがあった。

「まあお帰りなさい。ナザリスのお家はどうだった?」

 お姉様は今日も今日とて、楽しげに赤子の世話をしていた。
 私はとん、と持っていった鞄を置くと、中から袋菓子を取り出す。

「楽しかったわ、あれこれと色んな話を聞けて。それに、あと向こうのお菓子。アルシャさんが一杯作って持たせてくれたから。ちょっと湿気ったかもしれないから、軽くあぶるといいかも」
「ああ! あっちの甘辛いお菓子ね! あれ昔食べてとても美味しかったのだけど、どういう味付けなのか分からなくて再現できなかったのよね」
「あ、レシピ色々もらってきたわ。果物の甘煮とかも」
「本当? 助かるわ。ミニヤも居るし、今度作ってみるわね。写させて」 

 そう言うとお姉様はいそいそと筆記用具を取り出した。
 道具箱に入ったそれは、よく使い込まれ、それでいて整然と揃えられている。

「お姉様の筆記用具箱はいつも綺麗よね」
「そうかしら? まあ貴女の様に年柄年中使う訳ではないからね」
「でも使い込まれていていい感じ」
「だってこのつけペン軸はお父様が昔選んでくださったものだもの。最近はあの人、万年筆を一本新調したい、と言っていたけど」
「新調させてやるつもり?」
「考え中」

 ふふ、とお姉様は笑った。

「ところでまずここに来たということは、お土産持ってきただけのことじゃないんでしょう?」

 ええ、と私は頷いた。

「お姉様、カイエ様を入院させた産科の先生のお話を聞きたいので、紹介状が欲しいの」
「あら、そっちに矛先が向いたのね。はいはい、ちょうど筆記用具も出したことだし。ああ、じゃあ私が紹介状書いているうちに、貴女レシピをこっちの紙に書き写してね。一つにつき一枚よ」

 そう言ってお姉様はクリーム色の少し厚手の紙を数枚私に差し出した。

「手間がかかる方を押しつけかしら?」
「考える方が手間がかかるとは思わなくて?」

 さっくり笑顔でそう返されてしまってはこっちも何も言えない。
 お互いカリカリとペン先の音を立てながら、子供の眠りを妨げない様に低い声で話を続ける。

「まさかカイエ様を入院させたところの先生が、昔あちらへ遊びに行ってもいたとは」
「あら、そもそもその辺りが繋がっていなかったら、私が産科の先生に気軽に相談するなどできないでしょう?」
「そうかしら」
「まあどっちかというと、無礼な方だし。でもまあ、口は軽いけど信用はおけるわね」
「何か矛盾してないかしら?」
「口が滑るのは、あれは性格ですもの。どうしようもないのでしょ。だけどカイエのところに押しかけたあのひとを必死で押しとどめてくれたのもコザータ先生なのよね。それに行ってみれば分かるけど、患者のひと達はあの性格に救われているのよ」

 そういうものか、と私は思った。
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