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10 ワイルド商会夫人アデライン(2)
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そう。
爵位などの呼称は国によって異なっていた。
「私達の住んでいた国では国王陛下の世継ぎは王太子ではなく大公でした。
王位自体、生まれた順でしたもの。
どんな子であれ!」
「それは貴族においても同様でしてな。
我々は何かこの国に来た時に、貴族が男ばかりだな、と不思議に思ったものですよ。
しかしそうではなかった。
単に、継いだ女性の呼称自体が『夫人』とついていただけだったのですな」
「実際継ぐ女性が少ないですので、わざわざ新たな名称を設けないのでしょう。
その一方で、わが国では離婚ができますが、そちらがいらしたお国では、離婚は認められていないでしょう?
些細でも大きなことですのよ。文化は」
「まあここは、うちの負けだ。
色仕掛けに失敗した我らは、何かしらの事業の譲歩をせねばなるまい?」
「ええ。
その辺りはまたゆっくりお話致しましょう。
何と言っても、そちらには魅力的な事業が沢山ございますもの。
そうですね、鉱山の経営権とか」
ルージュはにっこりと夫妻に笑いかける。
「さすがに鉱山はでかすぎる。
それに、この夫君だったら、その価値はあるかな?
むしろ、貴女の理想通りの結果に我々が導いたとも言えないかな?」
そうワイルド氏が言った時だった。
ティムスはぴょい、とバッタの様に身体を跳ね起こすと、アデラインに向かって突進して行った。
「全部…… 全部、君の言ったこと自体嘘だったのか?!」
「そんな力で胸元を掴まないでくださいな。
せっかくのドレスが破けてしまいますわ」
「ええそうですわ。
そんなことしたら、うちがこちらに弁償しなくてはならなくてよ。
それに今のお話聞いていました貴方?
そう。夫人は当初から貴方を通してうちから利益を得ようとしただけですのよ。
そうそう、貴方とのお付き合いがそうとう長いのも、アデライン様ですよね」
「……う……」
「私は多少なりとも、貴方からの弁解を聞きたいと思ってもいるのですが」
「お前が…… お前がいつも忙しくて……」
「ええ、だから玄人の方と遊べば良かったじゃないですか。何故そういうことをなさらなかったのか、と私は申しているのです」
「それは……」
「まあ少なくとも今の状態だけでも、離婚の条件としては十分だとは思いますけど。
そうでしょう? ロンダース弁護士」
「はい。
少なくとも四件の不貞の事実は、いくら男性優位になっているこの国の法律であれねさすがに見逃すことはできません。
なおかつ、ティムス氏は婿養子の身分。主たる侯爵夫人を差し置き、他家の夫人方や令嬢に手を出すなど、醜聞極まりない。
充分典礼省に提出すれば受けられられるものです」
「そうなのか!
そうだというのか?
どうにもならないのか?」
「少なくとも貴方がこのお茶会のはじめにあれこれ言った程度のことでは、どう転んでも覆すことはできませんわ」
「だが俺は!
そうしろと……!」
「そうしろと?
何ですか、まるで貴方に命令した誰かがいるかの様じゃないてすか。
そんなひとが居るんですか?
居るなら口にしてみたら良いのではないですか?
もうどうせ貴方の行き先は決まった様なもの」
「ど、どうなるって言うんだ……」
「慰謝料など貴方自身に求めたってちり一つ出て来ないのは判ってますわ。
身一つで出ていっていただきます。
他家の方々にも相応の見返りはいただきますが、もし貴方がエンドローズ嬢と結婚なさると言うならば、少なくとも貴方の寝床は確保できるというものですが?」
「い、嫌だ……」
「何が嫌ですか?
もしそうすれば、私からナイティア家への見返りは何も求めませんことよ」
「だが嫌だあああああ!
伯爵は軍人として名を馳せた方じゃないか!
さっき俺が殴られたのを見たろ?
ほら顔が」
「さて伯爵様、どう致しましょう」
「性根を叩き直すにはいい機会ですな。
そのお申し入れ、聞き届けましょうぞ」
伯爵はそう言って、ティムスの後ろ襟を掴んでずるずると自分達のテーブルの席に座らせた。
「嫌だああああ! 俺だけじゃないだろう!
そもそも最初に俺を誘ったのは!
サムウェラじゃないか!」
爵位などの呼称は国によって異なっていた。
「私達の住んでいた国では国王陛下の世継ぎは王太子ではなく大公でした。
王位自体、生まれた順でしたもの。
どんな子であれ!」
「それは貴族においても同様でしてな。
我々は何かこの国に来た時に、貴族が男ばかりだな、と不思議に思ったものですよ。
しかしそうではなかった。
単に、継いだ女性の呼称自体が『夫人』とついていただけだったのですな」
「実際継ぐ女性が少ないですので、わざわざ新たな名称を設けないのでしょう。
その一方で、わが国では離婚ができますが、そちらがいらしたお国では、離婚は認められていないでしょう?
些細でも大きなことですのよ。文化は」
「まあここは、うちの負けだ。
色仕掛けに失敗した我らは、何かしらの事業の譲歩をせねばなるまい?」
「ええ。
その辺りはまたゆっくりお話致しましょう。
何と言っても、そちらには魅力的な事業が沢山ございますもの。
そうですね、鉱山の経営権とか」
ルージュはにっこりと夫妻に笑いかける。
「さすがに鉱山はでかすぎる。
それに、この夫君だったら、その価値はあるかな?
むしろ、貴女の理想通りの結果に我々が導いたとも言えないかな?」
そうワイルド氏が言った時だった。
ティムスはぴょい、とバッタの様に身体を跳ね起こすと、アデラインに向かって突進して行った。
「全部…… 全部、君の言ったこと自体嘘だったのか?!」
「そんな力で胸元を掴まないでくださいな。
せっかくのドレスが破けてしまいますわ」
「ええそうですわ。
そんなことしたら、うちがこちらに弁償しなくてはならなくてよ。
それに今のお話聞いていました貴方?
そう。夫人は当初から貴方を通してうちから利益を得ようとしただけですのよ。
そうそう、貴方とのお付き合いがそうとう長いのも、アデライン様ですよね」
「……う……」
「私は多少なりとも、貴方からの弁解を聞きたいと思ってもいるのですが」
「お前が…… お前がいつも忙しくて……」
「ええ、だから玄人の方と遊べば良かったじゃないですか。何故そういうことをなさらなかったのか、と私は申しているのです」
「それは……」
「まあ少なくとも今の状態だけでも、離婚の条件としては十分だとは思いますけど。
そうでしょう? ロンダース弁護士」
「はい。
少なくとも四件の不貞の事実は、いくら男性優位になっているこの国の法律であれねさすがに見逃すことはできません。
なおかつ、ティムス氏は婿養子の身分。主たる侯爵夫人を差し置き、他家の夫人方や令嬢に手を出すなど、醜聞極まりない。
充分典礼省に提出すれば受けられられるものです」
「そうなのか!
そうだというのか?
どうにもならないのか?」
「少なくとも貴方がこのお茶会のはじめにあれこれ言った程度のことでは、どう転んでも覆すことはできませんわ」
「だが俺は!
そうしろと……!」
「そうしろと?
何ですか、まるで貴方に命令した誰かがいるかの様じゃないてすか。
そんなひとが居るんですか?
居るなら口にしてみたら良いのではないですか?
もうどうせ貴方の行き先は決まった様なもの」
「ど、どうなるって言うんだ……」
「慰謝料など貴方自身に求めたってちり一つ出て来ないのは判ってますわ。
身一つで出ていっていただきます。
他家の方々にも相応の見返りはいただきますが、もし貴方がエンドローズ嬢と結婚なさると言うならば、少なくとも貴方の寝床は確保できるというものですが?」
「い、嫌だ……」
「何が嫌ですか?
もしそうすれば、私からナイティア家への見返りは何も求めませんことよ」
「だが嫌だあああああ!
伯爵は軍人として名を馳せた方じゃないか!
さっき俺が殴られたのを見たろ?
ほら顔が」
「さて伯爵様、どう致しましょう」
「性根を叩き直すにはいい機会ですな。
そのお申し入れ、聞き届けましょうぞ」
伯爵はそう言って、ティムスの後ろ襟を掴んでずるずると自分達のテーブルの席に座らせた。
「嫌だああああ! 俺だけじゃないだろう!
そもそも最初に俺を誘ったのは!
サムウェラじゃないか!」
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