〈完結〉貴方、不倫も一つならまだ見逃しましたが、さすがにこれでは離婚もやむを得ません。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
9 / 17

9 ワイルド商会夫人アデライン(1)

しおりを挟む
 皆の視線がアデラインの元に向く。
 花器に挿されたデンドロビウムの花を手に取りながら、ぐるりと周囲を見渡す。

「さすがに『百合』のお嬢様はどうしようもなかったようですね。
 ちゃんと遊びなら遊びで済む様な相手を見繕わないから大変なことになるというのに」

 後を宜しく、とエンドローズ嬢の方は家族や院長、男爵と言った人々に任せ、次の女性にルージュは近づいて行く。

「貴女に関しては、実のところ、さほど追求しようとは思いませんでしたの」
「おや奥様。
 そうでしたか。
 と言うか、きっと私どもは、目的の相手を間違えたということなんでしょうね」
「ええ。
 貴女みたいな豊満な美人に惹かれない男はそうそう居ないでしょうから」
「そうかしら。
 もう子供も数人居る年増なのだけれど?」
「そうおっしゃりながらも、夏のドレスとなるととてもその形の良い大きな胸が素晴らしくよくお似合い! 
 貴女方夫妻と最初に会った時から、夫の顔がでれでれとしていたのは私も気付いておりましたわ。
 だからこそアデライン様、貴女は色仕掛けをしたのでしょう?」
「えっ」

 ティムスの声が不意に飛んだ。
 ほほほほ、と口元に手を添え、アデラインはルージュを見据えた。

「やっぱり貴女は気付いていたんですね」
「ええ。夫に近づいて、色んなものを商会から買わせましたよね。
 そちらの商会から購入したものを、貴女に差し上げる。
 貴女は全く損しないどころか、お金だけ丸儲けという次第。
 最終的には、我が家の事業と、そちらの事業との関係において、そちら側が有利になる様な条件をつけようとしたのではありませんか?」
「さすが女学者侯爵夫人。見事ですな」

 ぱちぱち、と夫君であるワイルド氏が手を叩く。

「ワイルド様。
 貴方は奥様のしていることを奨めこそすれ、止めはなさらなかったでしょう? 
 こう言っては失礼ですが、貴方のお子様方は、本当に貴方のお種ですか?」
「そんなこと」

 ワイルド氏は両手を広げる。

「愛する妻、素晴らしいパートナーである妻の産んだ子なら、それは全て私の子だ。
 我らが商会には多くの手駒が常に必要だ。
 これの選ぶ男は大概出来が良くてな。
 子供達も皆実に何かしら秀でたところがある者ばかりだ。
 そしてまあ好色なところも継ぎはするだろうから、この先わが商会は末広がりに広がるだろう。
 そう私は夢見ているがな」
「そこまでの意気ならばそれはそれで素晴らしいものですわ。
 奥様の行為そのものも商業活動だと」
「それは自分も同様。
 そう、我々のミスは、色仕掛けを夫君の方にしたことですな」

 ふふ、とルージュは微笑む。

「そう。
 そこは結構間違われるのですのよ。だって、我がローライン侯爵家を継いだのはあくまで私であって、彼は侯爵ではなく、あくくまで私の夫、配偶者でしかないのですから」
「そこが大きなミスだった!」
「ええ全く。
 私達は隣の国から移り住んできたので、称号のわずかな、だけど大きな差に気付かなかったのですわ。
 この国には『女侯爵』という地位の代わりに『侯爵夫人』という名になるなんて」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ここへ何をしに来たの?

恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。 「クリストフ・グランジュ様!」 凛とした声が響き渡り……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。

【完結】不貞三昧の夫が、『妻売り』すると聞いたので

との
恋愛
神も国法も夫の不貞如きでは離婚を認めない『離婚、暗黒時代』に、庶民の間では『妻売り』が行われていた。 妻を縄で縛り、公開の場で競りを行う『妻売り』は悪習か、やむにやまれぬ者達が捻り出した奇策か⋯⋯。 結婚前から愛人を作り、2度としないと言う約束で結婚したはずなのに⋯⋯愛人を作り続ける夫と離婚できない主人公アイラ。 夫が『妻売り』すると言いながら、競りの参加者を募っている場に遭遇したアイラは⋯⋯何を考え、どんな行動に出るのか。 『妻売り』自体は本当にあったお話ですが、このお話は⋯⋯もちろん、フィクション。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 8話で完結、公開予約設定済み。 R15は念の為・・

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

催眠術をつかって屋敷の自室に美女を囲っている侯爵から、離縁をつきつけられました

monaca
恋愛
婿養子として侯爵になったサイードは、自室にモーリンという金持ちの娘を囲っていた。 催眠術をつかえるという彼は、モーリンを思いのままに操って欲望を満たしつづける。 妻も住んでいる屋敷の、その一室で。 「あたしの財産があれば、あなたも安心よね?  爵位とか面倒なものは捨てて、一緒になりたいわ」 モーリンの言葉に彼の心は揺れる。 妻を捨てて、この馬鹿な娘と一緒になろう。 そう決意したサイードは、妻ジャクリーヌの待つ居間へと向かった。

夫に愛想が尽きたので離婚します

しゃーりん
恋愛
次期侯爵のエステルは、3年前に結婚した夫マークとの離婚を決意した。 マークは優しいがお人好しで、度々エステルを困らせたが我慢の限界となった。 このままマークがそばに居れば侯爵家が馬鹿にされる。 夫を捨ててスッキリしたお話です。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました

柚木ゆず
恋愛
 侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。  そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。  しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

処理中です...