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第29話 4/25-B 砂地でもたくましいものたち

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 ぽつんぽつんと建ってる農家というのは、案外庭を楽しくしようと花を咲かせていることも多いみたいだなー、とアタシは思う。
 いや違う、兄貴の受け売りだ。奴は高校を卒業する夏に自転車で北海道に行って、その時にあちこちの農家にも立ち寄った。
 色んな魂の叫びの中にこんなのもあった。

「いやー、ともかく皆道側のとこ花植えてるんだよなー」

 何でか、までは聞かなかったが。
 ちなみにねーさんとはその時つきあっててだな、奴は高卒でそのままウチ継ぐべく仕事し出して、……二十歳の時にでき婚となったよ。
 それからガキが一番上が中学生。つか、この騒ぎで入学式しかできてねえ状態やんけ!
 ……なのだが、当の本人は呑気にチャリチャリ出かけてる始末。おい密はどうした密は。
 でもまあ、さすがに皆そこんとこは学校からのお達しがあったようで。
 無論それなりに都合よく拡大解釈はしているけど、近場の連中と近場でしか遊ばないことにはしてるらしい。山の中で……
 それこそ小学校からの仲間だけでつるんでいる訳だ。となると、うちのあたりだと一学年が十名いるかどうか。その中で男子、……のうえで仲がいい奴って…… うん、本当に少ないね。
 そんでまたこの子等、外遊び好きなんだよ……
 仕方ねえな。対戦ゲームとかするにしても飽きるだろ。ネットは向き不向きがあるし。
  とか何とか思っているうちに、奴が着替えてやってきた。

「んじゃ行くかー」
「ういっす」

 軽トラに乗り込んで、れっつごー。



 さて買い出しそのものは済ませた後、その目当ての海岸辺りに。
 軽トラは「しばらく休み」のお庭公園の入り口にちょっと止めさせていただいた。時間は取らない、すまん! と内心言ったのは言うまでもない。
 普段だったらそれこそ野外ライヴにも使われるくらいの駐車場も何もなし。ただ内部で草刈りとかチェーンソーの音がするくらいなもので。

「こっちかな」

 奴が湖の橋の上から何やらコンクリートの階段らしきものを見つけた。

「怖い怖い怖い」

とか言いつつ下りてく辺り……
 本当に砂地で、はっきり言って海岸なんだが、ともかく……
 葦がそのうち伸びてくよなあ、とか、栴檀が花盛りになるよなあ、とか、野生のジャスミン半端ねえ、という状態だった。
 確か夏に通った時には野生の百合が一杯だった。潮風に散々やられてもこれだ。全くもって強いもんだ。

「あ、これこれ」

 こっちこっち、と白い花がむやみやたらに咲いてる方にアタシを手招きした。
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