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第24話 イリジャの好き嫌い多いガキの頃の友達
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「いやー、晴れて良かったなあ、キディ君」
ははは、とイリジャは宿泊先の窓から空をあおぎ、口を大きく開けて笑った。
「そうだね」
「何お前、元気無いよ?」
「そうかなあ?」
そうだよ、とイリジャはキディの両頬を掴んでくい、と上げさせる。
「ほら口元が下向いてる。笑って笑って」
「おいおいおいおい」
そういうものではないだろう、とは思うのだが、イリジャのこういう所はキディは憎めない。苦笑しながら、何となく気持ちが暖かくなってくるのを感じるのだ。
試合の朝、だった。
前日、ハルゲウから、「サンライズ」の試合が行われるコアンファンに向かい、その地で一晩過ごした。キディにしてみれば、久しぶりの長距離移動だったが、そこに相棒が居ないことが、ひどく不思議にも感じられた。
「でもお前荷物少ないねー」
彼の荷物を見てイリジャは言った。そうかな? とその時キディは問い返した。移動の時には荷物は少なく、が鉄則だったし、それがあまりにも長く彼の中に染み込んでいたので、他人から不思議がられるとも思っていなかったのだ。
「って、イリジャ、あんたは何持って来てるんだよ」
「何って」
いくら移動がエレカだとしても、たかが二泊の移動にその荷物は無いだろう、とキディは思う。着替えを初めとして、服も何やら、「宿泊地でのくつろぎ用」だの「観戦用」だのいちいち変える様に持ってきているらしい。
何となくそんな一挙動が微笑ましくもおかしく感じられる。
「それで、何時からだっけ?」
「デーゲームだからさ、一時かなあ。でも俺もらったチケット、内野の自由席だし、早くから並ばないと、いいとこ取れないと思うぜ?」
「そういうもの?」
「そういうもの。お前ベースボール好き、な割には知らない?」
「だって、生で見るのは初めてだもの」
「へえ」
イリジャはそう言って肩をすくめる。
「まあいいさ。とりあえず腹ごしらえに行こうぜ。近くにいい感じのベイグルの店があったんだ」
「……そういうとこにはめざといよなあ……」
ほら、とイリジャはウインドウの向こう側に見える二人連れを指して言う。手の中にはクリームチーズを塗ったプレイン・ベイグルのサンドがあった。皿の上にはもう一つ、チキン・サンドが乗っている。
「あれさあ、お仲間だぜ」
「え?」
キディは言われて初めて気付く。帽子をかぶり、何やら手には筒の様なものを持っている。
「中継とかでも、見たことねえ? 応援用の」
「ああ、メガホンか」
毒々しいまでの鮮やかな緑のメガホンが、彼の視界を横切って行く。
「サンライズのカラーって、ああいう色なの?」
「や、サンライズは赤と黒だぜ? 『日の出』なんだから」
「……そうだよね……」
そう言ってキディは自分のスモークサーモンのサンドにもかぶりつく。ベイグルのみっしりとした触感は食べでがある。彼はあごを一生懸命動かした。
「何だよじろじろ見て」
「いや、何か一生懸命食べてるなあ、と思って。お前、今好き嫌いってある?」
「無いよ」
「へえ」
イリジャは両眉を同時に上げた。
「結構ありそうに見えるけど」
「好き嫌いなんて! 食えればありがたいことだよ? 美味しければもっといい」
「そうだよな。それが一番いい」
そう言って、イリジャも大きな口を開けて、クリームチーズのベイグルにかぶりついた。
「俺のさ、まだガキの頃の友達にさ、結構好き嫌い多い奴が居てさ」
「へえ?」
「よく俺、そいつが食えないもの、横から取ってったもんだった」
「あんたなら結構やりそうだよな」
「んー、そのスモークサーモンのサンド、一口くれねえ?」
キディは笑って、一口だけだぞ、と差し出した。代わりに、とイリジャはチキンの方を差し出した。
ははは、とイリジャは宿泊先の窓から空をあおぎ、口を大きく開けて笑った。
「そうだね」
「何お前、元気無いよ?」
「そうかなあ?」
そうだよ、とイリジャはキディの両頬を掴んでくい、と上げさせる。
「ほら口元が下向いてる。笑って笑って」
「おいおいおいおい」
そういうものではないだろう、とは思うのだが、イリジャのこういう所はキディは憎めない。苦笑しながら、何となく気持ちが暖かくなってくるのを感じるのだ。
試合の朝、だった。
前日、ハルゲウから、「サンライズ」の試合が行われるコアンファンに向かい、その地で一晩過ごした。キディにしてみれば、久しぶりの長距離移動だったが、そこに相棒が居ないことが、ひどく不思議にも感じられた。
「でもお前荷物少ないねー」
彼の荷物を見てイリジャは言った。そうかな? とその時キディは問い返した。移動の時には荷物は少なく、が鉄則だったし、それがあまりにも長く彼の中に染み込んでいたので、他人から不思議がられるとも思っていなかったのだ。
「って、イリジャ、あんたは何持って来てるんだよ」
「何って」
いくら移動がエレカだとしても、たかが二泊の移動にその荷物は無いだろう、とキディは思う。着替えを初めとして、服も何やら、「宿泊地でのくつろぎ用」だの「観戦用」だのいちいち変える様に持ってきているらしい。
何となくそんな一挙動が微笑ましくもおかしく感じられる。
「それで、何時からだっけ?」
「デーゲームだからさ、一時かなあ。でも俺もらったチケット、内野の自由席だし、早くから並ばないと、いいとこ取れないと思うぜ?」
「そういうもの?」
「そういうもの。お前ベースボール好き、な割には知らない?」
「だって、生で見るのは初めてだもの」
「へえ」
イリジャはそう言って肩をすくめる。
「まあいいさ。とりあえず腹ごしらえに行こうぜ。近くにいい感じのベイグルの店があったんだ」
「……そういうとこにはめざといよなあ……」
ほら、とイリジャはウインドウの向こう側に見える二人連れを指して言う。手の中にはクリームチーズを塗ったプレイン・ベイグルのサンドがあった。皿の上にはもう一つ、チキン・サンドが乗っている。
「あれさあ、お仲間だぜ」
「え?」
キディは言われて初めて気付く。帽子をかぶり、何やら手には筒の様なものを持っている。
「中継とかでも、見たことねえ? 応援用の」
「ああ、メガホンか」
毒々しいまでの鮮やかな緑のメガホンが、彼の視界を横切って行く。
「サンライズのカラーって、ああいう色なの?」
「や、サンライズは赤と黒だぜ? 『日の出』なんだから」
「……そうだよね……」
そう言ってキディは自分のスモークサーモンのサンドにもかぶりつく。ベイグルのみっしりとした触感は食べでがある。彼はあごを一生懸命動かした。
「何だよじろじろ見て」
「いや、何か一生懸命食べてるなあ、と思って。お前、今好き嫌いってある?」
「無いよ」
「へえ」
イリジャは両眉を同時に上げた。
「結構ありそうに見えるけど」
「好き嫌いなんて! 食えればありがたいことだよ? 美味しければもっといい」
「そうだよな。それが一番いい」
そう言って、イリジャも大きな口を開けて、クリームチーズのベイグルにかぶりついた。
「俺のさ、まだガキの頃の友達にさ、結構好き嫌い多い奴が居てさ」
「へえ?」
「よく俺、そいつが食えないもの、横から取ってったもんだった」
「あんたなら結構やりそうだよな」
「んー、そのスモークサーモンのサンド、一口くれねえ?」
キディは笑って、一口だけだぞ、と差し出した。代わりに、とイリジャはチキンの方を差し出した。
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