93 / 125
落ちてきた場所を探して(帝国を終わらせるために)
第94話 可愛らしいお馬鹿な子
しおりを挟む
「彼は」
族長はナギに訊ねる。
「ユカリと言ったな。彼は一体」
「彼は、あの方が私につけた『手助け』ですが……」
そう言いかけて、彼女は苦笑する。
「逆ではないか、と時々思いますね。出会ってからこのかた。あの方は、むしろ私に、彼の成長の手助けをしろと無言で命令している様なものです」
「ほう。そういう感じなのかね」
面白そうに、族長は長いひげを撫でる。
「残桜衆のことをご存じですか? 族長」
「それは無論。あの三代の時代に滅ぼされた国の末裔の話は、何処でも有名であろう。しかし伝説となっているのが普通。さすがに現在どの地のどの様に散らばっているのかは、判らぬが。……しかしその一部が皇太后の手の中にあるということは、我々の様に辺境を移動する部族を統べる者は皆、それぞれ連絡を取り合って知っていることだ」
「今は高速通信の様に便利なものもありますものね。ならば話は早いです。……思った以上に、ひどい」
ナギはそう言いかけて、顔を軽くしかめた。
「あの方はそういうのがお嫌いだが、その下につくもの達は、自分達で自分達を縛っています。命令が絶対。疑問を持つべきじゃない。自分達は道具に過ぎない。そう言っている様に聞こえて、私はひどく苛立つのです」
「……なるほど。それで、根っからの自由人のそなたと一緒に行動すれば、それが少しでも解き放たれると?」
「どうでしょう」
ナギは苦笑を浮かべる。
「あの方はああ見えて、欲張りですから、私に一つのことを命令なさって、それでいて幾つもの結果が収穫されることを望んでらっしゃる。抜け目の無い方だ」
そしていつの間にか横で、おさまりの悪い髪を投げ出して眠ってしまったユカリの頬を軽く撫でる。
控えていた青年は、こうなることを見越していたのか、軽い毛皮を持ち出すと、ユカリの背にふわりと掛けていた。
「腕はいいのです。とっさの判断も悪くはない。おそらく次期の長か何かの候補なのでしょう。しかし彼が長になる頃、果たして彼が仕えるべき方はいらっしゃるのでしょうか」
「イラ・ナギ? それでは」
「判りません。けど、私があの方だったら」
冷たい手の感触に、夢でも見ているのか、ユカリはごろりと寝返りを打つ。一瞬顔をしかめるが、すぐにまた、すやすやと寝息を立て始める。
「こんな可愛らしいお馬鹿な子は、放っておく訳にはいかないでしょう?」
そしてナギはくすくす、と笑った。
族長はナギに訊ねる。
「ユカリと言ったな。彼は一体」
「彼は、あの方が私につけた『手助け』ですが……」
そう言いかけて、彼女は苦笑する。
「逆ではないか、と時々思いますね。出会ってからこのかた。あの方は、むしろ私に、彼の成長の手助けをしろと無言で命令している様なものです」
「ほう。そういう感じなのかね」
面白そうに、族長は長いひげを撫でる。
「残桜衆のことをご存じですか? 族長」
「それは無論。あの三代の時代に滅ぼされた国の末裔の話は、何処でも有名であろう。しかし伝説となっているのが普通。さすがに現在どの地のどの様に散らばっているのかは、判らぬが。……しかしその一部が皇太后の手の中にあるということは、我々の様に辺境を移動する部族を統べる者は皆、それぞれ連絡を取り合って知っていることだ」
「今は高速通信の様に便利なものもありますものね。ならば話は早いです。……思った以上に、ひどい」
ナギはそう言いかけて、顔を軽くしかめた。
「あの方はそういうのがお嫌いだが、その下につくもの達は、自分達で自分達を縛っています。命令が絶対。疑問を持つべきじゃない。自分達は道具に過ぎない。そう言っている様に聞こえて、私はひどく苛立つのです」
「……なるほど。それで、根っからの自由人のそなたと一緒に行動すれば、それが少しでも解き放たれると?」
「どうでしょう」
ナギは苦笑を浮かべる。
「あの方はああ見えて、欲張りですから、私に一つのことを命令なさって、それでいて幾つもの結果が収穫されることを望んでらっしゃる。抜け目の無い方だ」
そしていつの間にか横で、おさまりの悪い髪を投げ出して眠ってしまったユカリの頬を軽く撫でる。
控えていた青年は、こうなることを見越していたのか、軽い毛皮を持ち出すと、ユカリの背にふわりと掛けていた。
「腕はいいのです。とっさの判断も悪くはない。おそらく次期の長か何かの候補なのでしょう。しかし彼が長になる頃、果たして彼が仕えるべき方はいらっしゃるのでしょうか」
「イラ・ナギ? それでは」
「判りません。けど、私があの方だったら」
冷たい手の感触に、夢でも見ているのか、ユカリはごろりと寝返りを打つ。一瞬顔をしかめるが、すぐにまた、すやすやと寝息を立て始める。
「こんな可愛らしいお馬鹿な子は、放っておく訳にはいかないでしょう?」
そしてナギはくすくす、と笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!
虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん><
面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
現代にダンジョンが現れたので、異世界人とパーティ組んでみた
立風館幻夢/夜野一海
ファンタジー
世界を研究する「普通」の女子大学院生、「猪飼瑠璃(いかいるり)」、彼女は異世界人と友達になることを夢見て、日々研究に勤しんでいた。
ある日、いつものように大学院に向かっている最中、大地震に巻き込まれる。
……揺れが収まり、辺りを見ると、得体のしれないモンスターと猫獣人が現れた!?
あたふたしているうちに、瑠璃はダンジョンの中へと迷い込んでしまう。
その中で、エルフの少女、吸血鬼の少女、サキュバスの女性、ドワーフの男性と出会い、彼らとパーティを組むことになり……。
※男性キャラも数人登場しますが、主人公及びヒロインに恋愛感情はありません。
※小説家になろう、カクヨムでも更新中
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
ファンタジー
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる