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落ちてきた場所を探して(帝国を終わらせるために)
第110話 無防備だと思わせる
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「やはりここの焼き菓子は美味い。昔からあのひとは上手だった」
「そうなのか?」
「そう。お茶も一緒なんだが」
その言葉を口にしたナギの目は笑っていない。なるほど昔から、そういうことはあったのか、と彼は納得する。
『それで何処までが本当なんだ?』
彼は訊ねた。ナギもまた、ペンを取って答える。
『まあ嘘は言っていないだろう。実際ここからアージェンが乗り出すとしたら、ここしかない』
ぽん、と持ったペンでナギは女将が付けたらしい印の×点を指す。
「彼女が請け出された先は、隣町だ。しかも、この×点からだったら、この町からそこへ行くのとさほど変わらない」
「歩いても行ける、ってことか」
「贅沢などしたことはない子だったからな」
そしてとん、とそのペンを立て、そのまま向こう側へと転ばせた。
「いい子だったんだ、本当に。時々時間があると私と仲良くしていたのが、まあここの親爺には目障りだったようだがな」
「仲良く!?」
ユカリは顔をしかめた。やはりそういうことなのだろうか、と考え、そうなのだろうな、と思い返す。
「だからと言う訳ではないが、実際、見つけられるものなら見つけてやりたいものだ」
「大丈夫なのか?」
「あの方がおっしゃったことが本当なら、割合簡単に事は運ぶはずだ」
そして来い、と彼女は不意にユカリの手を引っ張り、寝台へと連れ込んだ。
「な」
何を、と聞こうとした彼の口は、彼女に塞がれていた。だがそれはそう長くは無かった。笑っていない目の持ち主は、耳元でささやく。
「さっきあの女は、鍵をかけていった」
「何だって」
「下手に逃げ出されないように、という算段だろうな。で、眠らせたところを当局に通報するか何かだろう。だいたいいつもそんな段取りだった」
それとこの体勢とどんな関係が、と彼は思う。
「無防備だと思わせるのはそう悪くはないだろう?」
そう言って、ナギはにやりと笑った。
*
何だってまあ、とユカリは厚手の布の下で、もぞもぞと動きながら、相手の上げる声にややあきれていた。こんな声も出るんだ。
しかしだからと言って、何かをしていた訳ではない。だいたい寝台の上に靴を履いたまま乗る者はいない。
彼らは着衣のまま、寝台に潜り込んで、何かしている様な音を立てながら、ややわざとらしいと思えるくらいの声を張り上げていた。そしてその声が、あまりにも今までに聞いた彼女のものとはかけ離れたものだったので…… ユカリは苦笑せずにはいられなかった。
そしてやがて、声を落とせ、と言うように彼女はユカリの口を手で塞いだ。頭まですっぽりとかぶった布の下、着衣のままとは言え、ほとんど抱きしめ合っている様な状態なのに、平然としている自分に彼は驚いていた。
―――耳を傾ける。みしみし、と木の床を踏みしめる音が、二人の耳に届く。立ち止まる気配。しかし少しばかりそこで何かをうかがっている様な気配。
鍵が開けられる気配。
扉はひどくゆっくり、音をさせない様に開けられた様だった。
「ちゃんと呑んでるよ」
「そりゃあそうだよ。そういう菓子なんだからね」
そして足音が近づく気配があった時―――
今だ、とナギはつぶやいた。
ユカリは起きあがると、それまで自分たちに掛けていた布を、無粋な訪問者の一人に投げつけた。うわ、という声が立ち、力まかせに投げつけたそれは、相手の平衡感覚を狂わせ、その場に尻餅をつかせた。
「あんた達! 起きてたのかい!」
人の良さそうな顔はそのままに、女将は叫んだ。ナギはそんな声には構わずに、地図だけを掴むと、ユカリの手を引いて、扉の外へ走り出た。
「そうなのか?」
「そう。お茶も一緒なんだが」
その言葉を口にしたナギの目は笑っていない。なるほど昔から、そういうことはあったのか、と彼は納得する。
『それで何処までが本当なんだ?』
彼は訊ねた。ナギもまた、ペンを取って答える。
『まあ嘘は言っていないだろう。実際ここからアージェンが乗り出すとしたら、ここしかない』
ぽん、と持ったペンでナギは女将が付けたらしい印の×点を指す。
「彼女が請け出された先は、隣町だ。しかも、この×点からだったら、この町からそこへ行くのとさほど変わらない」
「歩いても行ける、ってことか」
「贅沢などしたことはない子だったからな」
そしてとん、とそのペンを立て、そのまま向こう側へと転ばせた。
「いい子だったんだ、本当に。時々時間があると私と仲良くしていたのが、まあここの親爺には目障りだったようだがな」
「仲良く!?」
ユカリは顔をしかめた。やはりそういうことなのだろうか、と考え、そうなのだろうな、と思い返す。
「だからと言う訳ではないが、実際、見つけられるものなら見つけてやりたいものだ」
「大丈夫なのか?」
「あの方がおっしゃったことが本当なら、割合簡単に事は運ぶはずだ」
そして来い、と彼女は不意にユカリの手を引っ張り、寝台へと連れ込んだ。
「な」
何を、と聞こうとした彼の口は、彼女に塞がれていた。だがそれはそう長くは無かった。笑っていない目の持ち主は、耳元でささやく。
「さっきあの女は、鍵をかけていった」
「何だって」
「下手に逃げ出されないように、という算段だろうな。で、眠らせたところを当局に通報するか何かだろう。だいたいいつもそんな段取りだった」
それとこの体勢とどんな関係が、と彼は思う。
「無防備だと思わせるのはそう悪くはないだろう?」
そう言って、ナギはにやりと笑った。
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何だってまあ、とユカリは厚手の布の下で、もぞもぞと動きながら、相手の上げる声にややあきれていた。こんな声も出るんだ。
しかしだからと言って、何かをしていた訳ではない。だいたい寝台の上に靴を履いたまま乗る者はいない。
彼らは着衣のまま、寝台に潜り込んで、何かしている様な音を立てながら、ややわざとらしいと思えるくらいの声を張り上げていた。そしてその声が、あまりにも今までに聞いた彼女のものとはかけ離れたものだったので…… ユカリは苦笑せずにはいられなかった。
そしてやがて、声を落とせ、と言うように彼女はユカリの口を手で塞いだ。頭まですっぽりとかぶった布の下、着衣のままとは言え、ほとんど抱きしめ合っている様な状態なのに、平然としている自分に彼は驚いていた。
―――耳を傾ける。みしみし、と木の床を踏みしめる音が、二人の耳に届く。立ち止まる気配。しかし少しばかりそこで何かをうかがっている様な気配。
鍵が開けられる気配。
扉はひどくゆっくり、音をさせない様に開けられた様だった。
「ちゃんと呑んでるよ」
「そりゃあそうだよ。そういう菓子なんだからね」
そして足音が近づく気配があった時―――
今だ、とナギはつぶやいた。
ユカリは起きあがると、それまで自分たちに掛けていた布を、無粋な訪問者の一人に投げつけた。うわ、という声が立ち、力まかせに投げつけたそれは、相手の平衡感覚を狂わせ、その場に尻餅をつかせた。
「あんた達! 起きてたのかい!」
人の良さそうな顔はそのままに、女将は叫んだ。ナギはそんな声には構わずに、地図だけを掴むと、ユカリの手を引いて、扉の外へ走り出た。
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