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序 ある朝、婚約者を妹に渡された
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「テンダー、貴女婚約者を妹に譲りなさい」
ある日の朝食時、穏やかなはずの席で、唐突に母がそう言った。
咄嗟に私は父の方を見た。
父は黙って食事をしていた。
「え、でもそもそも私に来た話で、ずっと進んでいて、彼も私とそのつもりでお付き合いしてきて……」
「それはそうなんだけど、この間アンジーが学校から戻ってきたろう?」
「あ」
妹のアンジーは先日全寮制の女学校を卒業し、久々に家に戻ってきたところだった。
「帰還パーティの際にやってきたクライド君を見てアンジーがなあ」
語尾をぼかす父。
追い打ちをかける様な妹の声が私の耳に飛び込んできた。
「だってクライド様って格好いいし、今お家の方で修行なさっている事業の方にも有能ってことでしょう? それにこの間お会いした時に、私、ピピッと来たのよね」
何がピピッと来た、だ。
私のものだから取りたいんだろう。
「それにほら、お姉様とクライド様の婚約は家同士のものでしょう? 相手が私だって何の問題があるの?」
残念ながらそこには問題が何も無い。
これが例えば、妹が父の後妻の連れ子とか、身分の低い妾の子とか言うならまだともかく、話を切り出した母自身、この伯爵家の正夫人であり、私達は同母の姉妹なのだ。
要するに、ただただ私が彼等から見くびられているだけのことだ。
「わかりました。どうぞその様になさってください。ただしお父様にお願いが」
「何だ?」
「私、叔母様のところへ行かせていただけませんか?」
「カメリアの元に? 何故また」
「婚約解消ということでしょう? 婚約者を決めるには歳がやや過ぎてしまってますので、叔母様のところで修行をさせていただきたく」
カメリア叔母様は父の妹だ。
そして、未婚だ。
若い頃に帝都の女学校に出た際にドレスメーカーのサルト・ファタクスの技術に魅入られて、彼の工房に押しかけ弟子として入ってしまったのだ。
さすがに伯爵令嬢としてそれはどうかと、と何度も連れ戻されそうになったそうだが、現在はファタクスの直弟子として、独立した工房を立ち上げてある程度以上の評価を受けていた。
「あれと同じ様に生きるというのか!」
私にも言いたいことは山ほどあるが、そこはあえてスルー。
「いえ、ここで暮らすであろうアンジーとクライド様の邪魔になってはいけないと思っただけです」
「まあそうだろうな、お前の様な不器用者があれの様に大成できることなどあり得ないからな」
そう父は言うが、大成するまでどれだけカメリア叔母様のことをののしっていたのか、私は知っている。
だがそこもスルー。
ともかく帝都の叔母様とは常に連絡を取り合っていた。
そして何かあったら出てきなさいと。
「まあいい。そうだな、お前が元々の婚約者ということは知られているから、病気になって療養中ということにした方が結婚式への欠席理由としても良いな」
「はい。では」
私はたちどころに行動を開始した。
ある日の朝食時、穏やかなはずの席で、唐突に母がそう言った。
咄嗟に私は父の方を見た。
父は黙って食事をしていた。
「え、でもそもそも私に来た話で、ずっと進んでいて、彼も私とそのつもりでお付き合いしてきて……」
「それはそうなんだけど、この間アンジーが学校から戻ってきたろう?」
「あ」
妹のアンジーは先日全寮制の女学校を卒業し、久々に家に戻ってきたところだった。
「帰還パーティの際にやってきたクライド君を見てアンジーがなあ」
語尾をぼかす父。
追い打ちをかける様な妹の声が私の耳に飛び込んできた。
「だってクライド様って格好いいし、今お家の方で修行なさっている事業の方にも有能ってことでしょう? それにこの間お会いした時に、私、ピピッと来たのよね」
何がピピッと来た、だ。
私のものだから取りたいんだろう。
「それにほら、お姉様とクライド様の婚約は家同士のものでしょう? 相手が私だって何の問題があるの?」
残念ながらそこには問題が何も無い。
これが例えば、妹が父の後妻の連れ子とか、身分の低い妾の子とか言うならまだともかく、話を切り出した母自身、この伯爵家の正夫人であり、私達は同母の姉妹なのだ。
要するに、ただただ私が彼等から見くびられているだけのことだ。
「わかりました。どうぞその様になさってください。ただしお父様にお願いが」
「何だ?」
「私、叔母様のところへ行かせていただけませんか?」
「カメリアの元に? 何故また」
「婚約解消ということでしょう? 婚約者を決めるには歳がやや過ぎてしまってますので、叔母様のところで修行をさせていただきたく」
カメリア叔母様は父の妹だ。
そして、未婚だ。
若い頃に帝都の女学校に出た際にドレスメーカーのサルト・ファタクスの技術に魅入られて、彼の工房に押しかけ弟子として入ってしまったのだ。
さすがに伯爵令嬢としてそれはどうかと、と何度も連れ戻されそうになったそうだが、現在はファタクスの直弟子として、独立した工房を立ち上げてある程度以上の評価を受けていた。
「あれと同じ様に生きるというのか!」
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「いえ、ここで暮らすであろうアンジーとクライド様の邪魔になってはいけないと思っただけです」
「まあそうだろうな、お前の様な不器用者があれの様に大成できることなどあり得ないからな」
そう父は言うが、大成するまでどれだけカメリア叔母様のことをののしっていたのか、私は知っている。
だがそこもスルー。
ともかく帝都の叔母様とは常に連絡を取り合っていた。
そして何かあったら出てきなさいと。
「まあいい。そうだな、お前が元々の婚約者ということは知られているから、病気になって療養中ということにした方が結婚式への欠席理由としても良いな」
「はい。では」
私はたちどころに行動を開始した。
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