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第9話 予想外の言葉と勧誘の美女
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「多少は? ちょっと待ってよ、そいじゃあんた、あの二人も、いつものように離れていくと思ってた訳?」
「何となくね」
あっさりと言ってウーロン茶を飲み干すと、空いた缶にプルリングを押しこむ。微かな音が、響いた。
「何であんたも、そう思うの?」
「あのさFAV」
とりあえず座んなさい、と彼はそばに幾つか積まれていた丸椅子を指す。
自分で取っておいで、と言外に含めて。FAVはわざわざ音のするように勢いよくそれを置いた。
「それで? どうして? あたしに判るように言ってよ」
「たぶんお前にゃ耳に通っても、理解はできないんだと、思うよ」
「何で」
FAVは眉をひそめる。
「何はともあれ、俺達は、お前を女の子扱いしたかったんだ」
「何それ」
「別にマスコット扱いしたいとか、そーいうんじゃなくて、姉御でも女王様でも何でもいいんだ。とにかく、可愛がるでも敬うでもいいんだ。別のものでいて欲しかったんだよ」
「何だよ…… じゃあんた達はいつも、あたしをメンバーとして見てなかったって訳? あんたもそうだった、っていうの?」
FAVは彼の膝を平手で思いっきり叩く。
デニムの突っ張ったパン、といい音がした。イキは何も言わない。そしてFAVはつぶやく。
「あんたは違うと思ってたけれど」
ひどく陳腐な台詞だ、と彼女は言いながらも感じている。
違うと思いたかったけれど。
自分が何か言っているのを、遠目で見ているような自分がいるのが判る。
それまでやってきた連中が去っていったのはまぁいい。
今さっき彼が言ったこと以前の、何かに向けるベクトルの大きさが元々違っていたのだから。そう思えば、少しは気が楽になる。
だけど、この長い付き合いの友人までが、そういうふうに思っていたのには。
怒りと同時に、そうなるんじゃないかと思っていた自分もいることにも気付いてしまったのだ。
彼女は知っていたのだ。自分自身が、彼らを認めてはいなかった。
でも、去って言った彼ら、彼らを認める気は今でもない。
たぶんこれからもない。そういう人もいるんだ、と別世界のこととして認めるのはいい。でも、同じ場所でやっていく戦友として認める気はない。
「疲れてしまうんだよ、みんな」
イキはぼそっと言った。
「疲れる?」
「誰もがお前ほどの前向きなパワーを持ってるって訳じゃないんだ」
「あたしが前向き? 知らなかったね」
「前向きだよ。前向きすぎて、ついていけなくなるんだ」
「前向きの何処がいけないっての?」
「何もいけないとは言ってないよ。だけど誰もがそういう訳じゃないってことを」
その途端、頭に血が昇った。冷静なもう一人までもが、その時は彼女を止めることはできなかったらしい。
手のひらを精一杯広げて、彼女はイキのほっぺたを思いきり叩いていた。
今度はまともに彼のほっぺたが赤くなっている。
ごめん、と彼女はつぶやく。彼は叩かれたところを袋から出した缶コーヒーで冷やしながら、いいよ、と言う。
「悪い。かっとした」
「そりゃそうだろうさ。でもFAV、俺間違ったこと言ってるとは思わない。少なくとも、今まで去って行った奴が全面的に悪いとは言えない。FAVが悪いとも言えない」
「じゃ何が悪かったっていうよ」
「悪いんじゃなくて、『違った』んだ。それだけだよ。FAVが良くないとしたら、それは、見当違いのところを探していたことだけなんだ」
FAVは「は」と苦笑いしながら、
「口が上手いね、イキ。前からそうだった?」
「もう少し早く上手くなってれば、俺、お前に好きだと言えてたよ」
表情一つ変えず、彼は言った。
は?
FAVは目を丸くする。
ちょっと待て。
*
ばすばすと無惨な音を立てて枕が埃をたてる。たてているのはFAVだった。
ああ何ってかわいそーな枕ちゃん。だけどごめんよっ、とりあえず君しか叩くものがないんだっ、と彼女は内心呟きつつ。
壊すほどではないけれど、いまいち生産的なことをする気にもなれない。
洋楽のB級のパンク聴いているくらいじゃ、脳天気にもなれない。
古典的ハード・ロックは「何自分の世界に酔ってるんだよーっ」と言いたくなってくるからパス。本来それでいいはずなのに。
こう滅入ってくるようじゃ、生理が近いだろう、と彼女も予想はつく。
で、たいてい当日には頭はらりぱっぱのくせに、起きあがれないくらいに身体は辛くなる。
あー嫌だ嫌だ。
FAVは内心つぶやく。悩みごとがあるとそれがまともに身体にはくる。疲れる。ため息まじりにまた枕は変形してしまう。
「ったくもうっ!」
枕には悪いと思ったが、気がつくと、わしづかみにしてそれを壁に投げつけていた。
だが、投げた瞬間思いだしたが、彼女はそれこそガキの頃からコントロールというものが皆無だった。
壁に投げたと思ったのに――― それが判ったのは、声がしたからだった。
「ぎゃ」
「へ?」
当たったのと、ドアが開くのは同時だったらしい。枕は訪問者の顔にまともに当たってしまった。
「……あ…… 大丈夫ですか?」
「だ、だいじょほぶ」
あまり大丈夫そうでない声が聞こえる。
しまった。カギをかけ忘れていたらしい。
たいていは仕事が休みで部屋にいるときも、勧誘よけにカギとチェーンは忘れないというのに。かなり参ってるな、と反省する。
「ずいぶんなお出迎えですねぇ」
「はは」
FAVは力無く笑うと、改めて訪問者をまじまじと見た。
プラチナブロンドの長い髪の女。見覚えはない顔のような気がするんだが、かなり大柄。少なくともこの外見で勧誘はないだろう。
「ところで、どなたですか?」
「えーっ? もう忘れちゃったんですか?」
「?」
いやプラチナブロンドの知り合いは結構いるけれど。ただノーメイクで会うことはなかったので。
訪問者の彼女はFAVが判らない様子なのを見かねて、
「先日の打ち上げは楽しかった、とうちのバンドの連中も申しておりまして」
「そ、そりゃどうも」
先日の打ち上げ…… 大柄なプラチナブロンド……
「あーっ」
「やっと思い出していただけました?」
あのとき周囲をあおっていた、PH7のリーダーだった。
「何となくね」
あっさりと言ってウーロン茶を飲み干すと、空いた缶にプルリングを押しこむ。微かな音が、響いた。
「何であんたも、そう思うの?」
「あのさFAV」
とりあえず座んなさい、と彼はそばに幾つか積まれていた丸椅子を指す。
自分で取っておいで、と言外に含めて。FAVはわざわざ音のするように勢いよくそれを置いた。
「それで? どうして? あたしに判るように言ってよ」
「たぶんお前にゃ耳に通っても、理解はできないんだと、思うよ」
「何で」
FAVは眉をひそめる。
「何はともあれ、俺達は、お前を女の子扱いしたかったんだ」
「何それ」
「別にマスコット扱いしたいとか、そーいうんじゃなくて、姉御でも女王様でも何でもいいんだ。とにかく、可愛がるでも敬うでもいいんだ。別のものでいて欲しかったんだよ」
「何だよ…… じゃあんた達はいつも、あたしをメンバーとして見てなかったって訳? あんたもそうだった、っていうの?」
FAVは彼の膝を平手で思いっきり叩く。
デニムの突っ張ったパン、といい音がした。イキは何も言わない。そしてFAVはつぶやく。
「あんたは違うと思ってたけれど」
ひどく陳腐な台詞だ、と彼女は言いながらも感じている。
違うと思いたかったけれど。
自分が何か言っているのを、遠目で見ているような自分がいるのが判る。
それまでやってきた連中が去っていったのはまぁいい。
今さっき彼が言ったこと以前の、何かに向けるベクトルの大きさが元々違っていたのだから。そう思えば、少しは気が楽になる。
だけど、この長い付き合いの友人までが、そういうふうに思っていたのには。
怒りと同時に、そうなるんじゃないかと思っていた自分もいることにも気付いてしまったのだ。
彼女は知っていたのだ。自分自身が、彼らを認めてはいなかった。
でも、去って言った彼ら、彼らを認める気は今でもない。
たぶんこれからもない。そういう人もいるんだ、と別世界のこととして認めるのはいい。でも、同じ場所でやっていく戦友として認める気はない。
「疲れてしまうんだよ、みんな」
イキはぼそっと言った。
「疲れる?」
「誰もがお前ほどの前向きなパワーを持ってるって訳じゃないんだ」
「あたしが前向き? 知らなかったね」
「前向きだよ。前向きすぎて、ついていけなくなるんだ」
「前向きの何処がいけないっての?」
「何もいけないとは言ってないよ。だけど誰もがそういう訳じゃないってことを」
その途端、頭に血が昇った。冷静なもう一人までもが、その時は彼女を止めることはできなかったらしい。
手のひらを精一杯広げて、彼女はイキのほっぺたを思いきり叩いていた。
今度はまともに彼のほっぺたが赤くなっている。
ごめん、と彼女はつぶやく。彼は叩かれたところを袋から出した缶コーヒーで冷やしながら、いいよ、と言う。
「悪い。かっとした」
「そりゃそうだろうさ。でもFAV、俺間違ったこと言ってるとは思わない。少なくとも、今まで去って行った奴が全面的に悪いとは言えない。FAVが悪いとも言えない」
「じゃ何が悪かったっていうよ」
「悪いんじゃなくて、『違った』んだ。それだけだよ。FAVが良くないとしたら、それは、見当違いのところを探していたことだけなんだ」
FAVは「は」と苦笑いしながら、
「口が上手いね、イキ。前からそうだった?」
「もう少し早く上手くなってれば、俺、お前に好きだと言えてたよ」
表情一つ変えず、彼は言った。
は?
FAVは目を丸くする。
ちょっと待て。
*
ばすばすと無惨な音を立てて枕が埃をたてる。たてているのはFAVだった。
ああ何ってかわいそーな枕ちゃん。だけどごめんよっ、とりあえず君しか叩くものがないんだっ、と彼女は内心呟きつつ。
壊すほどではないけれど、いまいち生産的なことをする気にもなれない。
洋楽のB級のパンク聴いているくらいじゃ、脳天気にもなれない。
古典的ハード・ロックは「何自分の世界に酔ってるんだよーっ」と言いたくなってくるからパス。本来それでいいはずなのに。
こう滅入ってくるようじゃ、生理が近いだろう、と彼女も予想はつく。
で、たいてい当日には頭はらりぱっぱのくせに、起きあがれないくらいに身体は辛くなる。
あー嫌だ嫌だ。
FAVは内心つぶやく。悩みごとがあるとそれがまともに身体にはくる。疲れる。ため息まじりにまた枕は変形してしまう。
「ったくもうっ!」
枕には悪いと思ったが、気がつくと、わしづかみにしてそれを壁に投げつけていた。
だが、投げた瞬間思いだしたが、彼女はそれこそガキの頃からコントロールというものが皆無だった。
壁に投げたと思ったのに――― それが判ったのは、声がしたからだった。
「ぎゃ」
「へ?」
当たったのと、ドアが開くのは同時だったらしい。枕は訪問者の顔にまともに当たってしまった。
「……あ…… 大丈夫ですか?」
「だ、だいじょほぶ」
あまり大丈夫そうでない声が聞こえる。
しまった。カギをかけ忘れていたらしい。
たいていは仕事が休みで部屋にいるときも、勧誘よけにカギとチェーンは忘れないというのに。かなり参ってるな、と反省する。
「ずいぶんなお出迎えですねぇ」
「はは」
FAVは力無く笑うと、改めて訪問者をまじまじと見た。
プラチナブロンドの長い髪の女。見覚えはない顔のような気がするんだが、かなり大柄。少なくともこの外見で勧誘はないだろう。
「ところで、どなたですか?」
「えーっ? もう忘れちゃったんですか?」
「?」
いやプラチナブロンドの知り合いは結構いるけれど。ただノーメイクで会うことはなかったので。
訪問者の彼女はFAVが判らない様子なのを見かねて、
「先日の打ち上げは楽しかった、とうちのバンドの連中も申しておりまして」
「そ、そりゃどうも」
先日の打ち上げ…… 大柄なプラチナブロンド……
「あーっ」
「やっと思い出していただけました?」
あのとき周囲をあおっていた、PH7のリーダーだった。
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